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バンジージャンプを飛んだ話

馴染みの焼き肉屋でバッタリ友人に会った
子供が生まれてなかなか会えなかった友人だ
酒も入って彼はボソリと呟いた

「バンジーは人生変わるよ」
「なんだよ急に」
彼はひとりでディズニーランドに行ったり、温泉に入りたいからと
チャリンコで東京から箱根に行くような
なかなか痺れたやつだ(帰りはチャリを郵送して帰ってきたらしい)

「スカイダイビングなら飛んだ事あるけど」
「いやいや、スカイダイビングは自分のタイミングで行かないじゃん。バンジーは自分で行かないといけないんだよ?自殺しに行かないといけないんだから!」

確かになと思ってしまった
4000mから時速200㎞で落下したのに
なんだか負けた気がした

なんかくやしいな…

翌朝、僕はおもむろにバンジージャンプのサイトをウロウロしていた

「岐阜かぁ…」

日本で一番高いバンジージャンプが岐阜県らしい
東京から約300㎞ちょい

日帰りはちょっときつい…

2番目に高いバンジージャンプは茨城県にあるそうだ
東京から170㎞ほど
これなら行けそうだ

竜神バンジー
高さ100m
1回目19,000円
同日2回目8,000円

すごいなこの差額、2回飛ぶ奴なんているのか?
スカイダイビングの撮影付きの60,000円に比べたら安いなと思ってしまった

予約はサイトからできるらしい
ちなみに今日は空いてるのかな?
どれどれ…

9時、10時、16時が空いていた
車のナビを調べてみる
今から出ても11時

ちょっと無理だな
行けても16時

なんとなく
そう、本当になんとなく手続きを進めてたんだ

あ…

予約完了メールが届いてた

そうか…
俺、今日飛ぶんだ…

人が勝手に予約したような気持ちになりながらも
急いで妻を起こす

「おはよ、今日茨城行くからシャワー浴びて来な」

妻は飛び起きた
何かおいしいものを食べに行くのだと楽しそうだ


「そっかー、ついに飛ぶかー」
車の中でバンジーのことを伝えるとあっけらかんとしていた
普段から僕はそういう奴らしい

「友部SAで"王様のまくら"買おうよ。保冷剤たくさん持ってきたから。下りしか売ってないんだよねぇ」

王様のまくらは、僕もお気に入りのロールケーキだ

バンジージャンプは竜神大吊橋にある
高速を降りて少し…いやかなり山奥にある
山道を30㎞も走った

なんでも歩行者専用としては日本最大級の長さの吊橋らしい
言われてみれば橋は橋でも、吊橋は見たことがないかもしれない

クレープ、メンチカツ、鮎の塩焼き
よかった
飲み物は買えそうだ

飛ぶまで2時間ある
少し観光でもしよう

つり橋に行くと料金表が書かれていた

金取るのか!
つり橋渡るのに!?
通行料って…昔のヤンキーじゃあるまいし…

そういえばと思った
バンジージャンプを予約した時
大体「予約完了しました!」みたいなメールが来るものだが
ここに関してはそういうのがなかった

先に予約確認をした方がよさそうだ

「こんちわー」
ロッジみたいな所が受付になっていて
なかなか雰囲気がある

「こんちわー」
誰もいない
奥でこれからバンジージャンプを飛ぶであろう者たちが
ハーネスをカチャカチャやっていたので、講習で忙しいのだろうか

「予約者ですか?」
若いお兄さんだ
「そうです。16時からのまろ茶です。予約できているか確認したくて…」
タブレットをなぞる
「まろ茶さん…まろ茶さん……あ、ありますね!予約されてますよ!」

よかった
ちゃんと予約されていた

先に説明しちゃいますねとお兄さんが
「1,000円かかりますが1名までつり橋の下まで同伴者をお連れできますがどうしますか?」

妻に動画を撮ってもらおうとは思っていたがどうだろ?
つり橋の下からは落ちていく様子を撮れないだろうし…

僕は結局1,000円払った
つり橋の下はなかなかいけないだろうし
妻にもいい経験になると思ったんだ

「じゃあ、お兄さん左手出して」
言われるがままに左手を出すとスタンプをポンと押された

「おねえさんはこのチケットね。受付に渡して半券が帰って来るからその半券無くさないでね。」

どうやら僕は左手のスタンプ
妻はチケットの半券を持っていれば
つり橋を渡り放題らしい

先に予約確認しといてよかったねと妻が言った
まったくだ
危うく通行料を払うところだった

つり橋と言えど
橋長375mもあるつり橋はジャンプしても揺れなかった

橋のいたるところがガラス張りになっていて
下の様子がうかがえるようになっている
東京タワーやスカイツリーにもあるあれだ

「いや、あたし無理だわ」
妻はあまり得意じゃないらしい
僕も覗き込んで少しゾクゾクした

ここから落ちるのか…
少し緊張してきた

「鼻の穴膨らんでるよ」
妻に言われて我に返る

僕は怖いと思うと反射的に笑ってしまう癖がある
お化け屋敷で爆笑している奴がいたら
それはきっと僕だ

真ん中くらいで大ボリュームのEDMが流れていた
下のガラスを見るとちょうどジャンプ台が見える
テンションを上げないと飛べない人もいるのか、橋の下はまるでクラブだった

