📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『私の人生は満ち足りています！』新約聖書　ルカの福音書第2章22～35節　2023年12月31日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『私の人生は満ち足りています！』
新約聖書　ルカの福音書第2章22～35節　2023年12月31日

22　そして、モーセの律法による彼らのきよめの期間が満ちたとき、両親は幼子をエルサレムに連れて行った。
23それは、主の律法に「最初に胎を開く男子はみな、主のために聖別された者と呼ばれる」と書いてあるとおり、幼子を主に献げるためであった。
24また、主の律法に「山鳩一つがい、あるいは家鳩のひな二羽」と言われていることにしたがって、いけにえを献げるためであった。
25　そのとき、エルサレムにシメオンという人がいた。この人は正しい、敬虔な人で、イスラエルが慰められるのを待ち望んでいた。また、聖霊が彼の上におられた。
26そして、主のキリストを見るまでは決して死を見ることはないと、聖霊によって告げられていた。
27シメオンが御霊に導かれて宮に入ると、律法の慣習を守るために、両親が幼子イエスを連れて入って来た。
28シメオンは幼子を腕に抱き、神をほめたたえて言った。
29「主よ。今こそあなたは、おことばどおり、
　しもべを安らかに去らせてくださいます。
30私の目があなたの御救いを見たからです。
31あなたが万民の前に備えられた救いを。
32異邦人を照らす啓示の光、
　御民イスラエルの栄光を。」
33父と母は、幼子について語られる様々なことに驚いた。
34シメオンは両親を祝福し、母マリアに言った。「ご覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人が倒れたり立ち上がったりするために定められ、また、人々の反対にあうしるしとして定められています。
35あなた自身の心さえも、剣が刺し貫くことになります。それは多くの人の心のうちの思いが、あらわになるためです。」

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　さて年末、大みそかになりました。クリスマスの飾りがここにあるわけですけれども、これは本来ヨーロッパなどでは1月6日まで飾られるんですね。何か日本では、本当にあわただしてくて、24日の夜を明けて、25日になりましたら、もうお店には門松が飾ってあったりするわけですね。数年前に売られていましたちょっと小さなクリスマスツリーの飾りは、なんと裏返すと、そのまま門松になるという、面白い商品があったわけですけれども、これはクリスマスのお祝いの仕方としては正しくはないんですね。―まぁ日本ではクリスマスの飾りを新年になっても置いておくと、だらしないと見られることが多いので、今回は今日の礼拝後に片付けたいとは思いますけれども―今はまだクリスマスシーズンなわけですね。教会の暦でも、今日は「降誕節第一主日」と呼ばれるわけですね。ですから、教派によっても異なりますけれども、教会暦を大事にする教会では、今日は、このイエス様のお誕生の一連の話の中の一つであるこの箇所が読まれるんですね（実は40節まで続くのですが、今日は短く35節までとさせていただきました。）。

　この箇所はそして、教会の長い伝統の中で、年末の礼拝で読まれるのにふさわしい箇所ともされてきました。なぜかというと、今日のみことばで出てきたシメオンという人物、この人が言ったことば、これは歌になっているんですけれども、―それは原文のギリシャ語を私よりずっとよく読める人が読むと詩文か散文かが分かるんですね。ここは詩文になっています。―ですからシメオンという人は、幼子イエス様を腕に抱いて、神をほめたたえて「言った」とありますけれども、歌ったんですね(29節)。＊ラテン語ではシメオンの始めのことばを取ってヌンク・ディミティスと言いますけれども、教会の歴史の中でたくさんの作曲家がその題名でたくさんの曲を作ってきました。

29「主よ。今こそあなたは、おことばどおり、
　しもべを安らかに去らせてくださいます。

　このことばから、もう思い残すことはない。もう死んでもいい、と取れますから、シメオンさんは、―年齢は書いていませんから、じつは若い人であったと言う聖書学者もいますけれども―でもまぁおそらくもう高齢であったと見て間違いないだろうと思います。彼は祭司であったとか預言者であったとか律法学者であったとかパリサイ人であったとか、そんなことは書いていません。何か公式に認められた宗教家ではなかったんです。いわば一人の信徒であった。けれど、神から与えられた聖霊に満たされていた。そこで預言の詩を歌ったんですね。その歌の中に、しもべを、つまり神のしもべである私を安らかに去らせて下さいます、ということばがあるのです。ですから、要するに幼子イエス様をこの腕に抱いて、救い主、メシアをこの目で見たから、もういつ死んでもいい、と歌った、ということなんです。終わりを意識した歌なんですね。

