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治療用アプリ開発における生物統計家への相談

僕は都内の大学病院で生物統計家として勤務しつつ、博士課程に進学をして生物統計学の研究に取り組んでいます。

博士課程では、治療用アプリをはじめとしたデジタルヘルスを対象にした臨床研究での統計学的な方法を研究しています。病院内でもデジタルヘルスを用いた研究が行われることがあり、そのような研究には実務家として携わっています。また副業というかたちで外部の企業とご一緒させて頂く機会もあります。

日本ではデジタルヘルスや治療用アプリの開発を進めている企業の多くがベンチャー企業です。

医薬品や医療機器を手掛ける企業であれば社内に生物統計家がいますが、ベンチャー企業に生物統計家が勤務していることはほぼないので、必要であれば外部の生物統計家とコラボレーションすることになります。

本記事では、どのようなタイミングで相談したほうがいいのか、相談することのメリット、相談の形式について考えていることをまとめました。


どのようなタイミングで相談するべきかはケースバイケースだとは思いますが、個人的には人を対象にした研究を行うタイミングで生物統計家にも相談しておくのがいいと思っています。

具体的なプロトコル作成や解析の業務がなくても、事前に何か問題がないかを確認しておくというイメージです。


治療用アプリを医療機器として上市するのであれば、生物統計家が全く関与しないということは考えにくいです。検証的な試験では間違いなく生物統計家が参画することになります。

ただ生物統計家に検証的な試験を行う段階ではじめて相談するというのは、かなりリスクがあると思っています。

まず、検証的な試験に必要な情報が探索的な試験をしたにも関わらず集められていない危険性があります。

検証的な試験のまえに探索的な試験を実施することも多いと思います。一般に探索的な試験の目的のひとつは、検証的な試験のデザインを決めるための情報を収集することです。

例えばアプリの治療効果の推定や効果の異質性などは、検証的な試験での症例数設計や対象集団の選定、主要評価項目の定義をする上で非常に重要です。またシャムアプリの盲検性の確認が必要かもしれません。

これらの情報が十分に集まっていなければ、いざ検証的な試験のデザインを設計するときに必要な情報がなく質の高い臨床試験を実施することが難しくなります。

探索的な試験を開始するときには、はじめから検証的な試験を見据えて、必要な情報は何か、またそれらの情報をどのように収集するのかを考えなければいけません。それらの条件を満たした研究デザインを考えるには生物統計の知識が求められると思います。


検証的な試験を行うタイミングで相談するということは、検証的な試験の実施有無はすでに決めた後ということになります。ただ「検証的な試験をする」という意思決定をする上で治験の規模などの情報はきちんと算出するためにも生物統計の知識がある人に相談しておく方が望ましいと思います。

例えば数百例の治験が要求されるのか、あるいは数千例の治験が要求されるのかといったことは非常に大きな違いになりますし、主要評価項目の設定によって半年の追跡期間になるのか、あるいは1,2年の追跡が必要になるかも変わってきます。

かなり大規模な治験が必要だと思っていたけれど意外と小規模でも実施できる場合や、逆に想定していたよりも大規模な治験や予想していなかったハードルが隠れていることもあります。


これらは生物統計家がいないときのリスクですが、生物統計家が関わることのベネフィットもあると思っています。

生物統計学の研究領域でも治療用アプリ開発に向けた探索的な研究のデザインが提案されています。

例えば、アプリの機能を最適化するための試験としてマイクロランダム化試験と呼ばれるデザインも提案がなされていますし、実験計画法をもとに議論がなされています。開発している製品にあわせて最適な研究デザインを選択することで、製品がより有効に使われるようにすることができるかもしれません。

近ごろ、SaMDの承認では2段階承認が議論されています。治験のようなかなりコントロールされた環境でのデータに比べて、リアルワールドデータのような実診療をベースとしたデータでの効果の推論は非常に難しいことが知られています。もし2段階承認を検討しているのであれば、より早期に統計家に参画してもらうのがいいと思います。


できるだけ早い時期から定期的に生物統計家と相談する機会を設けておくのがいいと思っています。

せっかく使っているプロダクトが研究デザインや統計の不手際で台無しになってしまうのは非常にもったいないです。

ぼくも数社であれば相談をお引き受けできると思いますので、もしご関心があればメールでご連絡ください(m.kondo1042[at]gmail.com)。

早めから相談しておいてその後、本格的に検証的な治験等を実施するのであれば改めて継続して治験業務を委託できるのか確認したり、別の生物統計家に依頼したりするのがいいと思います。

最後になりますが、ぼく自身デジタルヘルスには強く関心を持っていますし、医学を発展させていくために是非ご一緒したいと思っています。
引き続きよろしくお願いします。

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