見出し画像

シネマ歌舞伎『桜姫東文章 上の巻』に魂を持って行かれた(1回目鑑賞の記録)

えらいもんを観た……と、上映が終わってからというもの未だにぼんやりしております。

話の筋書きがまず濃厚すぎるし、それを豪華絢爛な舞台の上に、美しすぎるお二人の超絶演技で見せられちゃあ現実世界にさっさと帰るほうが無理ってもんですよ。
いや冗談抜きで無理。無理です。この先ひと月は間違いなく桜姫に脳内が占領されていますね。

このままでは日常生活に差し障りが出まくりなので、自分のためにあまりにも長い感想を記しますが、
他の方の参考に少しでもなれば嬉しいです。なるのかな。なるといいな。

あんまり長いので適当に目次を作りました。読みたいところだけ読んでください。
なお当方歌舞伎初心者で、さらに後述の通りパンフレットが購入出来なかったので不正確な記述が多々出てくると思われるのでご注意ください。
明らかな間違いに関しては2回目を観に行ったら修正するかもしれません。

0.あまりにも長すぎる前置き

歌舞伎初心者の私ですが、シネマ歌舞伎を知ったことで、観劇の経験値をより速く貯めることができたと感謝しております。
歌舞伎って回数を観てじわじわと体感できる良さがありますよね。
文楽や能などの古典芸能も大体そうだと思いますが。
シネマ歌舞伎はイヤホンガイドのアプリも提供されていますので、本当に有り難いです。さらにシネマ歌舞伎を観るからこそ、生の舞台が観たくなりますね。

今回はその逆と言いますか、四月大歌舞伎第三部のぢいさんばあさんを観て、にざたまの素晴らしさに感動しすぎて日常生活に支障をきたし、今回の上映が楽しみすぎて桜姫東文章専用のムビチケを買いました。その際の感想は以下にまとめています。

今回の桜姫も、観た後数日間は放心状態になって現実世界に帰って来られなくなるのが分かっているから、仕事の前日に観るのはやめようと思って、本当はもう少し後に行く予定にしていたのに。

結局我慢しきれず無理矢理予定を捻じ込んで、本日の予定を詰め込みまくりで鑑賞。
上映終了後には売店に走り、速攻でムビチケ3枚セットを買いました。上の巻2回目を観る気満々(月イチ歌舞伎共通3枚セットも桜姫に使えるらしい)。
なおパンフは売り切れ。ショックすぎて現実世界がより遠のき、呆然と映画館を後にしました。再販……ありますか……???


1.仁左衛門丈と玉三郎丈の特別インタビュー

上映が始まり、本編前に流れた主役お二人のインタビューから心をしっかりと掴まれました。

(自意識過剰かもしれないけど、歌舞伎役者さんへの「丈」って敬称、これまではつけるべきなんだろうなと思いつつも、私のような初心者のひよっこが使うのも通ぶってるというか生意気なように感じてこれまで使っていませんでした。ですが今回使いますね)

1ー1.仁左衛門丈のインタビューについての感想

仁左さまのお顔を拝見するたびに、このお優しそうな笑みを浮かべていらっしゃる方が凄みのある悪役を…?パラレルワールドとかじゃなくて…???と思ってしまいます。
以前シネマ歌舞伎で刺青奇偶を観たとき、鮫の政五郎が迫力ありすぎてびびったんですが、本当に…???という気持ちでいっぱいになりますね。

インタビューでお話なさった中で、いつも初日は緊張するけど今回はお客さんの期待を感じてとりわけ緊張した、という内容がとても印象的でした。36年ぶりに同じ舞台を観るお客さんはイメージを膨らませているだろうし、舞台の話を聞いている人もそうだろうし、という。
長年第一線でお芝居をされている方でもそこまで緊張されるんだな…それほどの重圧だったのだな、としみじみ思います。もちろんその重圧は私如きが感じることはできないものだけど、思いを馳せることくらいはできるかなと。

仁左さまは、毎回初心に返ることが大切、慣れは良くない、というようなことも仰っていて、今の職場に慣れきっている私には身につまされるお言葉でございました…。
お言葉のひとつひとつがお芝居だけでなく人生の深みにまで及ぶ、これが仁左衛門丈か…!!と感銘を受けました。私のような不束者は、なおのこと初心を忘れずに日々を過ごさなければ…!

そして、仁左さまの話される上方言葉のアクセントが大変品良く心地よくて聞き惚れておりました。
私関西出身ですけど、あんな風に喋れませんもん。お人柄の素晴らしさが現れていらっしゃる…と感動しました。

1-2.玉三郎丈のインタビューについての感想

次は玉様のインタビュー。画面にお姿が現れた瞬間からもうお美しい。美しすぎて涙が出てきそうになる。おいおいマジか?とセルフツッコミを入れたくなるがマジです。
美しすぎるお姿に圧倒されてインタビュー内容をちゃんと覚えていないんだけど(これも残念ながらマジです)、
松嶋屋さんと54年くらい共演させて頂いてるので二人のお芝居にすっと入って行けると思います、みたいなお話をされていたと思います。このコメントだけでもお二人の舞台上での歴史、固い信頼関係が拝察できて尊いですね。スクリーンに向かって手を合わせたかったです。

あれ!?肝心のお芝居の感想に入るまでが長いんだけど!?大丈夫かな!?

