見出し画像

私的詩的ストーリー「楽器屋のパッツィ」

これは私がUSJに通っていた頃、
パークのお気に入りの場所がありまして、
そこから想像して書いたミニストーリーです。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

・おもな登場人物

【パッツィ】
パトリシアという名前の少女。
楽器屋さんで働きながら
女優を目指している。

【店の主人】
パッツィが
アルバイトしている楽器屋の主人。
町の映画館の館長もしている。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

ここは、とある田舎町。

その町の中心街に
古くから営業を続けている
楽器屋さんがあります。

この店の主人は
町の映画館の館長もしているので
楽器屋さんは
アルバイトの少女が店番をしています。

その少女の名前はパトリシア、
みんなからは親しみを込めて
『パッツィ』と呼ばれています。

女優を夢見ながら
この店でアルバイトをしています。

今日もパッツィは
楽器屋さんで店番をしながら
お芝居の稽古。

といっても
誰かに習うお金もないので
ご主人が館長をしている映画館で
見た映画のまねごとをするだけです。

お店は常連さんが
パッツィの世間話相手に
訪れるぐらいで
それほど忙しくはありません。

今日も楽しくお話をしながら
みんなと過ごします。

そんな日々が楽しくもあり
このままでもいいかなぁと
思うのですが
女優の夢はあきらめきれないのです。

「いつか、きっと
素晴らしい舞台を演じてみせるわ!」

そうだそうだ、
パッツィならきっと大成功だよ。。。
町のみんなはいつもそういいます。

けれどパッツィは分かっています。

自分に才能がないこと、
みんなは優しいから
勇気づけてくれるけど
本当は世間話のついでに
ほめてくれるだけ。

そんな日々を
しばらく過ごしたある日のこと。

店の主人が言いました。

「今度、
ニューヨークの裏通りにある劇場で
旧友が舞台をやるんだ、
どうだねパッツィも一緒に来るかい。」

もちろん断る理由などありません、
パッツィは店の主人と一緒に
あこがれのニューヨークへ
行くことになりました。

そして今日は
心待ちにしていた
ニューヨークへ行く日です。

裏通りとはいえ
あこがれのニューヨーク、
なんてことでしょう
高いビルがそびえ立ち
ネオンサインで昼間のように
あかるい街並み。

「さぁ、ここだよ、
この劇場で旧友が舞台に立つんだ」

ご主人のあとをついて
パッツィは
劇場へと入っていきました。

古びた劇場ですが
とても素敵なステージが
目に飛び込んできました。

パッツィは思いました。。。

『こんな素敵な舞台に立てたら
最高だろうな。。。』

しかしそれも叶わぬ夢。

この頃思うのです、
わたしにはやっぱり女優なんて無理だわ、
才能がないもの・・・

町の人はほめてくれますが
まだ少女のパッツィに気を遣って
ほめてくれてることは分かっているのです。

「ちょっと私はあいさつをしてくるから
ここでしばらく待っていてくれるかい」

店のご主人はそういって
楽屋口の方へ歩いて行きました。

どうしよう。。。
待っててといわれましたが
じっとしているのも退屈です。

今日の舞台は
招待されたお客さんしかいませんので、
外にさえ出なければ
ご主人とはぐれることはありません。

「ちょっと冒険しちゃえ。。。」

パッツィは
劇場のステージが見える場所へ
行ってみようと思いました。

まだステージが始まるには
時間があるので
客席にはほとんど人はいません。

招待客の子供たちでしょうか、
劇場内を走り回っています。

タバコをふかす男性、
読書をするご婦人、
みんなそれぞれ
ステージが始まるのを待っています。

パッツィは
劇場のステージを目の前にして
気持ちが高ぶってしまいました。

まだ始まらないのなら
ちょっとぐらい
ステージにあがってもいいかな。。。
はしっこなら見つからないよね。

あらあら。。。
そんなことしちゃだめだよ
パッツィ。。。

いつも店番をしながら
まねごとをしているだけの演技で
ステージの隅で踊り始めてしまいました。

気がつくと
無我夢中で踊っていたようです、
それにステージの隅にいたはずなのに
中央で踊っています。

ほらほら。。。
だから言わんこっちゃない。。。

怒られちゃうよ。。。

ハッと我に返ったパッツィ。。。

ふと客席を見ると
人だかりが出来ていました、
そのなかに
店のご主人とお友達らしき方も。

「パッツィ、
素敵な踊りだったね。」

店のご主人に怒られると
思っていたのですが
意外にもほめてくれました。

「気にしなくていいんだよ、
今日は仲間内の集まりのお芝居だからね」

旧友でしょうか、
素敵な男性が
優しい言葉をかけてくれました。

「あ、わたしパトリシアといいます、
勝手にあがってしまってごめんなさい」

「いいんだ、いいんだ、
まだみんな集まっていないからね、
それまでは君のステージを
見せてもらおうじゃないか」

いつもまねごとをしていただけの演技。

町のみんながほめてくれていたのは
気休めではなく
実は本当に上手な演技だったのです。

裏通りの劇場とはいえ
プロも踊るステージです。

店のご主人の旧友というのは
小さな映画会社のプロデューサーでした。

「パッツィ、
だますようなことをしてごめんよ、
今日ここへ君を連れてきたのは
私の大切なパッツィを
旧友に紹介するためなんだ」

まずは第一歩、
女優への道を歩き始めたパッツィ。

小さいけれど
映画会社の秘書として
ニューヨークで働きながら
女優を目指すことになりました。


それから月日は流れ。。。


とある田舎町の楽器屋さん。

その昔
この店でアルバイトをしながら
女優を目指す少女がいました、
その名はパッツィ。

楽器屋さんには
1枚のポスターが
今も大切に飾られています。

そこには
パッツィにそっくりな少女の姿が
描かれています。

風の便りでは
ニューヨークで成功した
彼女の姿なんだとか。。。

そうだね、
彼女のことだからきっと
素晴らしい女優になったよね、
きっとそうだよ。

それも遠い昔の話。。。

今は彼女のことを語る人もいません。

ただいつものように
風が通り過ぎるだけ。。。

ニューヨークの裏通り、
ここに昔小さな劇場があったそうです。

その劇場で
活躍した女優の名前は
パトリシア。

彼女にちなんで
昔からこの通りは
「パトリシア・ストリート」
と呼ばれているそうな。。。


ニューヨークはいつもの風景、
タクシーがお客を運びます。


「運転手さん、
綺麗な歌声ね、
誰が唄っているの?」

「いえね、
その昔にこのあたりの劇場で
活躍していた女優の歌ですよ、
そりゃぁ観客を魅了したそうですよ」

「とっても素敵ね。。。」


よかったね、パッツィ。

願いが叶ったんだね。

素敵な女優人生を歩んだかい?


おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?