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【声劇台本#2】男たちと路地裏

登場キャラ
・男1
・男2
・おでん屋の大将(大将)

男1(人の幸せとは他人には推し量れないもんだ。
   金、女、名誉…そのどれもが俺にとっちゃあ、屑ゴミと同じ価値しか             ねぇ。)

男1(下町の、街頭も少ねぇこの通りには、毎週決まって酔狂なおでん屋が             リヤカーを引いて来やがる。
   そんなおでん屋に、俺ぁ毎週のように足を運んでいたんだ。
   今日だって変わらねぇ、仏頂面な奴の顔を拝みに、その暖簾を潜る                 と……)

男2「よう、元気してたか」

男1「お前……」

男1(学生時代からの親友、結婚して、先日子供を授かった。
           こんな俺を、唯一見捨てなかった、ただの馬鹿が、そこにいた。)

男2「全く理解出来ないね。毎週毎週足を運んでる理由が、おでんの匂いを             嗅ぐ事なんてなぁ。ほら、一杯飲まなねぇか」

男1「うるせぇ、俺の勝手だ。そんな不味いもん飲むくれぇならおでんと一             緒に茹でられて死んだ方がマシさ」

男2「はっ……こりゃ筋金入りだ」

男1「勝手に呆れていろ、俺にぁこれしかねぇ。
           親父、いつものやつ」

大将「あいよ、大根にがんも、玉子ね」

男2「全く、こんな時でもかわらねぇってか……いや、こんな時だからか」

男1「俺の事はいい……それより良いのか……子供だっているんだろう」

男2「大丈夫さ……嫁さんも子供も、先に逝かせてやった。最後までガタガ               タ震えてるのも可哀想な話だろう」

男1「そうか……」

男1(何故自分も一緒に逝かなかったのか……どうせお節介のコイツのこと               だ、自分がいなきゃだめだってんだろう。
   目の前で変わらず玉子を煮てやがるこの親父もだ。俺以上のおでんバ             カ。
   全く……ありがてぇ話じゃねぇか。全部、匂いが揃ってやがる。

男1「最悪な人生だったなぁ」

男2「まぁ、お前はそうだろうなぁ。でも、全部が全部、悪い事だけじゃな             いだろ?」

男1「…まぁな」

男1(学生鞄を持つ前に両親は死んだ。
   引き取られた伯父の家は最悪だった。
   何もかも捨てて飛び出して、まともに育ってこなかった俺にぁ何一つ             優しくねぇ世界で、
   それでも、短かったけど、親父とお袋の暖かさだけぁ忘れられねぇん             だ。忘れられねぇから、今まで生きてきた。
   結局、新しい家族なんかグズの俺に作れなかったが。
   ここはよく似てやがる。暖けぇ、火傷するくらいに、あの頃に似てや             がる。

男1(あぁ、そうだ、この匂いだ、
   大根、がんも、玉子、
   世界が終わるなら、その時は……
   家族と一緒じゃあなきゃなぁ……)

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作・おたんこナス

こちらのチャンネルで活動してます
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この台本はこの回のラジオの前半でやってます
https://www.youtube.com/watch?v=Rrt2nF1WpdI

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