工場IoT化の実情①(IT活用で製造業に革命を起こす ものづくりデジタライゼーション 羽田雅一著 のまとめ)

 こんにちは。先日、製造業が生産設備関係に関する最新の取組を発表するオンラインの企画を試聴させていただきました。そこでは、自動化はもちろん、IoT化に取り組んでいる企業が多数ありました。ここで言うIoTは、「生産設備の稼働状況を見える化すること」のことです(本来は、モノのインターネット化のため、設備の見える化だけではありません)。
 普段からIoT関係の商材も販売しておりますが、よく「まだそこまで必要ない…」、「見える化してどうするの?」等の意見を聞くことが多く、現場担当者は反対派が多いと感じていました。
 そこで改めて、どのような目的で何ができるのか、及び実際行っているところはどうしているのかを調べてみました。工場のIoT化全般に関してどのようなサービスがあるかは、1年以上前に書いた記事で分類しています。この記事の中で言うと、①〜④の設備の見える化が今回の対象になります。

 今回は、羽田雅一著の「ものづくりデジタライゼーション」を参考に①〜④の目的、できることをまとめ直し、次回は「ものづくり白書2020」を参考に実際導入しているところはどのような目的で何をしているのかをまとめて、自分の普段の実感と合わせて現状を考えたいと思います。


 ものづくりデジタライゼーションのまとめ

 この本を選んだ理由は、IoTが導入されていない背景や、IoTの本当の目的を説明した上で、どのようなことができるかを実際の自社サービスを例に現実的に説明しているからです。単に一例をあげるわけでも、IoTの商品の紹介をするだけなわけでもなく、俯瞰的に説明している点がわかりやすいと思いました。さらに著者の会社が提供するSIGNAL CHAINは設備の見える化システムの中でも、多様な要望に答えることができる総合的なサービスである点でも参考になると考えました。内容を本記事の主旨に合う部分、及びIoTの実例の部分にのみ絞って簡単にまとめます。

1. 日本の製造業の強み
 ①自社の技術や製品への徹底したこだわり。
 ②終身雇用による長期間雇用。
 ③現場力(トラブルを現場の技術で解決、カイゼンする力)。
 ④経験やカンに基づいた暗黙知

2. 日本の製造業のIT導入状況
 諸外国に比べて低く、将来的な導入意欲を比較するとさらに低い。理由は、カイゼンを代表とする現場力や暗黙知等の人間系のスキルで問題に対応してきたから。財務会計や給与システム等の業務領域はデジタル化されているが、生産技術や現場力などの他社との違いを生む競争領域は暗黙知に頼り、デジタル化が進んで来なかった。業務領域に加え、この競争領域こそデジタル化が必要。

3. 実際にできること(自社サービス SIGNAL CHAINを使って)
 見える化できる内容
 設備毎の累積稼働時間、累積停止時間、連続加工の回数、製品毎の製造にかかった割合、チョコ亭時間、故障時間、人待ち時間などを把握することができる。さらにそれらを1台ごとやライン毎、時間単位等でも見ることができる。
 SIGNAL CHAINによる解決事例
 ①稼働監視の遠隔化:海外も含めて事務所や現場外から設備の稼働状況を把握できる。
 ②設備毎の生産性分析:設備毎の情報を分析することで、生産性を向上させる。
 ③予兆保全:故障がおきた時の前後の負荷等を見直し、分析することで、今後故障が起きる前に検知できるようにする。
 ④作業者の能率管理:同じ作業でも作業者によって設備の稼働状況が違う等、作業者の能率等を具体的に把握することができる。

 

4. OEEの管理、トレサビの把握
 SIGNAL CHAINでは単に稼働状況だけを図るのではなく、OEEの把握、分析ができる。
OEE = 稼働率 X 性能 X 品質 
稼働率 = 稼働時間 ÷ 負荷時間
性能 = 速度(基準サイクルタイム÷実際サイクルタイム) X 正味稼働率(生産数量x実際サイクルタイム÷稼働時間)
品質 = 生産数量に対する良品の割合
これらをダッシュボードに見える化することで、どこに問題があるかを把握することができる。(下記が問題の原因例)
稼働率に関わるロス:故障、刃具交換、立ち上がり時、段取り替え・調整、作業者待ち時間
性能に関わるロス:チョコ停・空転、速度定価
品質に関わるロス:不良、手直しロス
SIGNAL CHAINでは、稼働率は信号灯から、性能は別システムのMES等から、品質はERPやLIMS等からデータを受け、一覧表示することができる。
さらに様々なデータを活用するために一箇所で統合管理するソフトウェアが入っている。

