見出し画像

本当の〝強さ〟というもの


先日の大一番に、感情揺さぶられまくる。


永瀬拓矢王座と藤井聡太竜王・名人が相まみえた王座戦の第4局。

その結末は…あまりにも衝撃的。


永瀬王座の〝誤手〟に解説者やプロら絶句。
素人には一瞬なにが起きたのか分からない。

しかし現代将棋は残酷だ。私のような〝にわか〟にも、ご丁寧にAIが戦況を的確に教えてくれる。


永瀬王座の勝率表示は「99%」から「16%」に急変。どよめく観衆。でもAIはお構いなし。空気も読まなければ容赦もしない。冷酷に戦況を可視化する。勝率が一気に数%に萎む。将棋史に残る世紀の大逆転劇を、AIは大したことないかのごとく淡々と伝えた。



最強の挑戦者を相手に全神経を注ぎ続け、我慢に次ぐ我慢の果てに、有利な形勢を積み上げた。気が遠くなるような難局を凌ぎ続け、ようやく掴んだ、勝利への一筋。



もうちょっと…あと数手…。五連覇の防衛がすぐそこに。〝よし、勝った!〟そう思った次の瞬間…

たった一手のミスが、全てをひっくり返す。その非情な悪夢に、将棋の残酷さに、見ていた我々も絶句する。

永瀬王座は天を仰ぎ、両手で頭をかきむしる。凄まじい形相。後ろを向くや苦悶の表情が浮かぶ。壮絶な悔しさが伝わってくる。その振る舞いに我々は共鳴し、涙をそそられた。


このシーンに、きっと多くの人が惹き込まれた。永瀬王座の人間らしさに共感した。だからメディアもこぞって取り上げた。


でも、私の涙腺が最も熱くなったのは、この後の出来事だ。それは、永瀬王座が頭をかきむしった、わずか数分後。


彼は脱いでいた羽織を着はじめた。そして居住まいを正し〝その瞬間〟に備える。



「負けました」



はっきりとした声で、負けを告げた。礼儀正しく一礼。数分前の取り乱していた彼は、もう居ない。そこに居たのは正真正銘〝プロ棋士〟永瀬拓也。



人は、厳しい局面や負けた時にこそ、真価が現れると、私は思う。


彼はどん底から、わずか数分で、己を立て直した。たった一人で。まだ悔いの残る敗北を何とか受け入れ、きちんと頭を下げる。その姿に、超一流棋士の矜持を見た。


かつて21歳で史上最年少名人となったプロ棋士・谷川浩司さんの名言。

「負けました」といって頭を下げるのが正しい投了の仕方。つらい瞬間です。でも「負けました」とはっきり言える人はプロでも強くなる。これをいいかげんにしている人は上にいけません。

「人生を動かす賢者の言葉」池田書店


確かに、魔が差したような不運の一手だったかもしれない。でも、それも含めて地力が足りなかったと己を納得させ、最後は素直に負けを認める。そうやって現実を受け入れて、初めて次の一歩を踏み出すことができる。

きちんと負けを受け入れることで〝何が足りなかったのか〟を真摯に省みる姿勢となり、不足を補うための更なる努力・成長につながる。


詰まるところ、人生における成長も同じなのかもしれない。勝ち負け自体は、実は大した問題じゃない。むしろどんどん負けていい。大切なのは、その負けをどう捉え、どうやって次に生かせるか?


近い将来、一層強く成長された永瀬九段が、再び世間をアッと驚かせる〝再起の一手〟が、今から楽しみでならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?