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ゲームストップ株:匿名掲示板「レディット」と投資アプリ「ロビンフッド」発のトレンドに動揺するアメリカ #WallstreetBets

◆ イントロダクション

 米国の株式市場で起きている「ゲームストップ(GameStop、GME)」株価の乱高下が話題です。同社の株価はこれまでの最安値2.57ドルから483ドルへと上昇し、直後に132ドルに急落するという大波乱の値動きとなっています。

 この状況は1銘柄にまつわるニュースという枠を超えて、匿名掲示板や投資アプリといったインターネットカルチャーやテック系の目線でも語れることがありそうなので、その詳細をまとめてみました。

 なお、私はウォール街で働いたこともなければ、デイトレで100億円の富を築いたこともありません(笑)。ここから先の内容は一介のテック・ウォッチャーとしてのまとめと考察です(投資のアドバイスや金融商品の勧誘ではありません)。

◆ これまでの流れ(タイムライン)

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<2019年頃までの動き>
 GameStopの業績が低迷。先行きは極めて暗く、いわゆる「ク○株」状態が続いて売られまくるという悲惨な状況。

 例外的に、投資家のMichael Burry氏などがソニーやマイクロソフトが新型のゲームコンソールを発売する見込みであることからGameStop株も値上がりすると読み、ロングポジションをとったと発表するなどしているが、大半の人々は「GameStopを買うのは正気の沙汰ではない」と思っていた様子。

 » 参照:2019年9月の記事
 The Big Short’s Michael Burry Is Going Long GameStop Stock: Should You?

<2020年4月3日>
 GameStopの株価が最安値2.57ドルになる。この頃は、個人投資家も機関投資家も(というかほぼ全員)がGameStop株価は上がらないと思っていたはず。

<2020年夏頃>
 GameStopが不採算店舗の撤退を進めオンライン販売を強化した結果利益が向上するなど、業績と株価が上向く兆しがあった。また、GameStopとマイクロソフトとのパートナーシップが発表されるなど、明るいニュースもあったが市場の反応は鈍かった。

  » 参照:2020年8月の発表
  GameStop announces multiyear strategic partnership with Microsoft

 投資家Ryan Cohen氏がGameStop株の10%近く取得し「アマゾンのライバルになる」と宣言したというニュースがあり。

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ただし、市場の反応は限定的(大きく株価は上がっていない)。

  » 参照:2020年10月の報道
 GameStop Rises on Investor’s Plan to Make It an Amazon Rival

 ちなみに、 Cohen氏はChewyという会社を創業して売却したのち、個人としてはAppleの最大の株主になっているなど、起業家/投資家としては凄腕の様子。

 » 参照
 Ryan Cohen - Wikipedia

<2020年夏頃>
 Redditのr/WallStreetBetsに「GameStopでShort Squeezeが起こせる」という趣旨の投稿が現れる。この投稿をしたのはDeep F**king Value(伏せ字は筆者による)というハンドルネームのユーザであったと言われており、彼は当時、約5万ドル(500万円)をGameStop株に投資していたらしい。

 Deep F**king Valueと同一人物と見られるRoaring KittyのYouTube動画があり、GameStop株の売りポジションが100%を超えていることからトレンド反転した際の売りポジションの解消(ロスカット)で株価が爆上げする可能性を指摘するなど、今回の動きを正確に予測している(どうでも良いけれど、ハンドル名のノリが違いすぎないか?w)。


<2021年1月下旬> 

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 Redditのr/WallStreetBetsユーザーなどが上記の流れに注目し、「ミーム銘柄」としてGameStopの株価が上昇し始める。

<2021年1月25日>
 Redditが生み出した勢いに、Robinhood族(とそれに便乗した機関投資家?)のロングポジション(買い)が急増。これにより、これまで長らく機関投資家が持っていたショートポジション(売り)が吹き飛ばされる「Short Squeeze(ショート スクイーズ)」が起こり、GameStopの株価が約159ドルへと記録的な急上昇を起こす。

<2021年1月26日>
 イーロン・マスク砲、発射。


 GameSpot株の売買代金の総額がAppleを超える過熱ぶりに。

 » 参照
 米ゲームストップ株、年初来8倍 個人の買いを当局注視

<2021月27日>
 音声チャットサービスのDiscodeがWallStreetBetsのサーバーを閉鎖。Dsicode側は「不適切な用語の使用が理由」としているが、株式市場を動揺させる情報の拡散を防ぐ意図があったと勘繰られても仕方ないタイミングでの対応。

 » 参照
 Discord bans the r/WallStreetBets server, but new ones have sprung to life

 アメリカで最も影響力のあるユーチューバーの1人Mr.BeastがWallStreetBetsに注目するなど、投資業界を超えて話題が広がる。

<2020年1月28日>
 GameStop株価が483〜112ドルと乱高下。RobinhoodがGameStop株の取引を一時停止した。

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<2020年1月29日>
 左派からも、右派からも著名な政治家が参戦。

 民主党のAOCは「ヘッジファンドが自由に取引できる状況下で、一般投資家の取引をブロックしたロビンフッドの判断について詳細を知る必要がある」とツイート。

 共和党のテッド・クルーズも「(AOCに)完全に同意」とツイート。「株式市場が動揺する状況は看過できない」という意見が党派を超えて形成されつつある雰囲気が感じられる。

 早い段階でGameStopの購入を宣言していたDeep F**king Value(=Roaring Kitty?)氏は莫大な含み益を抱えているっぽい。

◆ 今後について

 GameStopに値動きについてはまったく予測がつきませんが、今回の一見が「1銘柄にまつわるニュース」という枠を超えて、米国社会や経済を揺るがす出来事に発展しつつあることは明らかです。