まあ、そんなポンポン飛べないよな
一通りぐるりと回って車へ戻ると妻はすぐに昼寝をした
僕はというと……眠れなかったw

本を読んでも手汗が出てくる
案外緊張してるみたいだ

そういえば俺こういうやつだったよな

小心者で人見知り
学校の黒板に答えを書くときなんか
ゲロを吐きそうなくらい緊張していた

なにかチャレンジするたびに
子供の時の自分が見え隠れする

田舎から上京する時
スカイダイビングする時
タイへ一人旅に行った時

本当はビビッてた
でもこれをやり遂げたらきっとすごいねって言ってくれる
俺、褒められたくてがんばってきたんだなぁ

受付十分前
よし、行くか

受付に着くと保険の署名をした
スカイダイビングの時もそうだけど
こういう署名すると実感わくよね

ハーネスをカチャカチャ付ける
靴はスニーカーを指定されたのでスニーカーを履いてきたのだが

「あー、これハイカットですねー。この人クロックスでー」と言っていた

クロックス?あの?
まさかあれでは飛ばないだろ
何かの専門用語だろうと思ったらクロックスだった

クロックス!!!
俺クロックスで飛ぶの!?
マジ?
確かにクロックスは好きだ

銀座に行くときも
北海道へ旅行に行ったときも
タイの一人旅もクロックスだった

まさかクロックスでバンジージャンプを飛ぶとは…
おもしろすぎるだろ

16時の会は僕を含めて6人だった
「では、皆さんで順番を決めてください」
なるほど、自分達で決めるのか

「……」
「……」

こういう空気は大好きだ

「俺、一番最初に飛びたいです」
ダチョウ倶楽部のようにどうぞどうぞと聞えてくる
「では、えーと、まろ茶さんが最初で、後は道中で決めておいてください」

雲行きが怪しかった
というかさっきまでの晴天が嘘のようにどしゃ降りだった

「雷なった時点で中止なのでー」
やべぇ、一発で飛ぼ

ジャンプ台へ行くにはつり橋の外側にある狭い階段を下りて行った
ここでもなかなかの迫力だ

つり橋の下に着くと
上で聞えていたミュージックが大ボリュームで流れてくる

ベンチにうながされ、大声を張り上げて説明してくれた
「えー飛んだあとなんですけど!この赤いロープを…」
「あなた一番最初?」
外国人が話しかける
「ああそうです」
何やら足に重りのような物を巻いてくれてる

「で!その後に!この輪っかみたいな物が…」
「右足上げて」
はいはい

「そしたら!この…」
「あなた飛ぶの初めて?」
説明を聞かせろや!

結局うろ覚えでジャンプ台に促されてしまった

さてさて
やってまいりましたよバンジージャンプ
この緊張感はたまりませんねぇ

スタッフが指さす方を向くと妻が動画を撮ってくれていた
笑顔でピースを返すと
一緒に飛ぶ人たちも手を振ってくれた

クロックスを三分の一だけ外に出す

おお、こえーw
スタッフがカウントダウンをする

「行きますよー。54321」
え?カウント早くね?
「ハイ!バンジー!」

思いっきり飛んだ

静寂が訪れる

飛んだ瞬間のこの静寂がたまらない

遅れてゴォォォという音が耳を切りはじめる

そうだ
スカイダイビングはここからトップスピードの200㎞まで加速していく
風圧で息もできなくなるあれだ

水面がどんどん近づいてくる

……

………

長くね?

足にゴムの伸縮が伝わる

あれ?もう戻る?

びよーんと反動で跳ね上がる

ていうか
……遅くね?

落下スピードがとてもゆっくりだった
死を目前にして研ぎ澄まされていたのか
スカイダイビングの経験で慣れてしまったのか

正直よくわからないが僕の感想は"長くね?"と"遅くね?"だった

「はい、お疲れ様でしたー」

引っ張り上げられた僕はキョトンとしていた
なんだかなー

装備を外すとそそくさと受付へ帰されてしまった
あれ!?見れないの?
優越感に浸りながら後から飛ぶ人をニヤニヤしながら見ていたかったのに見れないの!?
あれが一番の楽しみじゃないか!

なんだよちくしょう
性格の悪さがにじみ出ていた

車の中で昨日飲んだ友達に早速動画を送った
「行動はやっ」と返ってきた
まあまあご満悦
良しとしますか

帰りの車では緊張がほぐれたのかまあよく喋ったw
恥ずかしいくらい喋った
子供がお母さんに夢中で話すあれだ

そんなこんなで僕ははれて"バンジージャンプを飛んだ人"になったわけだ

僕のTwitterにバンジージャンプの動画や写真があるので
興味があったら見に来てほしい
ぎこちない笑顔で飛ぶ僕が映っている
どうか笑ってやってくれ


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