2.桜姫東文章の感想

いよいよ舞台の幕開け。冒頭から白菊丸が儚くていたわしいですね。転んで清玄に抱き起こされるところは特に、月岡芳年が描いた浮世絵の、隅田川のほとりで今にも命を散らさんとする梅若を思い出す儚さ。

心中しようと誓ったのに、白菊丸だけが入水しちゃって、清玄よ…あんただけ生き残るなんてセコくないか…と思いつつも、土壇場で怖気付いてしまう心の弱さは自分の身にも思い当たる節が多々あるんですよね。最初の場面から人間の業を容赦なく描き出すあたり、四世鶴屋南北の鬼才ぶりが少し理解出来た気がします。

そしてここから時系列での場面の把握が出来なくなっているので、思い出したことを順不同に羅列します!
前回もこんな話をした気がしますが、とにかくにざたまの演技が凄すぎて何が何だかわからないので、詳細は二回目を観たときにでもまとめられたらいいなと希望を持ちます!

桜姫、やっぱり愛らしくて美しかった〜!!!!観れてめちゃくちゃ幸せ!!!!
玉様、36年前のお写真とお変わりないお姿…時空を超えられてませんか…。
桜姫、最初は出家をひたすら望むおとなしげで世間知らずなお姫様かと思ってたら、釣鐘権助と再会したところで、一人の恋する女にがらりと変わっちゃうんですよね!!ウワァァァァ!!
その変貌ぶりが、個人的には恐ろしささえ感じるほどで、しかしあんな顔を向けられた男は桜姫のことが二度と忘れられなくなっちゃうだろうな、と思います。

まあ出家を望んでいた理由が、権助のことが忘れられなくて他の男に嫁ぎたくないから、だもんな……とんでもない姫様だ……。
権助との密通がバレそうになって、桜姫は清玄に助けられるけど、その清玄に迫られるあたり、ちょっと可哀想にも思えてくるんですよね。
ただでさえ悪事を企む元許嫁に付け狙われているのに、頼みとしていた清玄にまで新枕を交わすだのどうだの言われて、ブルータスお前もか、っていう気分にならない?しかも僧侶やめるとか言ってるしな。私なら、そこまで頼んでねえよ!私のせい!?知らんがな!って思っちゃうな。本音出しすぎですが。

しかし桜姫、かなり奔放かつ、おのれの気持ちに正直に生きてるなあといった印象ですが、本当のところは行動にちゃんと意図があったのかもしれない…とも推測します。
籠の鳥である姫君の境遇から脱出するために出家を実行しようとしたのか(違う気もするけど)、
はたまた、親兄弟の仇と家宝を探し出すための大がかりな釣りとして出家を言い出したのか?
いや、後者だったらあまりにも策士すぎるし、深読みしすぎるかとも思うんですが、下の巻の予告編での、遊女の身分に零落したのにあまりに肝が据わっているお姿を観るにつけ、まさか自らの身を賭けてまで……とか勝手な妄想をしちゃう。
権助に恋い焦がれてるのも本気なんだろうな~とも感じる。しかし、行き当たりばったりで思いのままに突き進んでいるわけでもないのかも……とか、やっぱり深読みしたくなっちゃう。いやどうなんでしょうね。
桜姫を観ていると、当時の人々はあんな自由な生き方に憧れたのかなぁと感じます。

釣鐘権助~~!!めちゃめちゃ色っぽくて悪い男じゃないですか!!
桜姫のあらすじを見た段階では、襲われた男のことが忘れられないなんて、そんなめちゃくちゃな話ある?とかなり疑問でしたが、仁左さまの権助は説得力がありすぎる、と思わず息を呑みました。
もちろん現実で起こったらただの犯罪ですけども!そういうところ含めて夢の世界なんですかね歌舞伎は……おそろしい……。
とんでもない筋書きに思わず納得してしまうほどの超絶的な演技ですよ。
清玄は、ぱっと見は仁左さまのイメージからさほどかけ離れていませんけど、権助として登場すると五度見くらいしたくなる。

清玄は、僧侶なのに何だか一番人間臭いというか、善人にも悪人にもなりきれない辺りが、登場人物の中では、世間一般を生きる人間に一番近いと感じました。
桜姫も権助もぶっ飛んでるからなぁ。
清玄は僧侶なのに全然欲を捨てきれてない辺りがオイオイと思うんだけど、僧侶である前にやっぱり一人の人間なのかなぁ…。
でも冷徹にもなりきれず、桜姫と恋敵の間の子どもである赤子を見捨てられなくて結局ちゃんと世話していて、己の欲望と他者への情の間で揺らぐ姿が印象的でした。そんな清玄を演じる仁左さまがめちゃくちゃ見事ですね。

にざたまの演じる夫婦とか恋人同士、観ているこっちが恥ずかしくなってきて、アッ観ててスミマセン!!という気にさせられませんか。めっちゃこわいですね(最大級の賛辞のつもりです!!)
権助が桜姫の帯を解くところなんか、できることなら手で顔を覆いたかった。それくらい色気溢れる場面でした。えっこれ歌舞伎座でやったの……?って思いましたね。ほんと目の前で何が起こってるの……?という気分でした。

歌舞伎を観に行くときは大体あらすじを頭に入れてから行くんですけど、今回の桜姫東文章は先の展開を楽しみにしたいです。
つい今し方もネタバレをWikipediaで読まないように自らの欲望と戦い、辛うじて勝利しました。
下の巻もめちゃめちゃ楽しみです。豪華絢爛な絵巻物かと思えば因果と業のすさまじさに圧倒されるこの感じ、やみつきになりそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?