 これからの動きとして注目しておきたいのは、Robinhoodなどの投資アプリに規制がかかるのか? という点です。「個人投資家の保護」という大義のもとに証拠金取引などが規制されれば取引量が減ったり、投機的な戦略を好むユーザーが離れたりする可能性があります。

 1月29日時点においては、それほど危険な兆候は見られないものの、Robinhoodを取り巻く状況がどこまで悪化するかは正確に見通せない点は気がかりです。

“ロビンフッドが水面下で財務強化を急いでいることは、最近の市場の混乱が同社を圧迫していることをあらためて示唆している”
“ロビンフッドはさらに、一部のポジションを手じまわせる措置を講じる可能性をユーザーに通知した”  - - - Bloomberg、1月29日

 また、より大局的に見れば、インターネットを発信源とする「アンチ エスタブリッシュメント」のムーブメントの1つとして捉えることもでき、トランプ旋風と地続きの現象であると言えるかもしれません。型破りなやり方が既存の秩序を揺るがす様は痛快に思える時もありますが、社会に動揺が広がり分断に繋がればその先にあるのは混沌でしかありません。

 匿名掲示板であるReddit内のコミュニティWallStreetBetsと投資アプリのRobinhoodに端を発した今回の“事件”が、これ以上の大事に至らないことを願うばかりです。

◆ メモ(関連ワード、登場人物)

 この投稿に登場するおもな会社、人物、キーワードの概要です。

GameStop:ゲームストップ
 テレビゲームのソフトを販売する小売店。リアル(店舗)販売が中心のため、ゲーム消費のトレンドがアプリやオンライン配信に移行したことを受け、業績が悪化。株価が低迷し、空売りの標的にされていた。似ている会社を日本で探すならGAO(ゲオ)とかですかね。

Reddit:レディット
 英語圏の巨大ウェブサイト。subreddit(サブレディット)というスレッドを立てて、そこにリンクやコメントなどを投稿する仕組み。匿名ユーザーが集う場所という意味では、日本の「5ch(旧2ちゃんねる)」に近い。投資情報専門サイトではなくそのほかにも膨大な量の情報があり、インターネット的サブカル感、アングラ感が感じられます。

WallStreetBets:ウォール ストリート ベッツ
 Reddit内のコミュニティ(subreddit)のひとつ。投機的な取引戦略を好むメンバー多く、反エスタブリッシュメント(反ウォール ストリート)的な傾向も見られる。インターネット話題になっている(いわゆる、バズっている)状態の「ミーム銘柄」情報が多く集まっている。

Robinhood:ロビンフッド
 米国で人気の投資アプリ。取引手数料が無料で、UI(ユーザーインターフェース)がシンプルで使いやすいことからこれまで投資投資をしていなかった層に人気となり、ミレニアルズ世代とZ世代の投資ブームの火付け役、ミーム銘柄の取引増大の引き金とみられている。

 モットーに「投資の民主化」を掲げてはいるものの、一般ユーザーの取引情報を機関投資家に販売していたことなどがあるため、その姿勢を疑問視する報道もある。今回のGameStop件でも、同株の取引ができなくなったことから個人投資家の不興を買っている。

 なお、このアプリのユーザー「Robinhooder(ロビンフッダー、ロビンフッド族)」と呼ばれることがあり、米国ではある種の社会現象となっている。

Webull:ウィーブル
 Robinhoodの競合アプリ。スマホで使える投資アプリという点は同じだが、より高機能志向で複雑なUIを持つ点がことなる。

ミレニアル世代Z世代
 ミレニアルズ世代は2000年前後に成人した人たちでブーマー(ベビーブーマー世代)の子供にあたる。Z世代は1900年以降に生まれた世代。この2世代は「Millennials & GenZ」とひとくくりにされ、デジタルデバイスやインターネットを使いこなしそれ以前の世代とは異なる価値観や行動様式を持つクラスターとして見られることがある。Robinhoodの主なユーザーはこの世代。

Elon Musk:イーロン マスク
 ペイパル、テスラ、スペースXの創業者で大富豪。テスラ株が一時期ヘッジファンドの空売り受けたためか「アンチ空売り」的な発言があり、GameStop株の値動きに反応するツイートをしている。

SEC / U.S. Securities and Exchange Commission

 米国証券取引委員会。市場が荒れるとヤツらが動く。投資アプリ規制は起きるのか? 野放図な空売りは規制されないのか? など、今後の動きに注目。

Alexandria Ocasio-Cortez:アレクサンドリア・オカシオ=コルテス
 米国ニューヨーク州選出の下院議員。左派の政治家として有名。GameStopがロビンフッドで取引できなくなったことに声をあげた政治家の1人。

Ted Cruz:テッド クルーズ
 米国テキサス州選出の上院議員。保守系の政治家として有名。GameStopがロビンフッドで取引できなくなったことに声をあげた政治家の1人。


※ 当コンテンツは時事の話題をエンターテイメントとして考察することを目的としています。コンテンツの製作者は投資アドバイスに関する資格保有者ではありません。投資の際はご自身の判断において行動し、専門資格を持つアドバイザーの助言を受けることをおすすめします。当コンテンツは投資の勧誘や銘柄の推奨をするためのものではなく、取引または売買を行う際の意思決定の目的で使用されるために配信されているものではありません。本ブログに記載されたURLはリファラルリンクを含み製作者に利益が還元される場合があります。コンテンツの初回配信時点において製作者はGameStop株の取引は行っていません。

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