PCNET3021
パシフィックネットはPCのレンタルと、付随する保守運用を展開するITサブスク事業、使用済み機器の回収・データ消去・リユース・リサイクル販売を手掛けるITAD事業、イヤホンガイドを販売するコミュニケーション・デバイス事業(以下コミュデバ事業)を手掛けています。
業績の推移は下記の通りです。
2022年5月期は会社予想に合わせています。
各事業の状況を説明資料から抜粋します。
ストック売上であるサブスク事業は概ね好調なものの、フロー売上であるITAD事業、コミュデバ事業はいずれもコロナ影響で苦戦していることが分かります。
その上で、2022年5月期の昨対での利益減少要因は下記のように説明されています。
ITAD事業はコロナ影響(一時的な要因)でマイナスになっており、その他も先行投資であることから、事業の展望に問題はないというメッセージが伝わってきます。
これらを額面通りに受け取り、2023年5月期はコロナ影響が薄れる前提で考えると、
①サブスク事業は利益率が回復
②ITAD事業、コミュデバ事業は復調
③オフィス拡充などの一過性費用が減少
の3点から利益面で大きな進捗が見込まれそうです。
四季報でも下記の予想が出ています。
こうした分かりやすい期待感もあり、現在のPERは約26倍と、市況を思えばやや割高な評価を受けています。
会社の言い分や四季報予想を鵜呑みにすれば、2023年5月期のEPSは約98円ですので、PER15倍だと株価は約1500円となります。サブスク事業が順調なことを思えば、PER15倍でもやや割安な水準に思えます。その上で、会社の言い分は信用できるかを考えます。
まず、サブスク事業の利益率が来期どうなるか考えます。サブスク事業では貸し出し用のPCを仕入れておく必要があり、これが「レンタル資産」として計上されています。そして、そのレンタル資産の減価償却費も決算資料に記載があるため、それらの数字や、対売上比率などを年毎に出してみました。なお、2022年5月期は3Qまでの数字と通期予想から逆算しており、大きくずれない想定ですが、減価償却費だけ読みが難しく信頼しにくい状態です。
こうして見てみると、2021年5月期はレンタル資産/売上、減価償却費/売上、利益率の全てにおいて、直近5年で最も数値が良い年だったとわかります。同時に、2022年5月期は各数値が妥当な範囲に収まっていることも見て取れます(減価償却費はやや強い数字になっていますが、ここは読みが難しいため信用しにくくなっています)。
したがって、昨年からの利益減少要因として挙げられた「サブスク事業での大幅な先行投資と減価償却費増(-95百万分)」は、実際のところ「昨年やや投資を控えた反動としての大幅投資」であり、「未来の利益率を押し上げるような先行投資ではない」と考えられます。このことから、2023年5月期の売上・利益は先の表で示した数字を想定することにしました。
続いてITAD事業について、2022年5月期は12月頃からオミクロンの流行があったため、「対計画比で」コロナ影響を受けたことは間違いなさそうです。しかし、2021年5月期もコロナ影響はありましたし、オミクロンが発生する前の2Qでも減収減益でしたので、「昨対で」数字が落ちた言い訳にはなっていません。4Qは復調傾向とのことで挽回してくる可能性もありますが、「コロナが明ければ大幅な増収増益」と見込むのは難しい印象です。
一方で、ITAD事業にはいくつかの好材料があります。
1つ目に、昨年11月から試験開催されていた「パシフィックネット・オークション」が3月から正式に始まりました。3月は6000点ほど出品したようです。次の開催は7月で、2023年5月期中に3回開催されそうなペースです。
2つ目に、回収したPCのデータ消去からエビデンスの発行を自動化するシステムが6月にリリースされました。官公庁や法人からのPC回収では安全性が重視されるため、訴求力UPと経費削減が同時に叶う良いシステムだと思います。
3つ目に、OSの再インストールを自動化するシステムが7月にリリースされました。回収したPCのOSをアップデートして再度レンタルする上での工数が削減される見込みです。
しかし、これらの好材料はいずれも「数字でいくらのインパクトになるか」が不明確であり、来期予想に向けての根拠にはしにくいのが実情です。そのため、コロナ影響の緩和を含めて、2023年5月期の数字は2021年5月期並み、と見るのが妥当な落としどころと考えています。
3つ目のコミュデバ事業についてはコロナ影響が薄まれば素直に復調する事業だと考えています。しかし、2023年5月はまだ少し赤字が残りそうかな、という印象です。ただ、いずれにせよ全体への影響度は小さく、まだ重要度は低い状況です。
最後にオフィス等の拡充について、今年は2拠点の拡充(東京本社、大阪支社)と1つの拠点開設(名古屋)がありました。他にも4つの拠点(札幌、仙台、浜松、福岡)があるため、2023年5月も同種の費用が発生するかもしれません。しかし、地域の規模や、残り4つの拠点がテクニカルセンターのみであることからも、同じボリュームになることは無差そうです。従って、(人件費分はなくならないため)223百万の全てではなくとも、来期の費用負担が減ることは間違いと考えています。
以上のことを総合すると、「2023年5月期は2021年5月期並の利益をやや上回る」という四季報予想は「良い線」ではないかと思われます。その場合、EPS98に対してPER15倍の1500円が概ね下限、20倍の2000円が目標かな、というイメージを持っており、今の株価なら買っても良いと思っています。しかし、13日に大注目の米CPIが控えており、ここで市況がガラリと変わる可能性も高いため、それまでに買うことは絶対にしないつもりです。
したがって、買うとしても本決算(15日)の直前にはなってしまいますが、市況と株価次第ではチャレンジしたいと思います。
最後にリスクを挙げておきます。
①パシフィックネットは本決算で控えめな、または強気すぎる数字を出す企業では無さそうですが、2022年5月期の下方修正を踏まえて、やや控えめな数字を出す可能性があります。
②2023年5月期も先行投資が重たくなるケースは考えられます。
③世界的にPC市場の成長鈍化が懸念されています。しかし、パシフィックネットのビジネスモデルと規模を考えると、影響は小さいと思っています。
④四季報予報の数字は織り込み済みの可能性もあります。しかし、時価総額が小さく出来高も少ない銘柄であり、とりわけ業績が落ちてからは注目されていないため、その可能性は低いと思っています。
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