とある若者との会話
20年近くに渡って毎年のように台湾へ出張し、台湾の人々から親切にしてもらいゆったりした雰囲気に馴染んできた自分が、『親日的な台湾』というイメージを見直すきっかけとなった出会いについて、自分自身の反省も込めて記録しておきます。
台湾出張中、週末などはバーなどに呑みに出かける。無論ウイスキーを呑んで葉巻を吹かすためであるが、現地の人々との交流もそこにはある。
その中でKevinと交わした会話は何よりも衝撃で、自分が勝手に思い込んでいた『台湾は親日的』という概念が覆ることとなった。
Kevinというと日本人には『欧米人か?』と勘違いされそうだけど、それは英語名。れっきとした台湾人で、身長は180cmくらい、年齢は30歳前後と思われる。日本人の若者とあまり変わらない。こちらが日本人だと分かると、以前日本に住んでいたんだよと話しかけられたことがきっかけだった。
聞けば日本のアニメや文化に興味があって6年ほど東京に住んでいたとのこと。また香港にも住んでいたこともあるそうで、英語や日本語に堪能だった。
時はRがU国侵攻を開始した頃。これを台湾の若者がどう受け止めているか聞いてみたいと思い、『大陸側が台湾に攻めてきたらどうする?』と尋ねてみた。
ちなみにKevinと話したのは台中にあるバー。近くにある地下道には中共による香港の弾圧や人権侵害を糾弾する主張が壁一面に貼られている。それを目にした先入観から、『大陸側が攻めてきたら当然戦うよ』という答えを予想していた。
予想していたというより期待していた、と言った方が正しい。その答えを受けて『同感だ。日本も一緒に戦うべきだ』などと答えようとしていたのだ。
しかしKevinの答えは意外なものだった。『政府がどうするか分からないけど、市民レベルでは受け入れるんじゃないかな』
用意していた言葉を発することができなくなり、また新たな質問をぶつけることとなった。『大陸の支配を受け入れるのかい?』と。
Kevinの返答はやはり意外なものだった。『よく考えてみなよ。日本では1月1日を正月として祝うけど、俺たちは旧暦の正月を祝うんだ。この店の客だって話しているのは中国語だろ。文化的にも習慣的にも大陸は馴染み深いんだ』
ちょうど客の中に香港から来たという人がいた。そこでKevinに香港のことはどう思うか尋ねた。『今さら何を言ってるんだ?香港が飲み込まれることは1999年に返還された時に分かっていた筈だろ。海に囲まれている台湾や日本とは違う。香港はそもそも大陸の一部なんだ。文句があるならどうして返還されたときに言わないんだ?』
50年は一国二制度を守るという約束だったはずだ、そんなこと言ったところで、『だから、なんだ?』と言われてしまえば、そんな反論は意味を成さない。
『俺はこれから先、台湾が安定して発展できるなら政治体制がどうであろうと文句はないよ』Kevinは最後にそう言った。時刻は午前0時を回っていた。勉強になった、そう言って握手して別れた。
台湾人が皆そう考えているかは分からない。ただ日本のサブカルチャーに興味があり数年間日本に住んでいた経験を持つ台湾の若者と交わしたこの会話は事実だ。
確かに思い当たることも多々ある。台湾は親日的だと言われるけど、言葉、風習、食事は間違いなく中華圏。
中国や韓国とは違い、台湾では人種的な差別を受けたことは無い。国民党が政権を取ろうと、民進党だろうと、市民レベルでは『みんな親日的』だからだろうと思っていた。
でも実は違うのかもしれない。そもそも台湾人は大らか朗らかで楽天的な人が多い。相手が誰であろうとそのように接しているだけなのかもしれない。 少なくとも台湾は親日的だ、という先入観は無くした方が良い。彼らにとって日本より大陸の方が身近であるのは間違いないのだ。
やはり一方的な片思いは実らないよな、本当の意味で両想いにならないとなどと思いつつ、そう考えなおすきっかけを与えてくれた出会いに感謝して、この駄文を締めたいと思います。