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「アレ」の功績

〝今年の流行語大賞…アレで決まりじゃね?〟



アレとは…そう「アレ」だ!


今シーズン、岡田監督は選手が優勝を意識しないように「優勝」という言葉を封印し、「アレ」に置き換えた。チームのスローガンも「A.R.E」にする徹底ぶり。

一見ふざけているようだが、単なる思い付きではない。裏にちゃんとした計算がある。


起源は、岡田監督がオリックスの指揮を執っていた2010年。セ・パ交流戦の優勝を争う中、選手が「優勝」を意識しないよう、代わりに「アレ」という言葉を使った。


すると…コーチや報道陣まで臆せず「アレ」を使うようになり、そこから初優勝に繋がった。


今季の阪神でも、まさに同じ現象が起きた。

一緒に“アレ”目指して頑張りたい(湯浅)
絶対に“アレ”をして、喜ばせたい(岩崎)
“アレ”を目指して頑張りたい(佐藤輝)

日刊スポーツ

ライトで気軽に使える「アレ」というワードに変換したことで、選手たちが頻繁に口にするようになり、逆にチーム全体の士気が高まる形となった。キーワードとしてメディアに注目され、ファンがSNSなどで盛り上がるという副産物も。



人は、意識せずにはいられない生き物。

「ドス黒いリンゴを絶対に想像しないで!」と言われた次の瞬間、誰しも脳内は真っ黒だ。


これまで阪神は、優勝が期待されながらシーズン終盤で失速し、優勝を逃がした年が何度もある。その敗因は〝優勝への過剰な意識〟ではないか?岡田監督は、きっとそう考えた。


だから、たかが〝言葉ひとつ〟を変えることに、異常にこだわった。狙いは的中。たかが〝言葉ひとつ〟が選手の余計なプレッシャーを和らげ、かつチームとファンの意識をポジティブに一体化した。岡田マジックは、ここまで見越していたと想像する。


そもそも、岡田監督は大雑把に見えて(?)、内実は緻密で堅実な策略家だと感じる。


象徴的なのは〝自陣の投手の与四球を減らし、自陣の打者の四球を増やす〟作戦。


実現のために、査定のポイントに四球を入れることを球団に了承させ、選手にも伝えた。


その結果、受けた四球の数は、昨年は1年で358個だったものが、今季はなんと456個(優勝決定時)。リーグ断トツの1位。


セ・リーグ上位3チームの阪神、広島、DeNAのチーム打率はほぼ同じ。しかもチーム本塁打は阪神が一番少ない。にも拘らず、得点数は阪神が勝る。まさに〝四球の賜物〟だ。


そういえば今年3月に開催されたWBCでも、プレーだけでなく、多くの「言葉」が話題になった。

憧れるのをやめましょう。(途中略)僕らは今日、超えるために、トップになるために来た。

大谷翔平選手

『世界一になりたい』ではなく『世界一になる』

栗山英樹監督


大谷選手や栗山監督は「トップ」「世界一」という明確な目標をド直球で投げかけ、チームメイトを鼓舞した。彼らだけではない。スポーツに限らず、ビジネスや教育業界においても、多くのリーダーはこの手法ではないか?


ところが岡田監督は正反対。あえて〝明確な目標〟を曖昧にすることで、チームの士気とポテンシャルを高めた。こんなやり方、普通はできない。誉められないし、下手したら怒られる。それを実行に踏み切れるのも、岡田監督の力量だろう。


二つの対称的な戦略は、どちらも最高の結果を勝ち取った。つまり、どちらも成功。共通する成功要因は、チームメイトの〝心情に寄り添った〟ことではないか。仲間が置かれた状況・心理状態に想像を巡らし、一番〝効く〟言葉を選び訴えた。



つくづく、指導者・リーダーに求められる最重要資質は「言葉」だ…と思う。同時に、その「言葉」の奥深さ、難しさを改めて痛感させてもらった。色んなことを考えさせてくれる、18年ぶりの天晴れすぎる〝アレ〟だった。

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