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大自然の中、五感をフルに使って「生きる力」育む子どもたち。親も「ありのまま」でいい! 【まるたんぼう保護者 Vol.1 黄塚ひとみ】

鳥取県智頭町森のようちえん「まるたんぼう」には、さまざまな価値観やバックグラウンドを持つスタッフや保護者さんがいます。

そんな多様なスタッフや保護者さんたちに、まるたんぼうの元保護者さんで、ライターとしても働かれている清(せい)さんが、インタビューをしてくださいました。

いろんな人の視点で見た、素顔のまるたんぼうを連載でお届けしていきますので、ぜひご覧いただけたら嬉しいです!

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今回、お話を伺ったのは、まるたんぼう保護者のひとみさん(以下、ひーちゃん)です。

ひーちゃんは、まるたんぼうのある鳥取県智頭町のお隣、岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)で、旦那さんと共に養蜂事業を行なっています。以前は東京で暮らしていましたが、幼少期の自然体験や、東京での子育てに限界を感じていたこともあり、自然豊かな場所で子育てをしたいと思っていたそう。ご縁があって、西粟倉村に移住し養蜂事業を始め、以前から気になっていた森のようちえんまるたんぼうにも、子ども2人を通わせることができたそうです。

「念願のまるたんぼうに子どもを預け、子どもと共に親も育てられながら、仕事も暮らしも楽しんでいます!」と、いきいきと話すひーちゃんのインタビューを、どうぞお楽しみください!

【ひーちゃん プロフィール】
10代の頃から、田舎で薪を使い料理をしたり暖を取るような暮らしをしており、雑木林や野原で遊んで育った。6人きょうだいの長女。大学から東京に出て、卒業後も東京で10年間暮らしたが、子育ては自然豊かな場所でのびのびとしたいと思っていた。縁あって、いつかやってみたいと思っていた養蜂に携わることになり、家族で西粟倉村に移住。まるたんぼうにこども2人を通わせている。養蜂の世界に足を踏み入れてから、ミツバチを含む「ちいさな生き物の声」に耳を傾けたいと思うようになった。これからの地球に何を残せるかを考えることが昨今のテーマ。

清(以下、ーー):ひーちゃんは、もともと東京で子育てをしていたそうですが、どんなきっかけで田舎で子育てをしたいと思うようになったのでしょうか?

ひーちゃん:大きく2つあるのですが、1つは、自分が幼少期の頃、両親が田舎へ移住し、森の中の家で薪を使って生活していたことが、影響していると思います。

自分達で伐採してきた薪を、料理をするとき、お風呂に入るとき、暖を取るときなどに使い、なるべく電気に頼らない暮らしをしていました。そのような体験から、自分の子どもたちにも、自然のそばで、暮らしに必要なものをできる限り自分達で調達したりつくっていけるような、「生きる力」を育んでほしいと思っていました。

もう1つは、東京での子育てに限界を感じていたから、と言うのも大きいですね。

公園や雑木林もあるけれど、遊具は遊び方が決まっていてすぐに飽きてしまうんですね。こどもは、それなりに楽しく遊んでいるように見えても、それを見守る私たち大人は疲れていました。

一日の時間の経つのが長く感じて・・
「ああ、早くこどもが疲れて昼寝してくれないかな。自分の時間がほしいな」なんて考えていました。
その辺に咲いている花、落ちている梅の実ひとつでも、「これは誰の土地でだれかのモノ、とってはいけないかもしれない」と思って、「触っちゃだめだよ」と言っていましたね。

本当は、自分がこどもの頃みたいに、ふかふかの落ち葉の上に寝転がったり、色んな色の実を集めて並べたり、ススキを魔法の杖みたいに振り回したり、そういう遊びをさせてあげたかった。子ども以上に私自身が、のびのび遊びたかったのかもしれませんね。

ーーそのような中で、自然豊かな場所での子育てに惹かれていったんですね。自然体験を大切にする幼稚園や保育園は、各地にあると思うのですが、その中でも、ひーちゃんがまるたんぼうに通わせたいと思った理由は何だったのでしょう?

ひーちゃん:「森のようちえん」は日本でもどんどん広がっていて、あちこちでいろいろな団体が素晴らしい活動をされているかと思いますが、その中でもまるたんぼうに興味を持ったのは、いろんな本や雑誌でまるたんぼうのことが紹介されていて、それを読んだのがきっかけだったと思います。

その頃は東京に住んでいたので、まるたんぼうにも行ってみたいけれど、どうしようかと色々考えました。紆余曲折ありましたが、縁あってお隣の西粟倉村で仕事をすることがきまったので、まるたんぼうにも近く、とても幸運なことでした!