　シメオンさんは人生の終わりを意識して歌いました。でも終わりって色々あるんです。今日みたいに年の終わり、あるいは、この箇所は、一日の終わりの時の祈りに用いられる聖書のことば、ともされてきました。一日のつとめを終えて、安らかに眠りにつきます。そういう時にもふさわしいことなのでしょう。

　ところで、終わりを考えるということは、ある意味で、何か心が萎えてしまう想いをいだく方もいらっしゃるかもしれません。何かもっと新しい年に向かってハツラツと、ということが語られるような箇所の方が元気になれると思われるかもしれません。けれども、ここの箇所ほど、ある意味で、そういうハツラツとしたメッセージよりも明るい希望が語られているとさえ私は思うのです。

　改めて見て行きますと、この日何が起こっていたのか。これは、ちょうど日本の風習で、赤ちゃんが生れたら、神社にお宮参りに行く、ということとよく似ていることだと考えると分かりやすいのです。
　モーセの律法による彼らのきよめの期間が満ちた時、とありますけれども、お母さんのマリアさんのきよめの期間なんです。
　旧約聖書レビ記の第12章に、出産した女性の穢れときよめの話が出て来ます。当時のユダヤ人たちは、体の外に出た血というものを穢れと考えました。穢れと言いますと、頑張って産んだ女性になんと失礼なことか、と思われそうですけれども、これはきよいきたないではなくて、儀式的な穢れのことなんですね。そして、今でも産褥期って言いますよね？お産の産にじょくって難しい漢字を書いて、期間の期ですけれども、出産の後、体が出産のダメージから回復して普通の状態に戻るまで6週間～8週間、安静にしておく、というのがあるんですね。
　そして、当時のユダヤでは、ちょうど似たような期間である40日間、いわば産後の女性はステイホームをしまして、労働などに駆り出されることがないようにしたわけです。ですから、このきよめの期間というのは、出産したお母さんの体を守るための安静の期間という側面があったわけですね。

　その産褥期にあたるものが終わって、お宮参りのようなものをしに、マリアさんとヨセフさんは、赤ちゃんのイエス様を抱いて、エルサレム神殿に行ったわけです。
　日本の神社とは似てはいても少し考え方が違うかもしれませんけれども、ユダヤでは、長男は神のもの、という考えが浸透していました。ですから、この長男である幼子イエス様を神にささげる。ユダヤの家庭は皆そう考えていたようですから、多くの赤ちゃん連れが他にも来ていたでしょう。そこで、長男を神にささげるわけですが、文字通りにしますと、長男みんな神殿仕えになってしまって、どこの家も後継ぎの長男がいなくなるわけですね。そこでどこのご家庭も、その子供の代金であるかのように、いくらかのお金を捧げた、そして子供を自分の家で育てて、父親の跡を継がせることを許されたわけですね。だからマリアとヨセフもいくらかのお金も持っていったでしょう。

　そしてもう一つ、犠牲のいけにえをささげるために持って行ったんですね。「山鳩一つがい、あるいは家鳩のひな二羽」とありますけれども、レビ記第12章を見れば、本来は小羊と鳩一羽なんですね。でも、小羊を買う余裕がない貧しい家庭であれば、山鳩一つがいか家鳩のひな二羽でよろしい、ということになっていたわけです。ですからここでも、マリアとヨセフの家庭が貧しかったということがうかがい知れるわけですね。

　さて、シメオンさんはどういう背景を持っていて、幼子イエス様にお出会いしたでしょうか。25節からをもう一度見てみましょう。

25　そのとき、エルサレムにシメオンという人がいた。この人は正しい、敬虔な人で、イスラエルが慰められるのを待ち望んでいた。また、聖霊が彼の上におられた。
26そして、主のキリストを見るまでは決して死を見ることはないと、聖霊によって告げられていた。
　先ほども申しましたように、祭司などの役職が何もなかったんですね。けれども、正しい、というのは、この場合、律法をきちんと守る人であった、という意味です。そして、聖霊が彼の上におられた。「26そして、主のキリストを見るまでは決して死を見ることはないと、聖霊によって告げられていた。」やがて来られるメシア・キリストを見るまで死なないと聖霊によって告げられていたということは、ある意味でメシア・キリストが来るまでの番人としての使命を彼が神から与えられていた、ということでもあります。そして、この「イスラエルが慰められるのを待ち望んでいた。」というのはどういうことでしょうか。

