私たちにとっても甲子園は「聖地」だった
文春野球甲子園、というコラムの公募に向けて書いた文章です。「現状を知ってほしい」と書いたものであり、決して具体的な解決策がある訳ではありません。けれど、甲子園が「聖地」であり続ける限り、きっと何も変わらないし、今のまま妥協点を探していくしかないと思っています。
色々な意見があるのはもちろん分かっていますが、一意見としてお読みいただけると幸いです。
甲子園という「聖地」の話
私は去年まで、甲子園のお膝元兵庫県の高校で放送部員をしていた。そんな兵庫県の放送部員にとっての夢舞台のひとつが、高校野球と同じ「甲子園」だということはどれぐらい知られているのだろうか。
全国高等学校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園。全高校球児が目指すであろう場所である。その開会式、閉会式で司会を務める高校生が、兵庫県の放送コンテストにおいて上位となった生徒たちなのだ。夏は1997年からこの高校生による開会式・閉会式の司会が始まったという。今年も7月17日に、甲子園の開会式・閉会式の司会を地元高校生が務めることが発表された。この4人も、兵庫県の放送部員だ。
私もその舞台を夢見たひとりの高校生だった。結果としては全く手の届かない場所だったし、開会式でアナウンスをする高校生を見て悔しさか感動かよく分からない涙を流したぐらいなのだが、とにかくあの場所が私たちにとって聖地のひとつであることは間違いない。私は高校二年生のときにテレビで見た開会式の司会をする先輩に強烈に憧れた。そして高校三年生の夏、またテレビで見た開会式の司会をする同級生に感動を止めることができなかった。少なくとも私にとっては、甲子園は聖地だった。
高校野球、特に夏の甲子園に関して女子生徒が運営をしたりCMに出たりすることに賛否両論があるとは分かっている。女子マネージャーがグラウンドに立てない中、CMでダンスする女子生徒はなぜグラウンドに立てるのか、なぜ男子しか出ることのできない大会の広報や運営に女子生徒が使われているのか。どうせ出られないのに女子差別だ、という声もある。そのような声があったとしても、私はこうして女子生徒が運営に携わることのできる現状をなくしてほしくないと思う。
理由は簡単だ。「あの夏の甲子園」に関わることができる場面が、そこにしかないからだ。高校野球が好きな人全員がマネージャーとして高校球児を支えられるわけではない。女子高であったり、通学時間や家庭の事情でマネージャーとして入部できない生徒であったり、いつもは外から見ているしかできない生徒もいるはずだ。そんな彼女たちが、「高校野球を支えたい、少しでもいいから夏の甲子園の力になりたい」と思ったときに活躍できる現状唯一の場所、それが開会式でありCMであると思うのだ。
また甲子園での女子排除とともに、開会式不要論というものも現在論じられている。ここまでで分かるかもしれないが、私は開会式不要論に反対だ。開会式の司会をする放送部員、プラカードガールを務める市立西宮高校の女子生徒など、多くの女子高生がこの夏の甲子園の開会式に関わっている。確かに熱中症のリスクを考えると、長い間炎天下に立ちっぱなしでいることは危険だ。だが、だからといってすべて無くしてしまうというのはいかがなものだろうか。放送部員だった身からすると、数万人を目の前に外の会場で司会をする経験を積める人などほとんどいない。だからこそ、あの舞台は私たちにとって貴重な舞台なのだ。プラカードガールの彼女たちも、オーディションを乗り越えた先にあの舞台に立てるという。今年も7月11日にプラカードガールの選考会が行われ、106人の女子生徒が参加した。こうして憧れて高校に入学しても、それで出られるというわけではないという現実がある。高校球児だけでなく、私たちも戦いの末に甲子園という舞台に立つ。その場が開会式か、それとも試合か、という違いだけだ。
私は、高校野球も含めていろいろな野球を見ている。その中でも高校野球に特別感があるのは、全国でテレビ放映され、全国から高校生が集まり、おそらく日本で最も知名度の高いスポーツだからだ。私たち女子生徒にとって、外から見ているしかない私たちにとって、それに関われるチャンスはそれほど多くない。もちろんマネージャーが一番近い場所であることは間違いないだろうが、マネージャーだけではない場面でも関わることはできる。そういう場面がもっと知られていけばいいと思う。そして、女子生徒が夏の甲子園に参加することを、これからも続けさせてほしい。それが、高校野球や夏の甲子園を少しでも「自分たちに近い事柄」として考えるきっかけになると思うからだ。
全国の高校生が支えてこそ、高校野球の全国大会ではないのか?そこに性別など関係ないのではないのか?
私自身は参加できなかったけれど、少しだけ近くで高校野球の開会式を見ていた身として、いろんな人が見て「いろんな高校生が頑張っているなあ」と思うような大会であってほしい。女子排除にしろ、開会式の是非にしろ、いろんな意見があることは分かっているが、少し前まで女子高生だった身として、私はもっと女子生徒が参加してもいいのではないかと思うのだ。試合に出せとはいわない。けれど、マネージャー、吹奏楽部やダンス部、放送部にとって、またプラカードガールの生徒たちにとって、全国の野球が好きな女子生徒にとっても、もっと参加できる甲子園でありますように。
「甲子園」が聖地であるからこそ、私はあの場所で、力になりたかったと思うのだ。
参考文献
[1] 夏の甲子園大会、地元高校生が司会担当 - 野球 - サンスポ
https://www.sanspo.com/baseball/news/20190717/hig19071716200011-n1.html
[2] 選手と一緒に甲子園で行進したい! プラカード係選考会 – 高校野球:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASM7C5J2BM7CPLZU001.html
お読みいただきありがとうございました。
今年も甲子園が開幕しました。
今年はある番組で、兵庫県の放送部員がクローズアップされ、インタビューなどが全国に流れました。嬉しいことです。こうして、より多くの人が放送で甲子園を目指す高校生のことを知って、見守ってくれるともっと嬉しいな、と思うのです。