実際に見学に行って、こどもたちの様子を見られたこと、自分自身が森の中でとてもリラックスできたこと、スタッフの皆さんとお話したり、先輩の保護者さんとお話できたことが、登園を決めた大きな理由です。

ーーまるたんぼうに入園してから、子どもたちはどんなふうに変わりましたか?

ひーちゃん:こどもが変わったことは、たくさんありすぎて一言ではまとめられないくらいです!

とても良い方向に変わったと思います。体力的にとても強くなったし、よくよく自分の頭で考えて行動しています。親の私はこどもたちの発言にハッとさせられることばかりです。

こどもたちは、周りのこどもたちの様子をよく見ています。森の中では楽しいだけでなく、寒い、怖い、痛い、いろいろな経験がありますが、季節ごとに五感をフルに使ってとてものびやかに、いろいろなことを吸収して大きくなっている気がします。

ーー具体的なエピソードを教えていただけますか?

ひーちゃん:最近の話ですと、あるとき、もえぎ(年長)の息子が、「リュックが軽くなったから大きなお弁当箱が入るね!」と言ったんですね。

毎日森に通うための、リュックに入れる荷物の内容やパッキングは彼がやっています。
どういうことかな?と思ったら、
確かに、こがね(年少)の頃と比べて、彼の荷物がとてもコンパクトになっているんです。以前は、着替えもたくさん入っていたし、水筒にいつでも水もたっぷり入れていて、リュックはパンパンで重く、全体的にモコモコしていました。笑

こがねのときは、雨が降ったり川に入ったりして、少しでも濡れたら冷たくて不快で、すぐ着替えていました。だから、着替えも2回分必要だった。それが、「少しぐらい濡れても、いいや」「着替える方が面倒くさい」と、本人が気にしなくなったんですね。
水筒の水の量も、「今日は暑いからいっぱい入れよう」「今日は涼しいから満杯じゃなくていい」と、その日の天気を見ながら、自分がどのくらい飲むか考えて調整できるようになりました。

森で1日過ごす経験をたくさんすることで、「自分にとって何が必要か」ということを、その日の天気やフィールドでやりたいことを想像しながら、見通しを立てながら判断できるようになっていったんですね。
すごく頼もしいなと思いました。

あとは、やっぱり筋肉がすごくつきましたね。
お風呂に一緒に入ると、腹筋や脚がしっかりしていて、「まだ幼児なのに、この筋肉はすごいなー!」といつも思わされます。

また、まるたんぼうでは「お料理の日」という日が毎週あります。子どもたち自身が野菜と米を持ち寄り、包丁を持って、料理をします。

薪でごはんを炊く、味噌汁を作る、食べる。

これが簡単なようでいて難しく、いろいろなドラマを生み出します。食べるところまで行ける日もあれば、薪に火がつかなくて苦労したり。
指を切ったり軽いヤケドをしてみたり、マッチで火をつけるのですがうまくつかなかったり。料理しないで遊んでる方が楽しい人もいるし。

「自分たちの手で今日食べるものを作る」ということが、日々の暮らしの中にある、というのがとても良いなと思います。
子どもたちは、家でもスープや味噌汁をさっさと作ってくれて私も助かっています。
スタッフに感謝ですね。

ーーひーちゃんは、よく、まるたんぼうでは「子どもと共に親も成長させてもらっている」という話をしてくれますが、入園してからご自身はどんな変化がありましたか?

ひーちゃん:まるたんぼうでは、子どもに対して、信じて見守り、待つ保育をしてくださっていますが、大人に対してもそれは同じで、スタッフも、保護者の方たちも含め、雰囲気全体が、とてもやわらかで温かいんですね。
最初に移住してきた頃は、右も左も分からないし、「誰かに迷惑をかけてはいけない」「忘れ物をしてはいけない」と思い込んで、変に肩の力が入っていて。もともとの性格もあるのですが、「しんどいと言っちゃいけない」と思っていて、自分を抑えたり場の空気を円く収めることばかり考えていました。

それが今では、失敗したっていいじゃないか、言っていることが変わったって、怒るときは怒ったって、いいじゃないかと、「親も人間なんだから」、と思え、しんどい時は、「しんどい」と言えるようになりました。まるたんぼうのスタッフや他の家庭に、まるごと受け入れられていると感じられ、「ありのままでいいんだ!」と思えるようになりました。

ーー「親だって人間なんだ、ありのままでいいんだ」と思えると、子育てがラクになりますよね!