トレーサビリティに関しても把握が可能。トレーサビリティには2段階あり、順番に行う必要がある。
第一段階:原材料、部品、中間品や製品ロット管理 (モノのトレサビ)
第二段階:製造環境のトレサビ(設備や治具、作業者、手順等)
第一段階はERPが主流だが、これだけではトレサビにはならない。IoTによって特定の製品が、「どの設備を使って」「誰が」「どのような手順で」製造したかを記録できる。第二段階だけで行っても、ラインのカイゼンに止まってしまうため、第一段階と第二段階共に行う必要がある。

5. 設計と製造の連携
 インダストリー4.0の目的は、エンジニアリングチェーン(設計側)とサプライチェーン(製造側)を繋ぐことでマスカスタマイゼーションを実現すること。
課題:E-BOM(設計の部品表)とM-BOM(製造の部品表)が違う。
①データの変換に膨大な工数がかかる。
②製造現場の情報(工程、設備、治具等)を把握していない設計仕様のため、微修正等で現場に負担がかかる。
③現場の情報が設計にフィードバックされないため、類似品の設計でも同様の問題が起こる。
 E-BOM(製品を構成する部品や数量が記載)とM-BOM(工程や在庫ポイントなどが記載)と工程表(工程図、QC図、作業手順書等の工程設計をまとめたもの)を共有することが必要である。
①製造時の手戻り防止、調達リードタイム短縮、マスターデータの一元管理ができる。
②設計変更による製造への影響や製造現場での影響を確認しながら設計ができる。
③現場でも事前に設計の確認や製造準備ができる。
④製造実績情報を設計にフィードバックすることで、量産開始前に今後発生するコストを削減できる。

IoTとは単なる設備の見える化というわけではなく、設備情報を見える化し、設計とも連携することで、マスカスタマイゼーションを実現することである。

5. 生産技術(現場情報)のデジタル化
 現場には、人手などでデータをとっているが生かし切れていない情報が山ほどある。それらをデジタル化することで競争領域がデジタル化される。
①帳票のデジタル化:日報、保全記録、実績・検査記録、出荷実績記録、作業実績記録、QCチェックシート、メンテナンス記録等を見える化して分析することができる。
②人の作業のデジタル化:モーションキャプチャー(3次元で動作を記録するセンサ)を使い、3次元身体モデルの動きをリアルタイムで捉えて見える化する。作業指導や品質保証、作業負荷の計測等に用いられる。VR技術を使って暗黙知を共有できるようにする。

6. ビジネスモデルの変革
 IoTによって競争領域のデジタル化をすることで、ビジネスモデル自体の変革も可能。モノ売りからコト(サービス)売りへ変わることができる。
例:製品のセンサからデータをとり、そのデータを駆使して、情報を販売や、コンサルティング販売等を行う。


私の感想
 見える化が目的ではなく、「何のための見える化」なのかを把握した上で取り組むことの重要性をIoTサービスを提供する側も認識していると感じました。さらにその最終目的が、設計との連携によるマスカスタマイゼーションの実現というところが、今後の日本の製造業の需要(多品種少量、カスタマイゼーション生産)を捉えており、今後必要とされるのではないかと考えました。必要とされるために、単純な稼働状況の見える化やパッケージモノではなく、顧客毎の目的に合った形のIoTシステムを提供できるソフトでなければならないと考えました。
 工場のIoT化をするにしてもしないにしてももう一度、何を作っているかだけでなく、どんな価値を提供しているかを考えて、そこにより付加価値をつけるために自社の競争領域をデジタル化していく必要があると考えました。

来週は、「ものづくり白書2020」から実際にどのような部分がIoT化されているかを調べて、私の普段の実感と合わせて工場のIoT化の実情を書きたいと思います。




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