　まぁ慰め、って色々ありますね。悲しい目に遭った人に慰めのことばをかける、こういったイメージがあると思いますが、でも、イスラエル全体の慰めって言いますから、ちょっと個人に慰めのことばをかけるというのは違うと思われます。
　当時のイスラエルは、ローマ帝国の属国・属州になってしまっていて、支配されていたんですね。重税のうえに、神の民であるわれわれが異邦人に支配されるなんて屈辱的だ、ということで、ほとんどの人がローマの支配に反対していました。それで旧約聖書にやがてメシアが来られる、という預言が何度も書いてあっても、それは、ローマ帝国をやっつけてくれて、あのダビデ王国の再来のような、ユダヤの独立王国を打ち立ててくれる方、それがやがて来られるメシアだと、こういうふうに、当時ほとんどのユダヤ人たちは思っていたんです。けれども、シメオンは聖霊に満たされて、澄んだ目で、鋭い洞察力で、そのメシア・キリストとしてお生まれになったイエス様の本質を見抜くんですね。

　それで、シメオンは、イスラエルの慰め、というのは、そういう、軍事的政治的なヒーローとしてのメシアが現れて独立王国を打ち立ててくれるような単純な慰めではないと知っていたんです。そして、その慰めとは、旧約聖書のイザヤ書第40章の冒頭で語られる慰めだと知っていたんです。

旧約聖書　イザヤ書第40章1～2節

1　「慰めよ、慰めよ、わたしの民を。
──あなたがたの神は仰せられる──
2　エルサレムに優しく語りかけよ。
これに呼びかけよ。
その苦役は終わり、その咎は償われている、と。
そのすべての罪に代えて、
二倍のものを主の手から受けている、と。」

　つまり、ここでルカが「慰め」と書いているのは、イザヤ書によれば「罪のゆるし」という慰めなんです。イザヤの文脈では、バビロン捕囚が背景にありました。イスラエルが偶像礼拝と、不公正や弱者を虐げることなどへの言わば罰として、バビロン・つまり新バビロニア帝国に捕らえ移されるということがありました。けれど、帰還ができることになった。そのイスラエルの罪はゆるされた、と言って慰めよ慰めよと語るのが、イザヤ書第40章の預言だったわけですね。

　そして、ルカの今日の第2章の25～27節までだけで、聖霊、聖霊、御霊、と3回も言われている通りに、シメオンは聖霊に満たされていて、先ほどここでシメオンは預言者として活動したと申しました。その歌が預言の歌なんです。

29「主よ。今こそあなたは、おことばどおり、
　しもべを安らかに去らせてくださいます。
30私の目があなたの御救いを見たからです。
31あなたが万民の前に備えられた救いを。
32異邦人を照らす啓示の光、
　御民イスラエルの栄光を。」

　と、こう歌うんですね。そして、

33父と母は、幼子について語られる様々なことに驚いた。

　とあります。これはある牧師がおっしゃっていることですが、何に驚いたか？それは、この幼子イエスの救いが異邦人の世界まで及ぶこと、ユダヤの同胞たちが今まで「不浄の民」「無資格者」とみなした人たち（異邦人）までも救いに入れることに「驚嘆した」んです。おそらくは十分には分からぬまま、ただ驚いて神を崇めたのです。と言っているんですね。

　つまり、イエス様が、ユダヤ・イスラエルという狭い範囲にとどまらず、世界の救い主であることを、もうシメオンは見抜いていたということなんですね。
ちなみにこの32節の「異邦人を照らす啓示の光」というのは、翻訳によっては「異邦人」ではなくて「万民」となっています。どちらの翻訳もできることばですが、「万民」というこちらの翻訳の方がいいと思います。というのは、異邦人が訳すと、ちょっと問題が出て来ると思うんですね。それは、異邦人とユダヤ人、という対立概念として取ってしまう人が出かねない翻訳だと思うんですね。
救いは、ユダヤ人異邦人関係なく開かれています。しかし、ここで、異邦人、と訳されていますと、救いはユダヤ人から取り去られて、異邦人に移った、なのでユダヤ人は救われない、などという、反ユダヤ主義的な取り方をされかねないので、ユダヤ人、異邦人関係なく「すべての人」を表す「万民」というような翻訳の方がいいと思います。

　ある神学博士である牧師がこういうふうにおっしゃっています。

救世主(メシア・キリストですね。：カッコ内田村)のなすべきことはユダヤ民族のことだけにとどまらず、全世界の諸国民の光となって神の救いを全世界にもたらすことだ、と言うのです。
そういうわけで、ルカや他の福音書の中にユダヤ民族の救いや解放を言うような言葉遣いや表現があっても、それは旧約聖書の預言の言葉遣いや表現法に基づくものであり、それらの預言の内容自体は全人類に及ぶ救いを意味していることに注意しなければなりません。ユダヤ人であるかその他の異邦人であるかに関係なく、救いを受け取る者が真のイスラエルなのであり、永遠の命に与る者が迎え入れられる神の御国が「天上のエルサレム」と呼ばれるのです。