ひーちゃん:はい、「いつもちゃんとしなきゃ!」という気負いがなくなって、私も子どもと一緒に、素直に日々の喜怒哀楽を味わっていいんだ、と思えるようになり、子育てが楽しくなりました。

東京に住んでいた頃感じていた、「人は人、自分は自分」という希薄な人間関係が、ここでは親も子もとても濃密で、人間臭くて、だから安心できる、という感じです。

子育ては一人で頑張ってもどうしようもない。6人きょうだいで育った私でも、自分の子育てはどうしたらいいかわからないことも多かったし、こどもに「こうしたら?」「これが好きだよね?」「これはやめたほうがいいんじゃないかなあ」とか、自分の都合を押し付けた余計な手出しをしておりました。・・反省しています笑。

まるたんぼうに入って、スタッフの皆様のこどもへの関わり方「見守る保育」が徹底されていて本当に敬服しますし、保育の質の高さに毎回驚かされます。保護者の日々のコミュニケーションも活発で、どのお母さんもお父さんも一生懸命で、こども全員を保護者みんなが気にかけて見守っている感じがとても好きです!

こども達の成長を見るたび聞くたびに心から嬉しくなります。
おかげで、家庭での関わり方、言葉の掛け方も少し変わってきました。

ーーまるたんぼうは基本預かり型の園ですが、子どもたちだけでなく、保護者やスタッフ間で交流する機会も多く設けてくれていて、そういう面でも、家族同士の仲を深めやすい環境があってありがたい、と私も思います。ひーちゃんは、どんな行事やイベントが印象に残っていますか?

ひーちゃん「大人の森のようちえん」ですね。
これは、保護者がまるたんぼうの日々の活動を体験する行事で、当日は、スタッフがいつも通り子どもたちを森で保育している間、別のスタッフが、他の森に保護者だけを引率して、そこで過ごす、というものです。

朝の会から始まり、一日中森で活動、最後はスタッフに絵本も読んでもらうという、リアルなまるたんぼうを保護者が体験できます。

去年は、秋に、智頭町の芦津というフィールドに連れていってもらいました。
大きくて深い森に入るということ自体、私にとっては非日常で、人間以外のものに対する畏怖の念がわいてくるのですが、道もない斜面を、どうやって降りたりすればいいんだろうと考えているうちに、持ち前の高所恐怖症が出てきて、斜面から一歩も動けなくなってしまいました。

でも、まわりで「ひゃっほ~!」と楽しそうに落ち葉すべりをしている人たちもいて、それを眺めるうちに、「あ、お尻ですべって降りればいいのか!」と気付いて、おしり滑りをこわごわやってみる。1回目はまだこわい、2回目はちょっと面白い、3回めくらいから体のバランスが少しわかってきておもしろくなってきて、最後には全力で斜面を楽しんでおりました。

そんな風に一日中過ごして、全身泥だらけになりました。「あー毎日子どもたちがあんなにカッパを汚してくるわけがわかった」と思いました笑。

おとなの森のようちえんの日は、人によって遅れて進む人、先に行って見えなくなる人がいる中、自分はどう進むのがいいかな、スタッフの動きを見失わないようにしなきゃな、とか色々考えさせらました。森は、決して安全な場所ではないので、自分の体と仲間を信じて進むしかない。より子どもたちの視点に近づくことができたと思います。

ーー最後に、まるたんぼうへの入園を検討されている方へ、メッセージをお願いします。

ひーちゃん:私は、入園前、まるたんぼうに子どもを通わせたいけれど、あれこれ考えて自分にできるかどうか不安で迷っていたとき、スタッフの方から「飛び込んでみたらいいんじゃない?」と背中を押されて入園を決めました。結果、今までお話ししたように、スタッフの方々や保護者さんたちにたくさん助けられて、子どもにも親にとっても素晴らしい体験ができています。ぜひ、少しでも興味を持っている方は、見学に来て、スタッフから、保護者から、色々お話を聞いてみてくださいね!

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子どもの「生きる力」を身につけさせたくて、まるたんぼうに入園を決めたひーちゃんの話に、とても共感しました。

おもちゃや遊具など何もない森の中で、「どんなふうに安全に過ごすか、楽しむか、仲間と関わるか」を考え、実践を繰り返す子どもたちを見ていると、不足の状況から、自分にとって「何が必要なのかを取捨選択する力」、「必要なものを創り出していく力」を、まさに身につけさせてもらっている、と感じます。

ひーちゃん、素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございます!

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