　だからこれは非常に大事なことなんですね。

　それで、このことに関連して皆さんに注意喚起をしておきたいことがあります。
　それは、今インターネットで、ユーチューブや他の動画配信サービスなどで、ディスペンセーション主義に立つ牧師先生たちや、伝道者たちの動画が非常に増えているんですね。
　ディスペンセーション主義は、終末論に非常に特徴があります。私は以前は、まぁちょっと特殊な主義だけれど、異端じゃないし、幅広い終末論の説の中の一つだよね、とある意味軽く思っていたし、批判なんてしないでおこうと思っていたんですね。
　ところが、ここに来て、ちょっと問題だなと思っているんです。ディスペンセーション主義の終末論ですと、これは濃淡がありますけれども、キリスト教シオニズムと親和性が高い、親和性が高いというのは、とても相性がいいということになってしまうんですね。（シオニズムというのはシオンに帰ろう、シオンとはエルサレムのある丘の名前ですが、ユダヤ人がパレスチナの地に帰還するという主義のことです）そして、キリスト教シオニズムの何が問題かというと、「イスラエルの回復」というのが、教えに入っている場合が多いんです。それは、イスラエルの霊的回復というのを言うのは問題ないと思うんですけれども、【イスラエルが地上の領土を回復する】というのも含まれるからなんですね。アブラハム契約というのがありますが、それの土地の契約が今も有効で、現在のイスラエル国家にそれが適用されて、そしてあのパレスチナの地にイスラエルが住み、そしてそのイスラエルの祈りに答えて主イエスの再臨が来るというような話になりがちな傾向があるんですね（パレスチナ人が住んでいる土地を追い出されてもそれが正当化されがちになる）。
　そうなりますと、ガザの住民・パレスチナ人の人権は、無視される方向になりがちになるわけですね。
　ディスペンセーション主義は、旧新約全巻を通して、ユダヤ人の救いのドラマなので、（安黒務先生という方が言うには、民族的イスラエル中心のドラマなんですね。）
　こういった終末論は、黙示録の字義的解釈などから導き出されやすい論なんですけれども、ディスペンセーション、黙示録の字義的解釈、キリスト教シオニズム、イスラエルの回復、アブラハム契約に土地の契約を含む論、こういったものがあったら、―別に見るなとは言いません。何も禁止するものはありませんので、批判的思考力をもって、本当にそうかなと、少し警戒しながら見ていただいた方がいいと思うんですね。

　また忘れてはならないと思うことは、

　先日紹介した山崎雅弘さんの、この偽の中立と真の中立の図のように、やはり弱者が虐げられていたら、彼らを弁護することは、イザヤ書第1章17節に弱い者を「弁護せよ」と書かれてあることであると思います。

　さて、話をもとに戻しまして、シメオンは、幼子イエス様がもたらしてくださるのは、ユダヤ人だけではなくて、全世界の人の救いだと気付いていたと申し上げました。
　そしてもう一つ、シメオンが気付いていたことがあります。それは、このイエス様がもたらしてくださる慰めとは、罪のゆるしの慰めだということですね。シメオンにそれが分かっていた証拠に、彼がその後にマリアに告げるセリフがあります。

34シメオンは両親を祝福し、母マリアに言った。「ご覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人が倒れたり立ち上がったりするために定められ、また、人々の反対にあうしるしとして定められています。
35あなた自身の心さえも、剣が刺し貫くことになります。それは多くの人の心のうちの思いが、あらわになるためです。」
　神社のお宮参りに行ったら神主さんがお祝いのことばを言ってくれるかどうかは私は存じませんけれども、シメオンさんのことばはどうでしょうか？おおよそお祝いのことばではないというか、穏やかではないですよね。でもイエス様の大人になってからのご生涯を、後で福音書を読んで知っている私たちにとっては、ああぴったり当てはまるな、と思うわけですね。
　人々の反対にあう、その通りですね。パリサイ人律法学者たちサドカイ人祭司長民の長老たちから反対されました。
　イスラエルの多くの人が倒れたり立ち上がったりする、これはいくつかの解釈がありますけれども、イエス様に敵対した人たちが最終的には倒れ、そしてイエス様に付き従った人たちは立ち上がる、そういったことを指しているのでしょう。
　そして35節の、多くの人の心のうちの思いが、あらわになる。それはどういうことでしょうか？人の心の奥底にある罪の思いが、あらわになる、ということでしょう。そして、「35あなた自身の心さえも、剣が刺し貫くことになります。」これは、じつは十字架の預言だと言われています。
　どういうことでしょうか？母マリアは十字架のもとにいました。先ほどマリアとヨセフは鳩をささげたのですが、本来は小羊をささげなければならなかったと申しました。しかし、不思議な事に、このイエス様は、大人になり、十字架の上で、神の小羊として、人々の、万人の罪に対する神の怒りを受けるいけにえの小羊として十字架におかかりになったのです。自分の息子が、そのように悲惨な苦しみと死を経験することで、マリアは心を剣で刺し貫かれる思いをするのです。シメオンはそれをどこまでハッキリと分かっていたかは分かりませんが、おぼろげながらにでも感じ取っていたのです。そしてそれが罪のゆるしの福音だと信じたのです。そして、その罪のゆるしの福音は、私にもこの赤ちゃんである救い主から与えられていることを知って、心から魂から慰められて、神をほめたたえたのです。

　ある牧師が、このシメオンについて、この手の平ですね。この手のグーをパーにした、と言いました。
　面白い表現だと思いましたけれど、わかりやすくて、でも本質をついていると思いました。
　私たちは、有形のものでも無形のものでも、何かを手放すことが難しいんです。いつもグーにして何かを握っているような気がします。考えみれば赤ちゃんもたいていそうですね。グーにしていることが多いですよね。それは、生まれた時から、何かを得て行く、何かを獲得していく人生を象徴しているかも知れません。
　何かを獲得したいと思っていた当時のユダヤの人たちにとって、慰めとはローマからの独立だと信じて疑いませんでした。
　想像するに、シメオンの人生は、長い年月を重ねたけれど「そんな甘いことじゃだめだね」ってずっと言われるような人生だったかもしれません。「あいつはエルサレム神殿でずうっと祈りよらぁ、信心深いがはえいがやけんどぉ、そんなことしゆうヒマがあったら、どうやったらローマ軍を追い払えるか、あんたも革命の計画に加わって知恵を出したらどうぜ！？」とか言われて、仲間や、友達、色んなものが手の平からこぼれ落ちるような生涯だったかもしれない。
　でも、その空っぽの手の平に、乗った暖かい重みがあったのです。幼子イエス様です。この罪からの救い主であるイエス様をこの腕に抱いて、魂の慰めを与えられたシメオンは、歌ったのです。
　「主よ、今こそ去ります。」それは、「もう人生ですべきことは全部済んだので、あとはラクに(ぽっくり)死ねることだけが希望です」と言ったような悲観的なものではありません。
　こう言ったのです。「私の人生はもう満ち足りています！」シメオンは、幼子イエス様を抱いた時に、その手の平も、その人生も充実しきっていることを感じたにも違いありません。はっきりと自分の死を見つめながら、死を見ているにもかかわらず、－というよりむしろ、長い人生の経験を経て、今、自分の死を目前に見ていながらーかえって自分たちが救われるということはどういうことかということを、よく見抜くことができたのです。
　主イエスにお会いすることができたシメオンは、それまで本当の魂の慰めを得ていなかった。けれど、それからの人生は、神の慰めが魂を満たしていたので、実際に安らかに死ぬことができたと思います。主イエスにお会いすることができた人間は、誰もが、安らかに死ぬことができます。生まれたばかりのこれから生きて行く主イエスが、もうその人生の最後に至っていたこのシメオンに抱かれながら、このシメオンに安らかな死を与えておられる。そして天の御国を与えておられる。まことにふしぎな、しかし主イエスにお会いすることがどういうことかということを、まことによく示す美しい出会いの物語が、ここに語られています。そして、これがまさに礼拝で起こる私たちの物語なのです！きょう、礼拝において主イエスにお会いすることができた、こんなに人生が充実していることはない。私の人生は満たされています！老いも若きも、幾度も幾度もそのように告白しながら、共に歩んで行きたいと思います。お祈りをいたします。

恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は、御子主イエスを、赤ちゃんとしてこの世界にお送りくださいました。不思議なことです。シメオンはまた御霊に満たされて、不思議なことにその赤子の正体を見抜きました。そして罪のゆるしの真実の慰めを与えられ、その人生は満たされました。シメオンの物語は、私たちの物語です。罪の赦しと永遠のいのちという魂の慰めを与えられて、礼拝において主イエスに出会う、そしてその神の物語に、私たちの物語がよりあわされて行きます。そして私たちも告白いたします。ヌンクディミティス。私の人生は満ち足りています！この慰めが、世界中の人々の心を満たしますように。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。

#ヌンクディミティス #シメオンの讃歌