📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『主イエスの洗礼』新約聖書　マルコの福音書第1章4～11節　2023年1月7日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『主イエスの洗礼』
新約聖書　マルコの福音書第1章4～11節　2023年1月7日

4バプテスマのヨハネが荒野に現れ、罪の赦しに導く悔い改めのバプテスマを宣べ伝えた。
5ユダヤ地方の全域とエルサレムの住民はみな、ヨハネのもとにやって来て、自分の罪を告白し、ヨルダン川で彼からバプテスマを受けていた。
6ヨハネはらくだの毛の衣を着て、腰に革の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。
7ヨハネはこう宣べ伝えた。「私よりも力のある方が私の後に来られます。私には、かがんでその方の履き物のひもを解く資格もありません。
8私はあなたがたに水でバプテスマを授けましたが、この方は聖霊によってバプテスマをお授けになります。」
9　そのころ、イエスはガリラヤのナザレからやって来て、ヨルダン川でヨハネからバプテスマを受けられた。
10イエスは、水の中から上がるとすぐに、天が裂けて御霊が鳩のようにご自分に降って来るのをご覧になった。
11すると天から声がした。「あなたはわたしの愛する子。わたしはあなたを喜ぶ。」

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　新しい年になりましたけれども、もう本当に新年のお祝いのことばを申し上げるのもはばかられるような年明けになったような気がします。登戸での大きな地震のこともあります。このことについても祈り続けたいと思いますが、またガザもさらに大変な状況になっているようです。
　今ガザの住民の死者が2万人を超えまして、それだけでも恐ろしいことですが、国連によれば、壁に取り囲まれたガザの住民の40％が飢餓の危機にあるそうですね。このまま飢餓が続けば、ガザの人口が220万人から240万人と聞きますから、40％ですと、単純計算で88万人から(96万人と)100万人近くの人が亡くなってしまう可能性があるわけですね。そうなりますと、まさに桁違いの恐ろしい被害が出てしまいかねないわけです。
　しかもこの飢餓は、自然に発生したものではなくて、人為的なんですね。東京経済大学のある教授(早尾貴紀先生という教授でいらっしゃるで合ってると思いますけれども)、その先生が指摘していることですが、イスラエルの飢餓政策だというんですね。飢餓というのを戦争の武器に使っているのだと。
　これはもちろんそういう思い込みや憶測ではなくて、イスラエル国防省のヨアブ・ガラントという人が言っているんですね。「我々はガザ地区を完全に包囲する。電気も、食料も、水も、ガスもない。完全な封鎖だ」と実質武器として使うと言っていると同じことですね。
　心が非常に痛みます。ガザの市民に対してそんなことするのはやめて、即停戦して大量の水と食料が運び込まれないといけないと思います。
　また、イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナ人を、―これハマスを、じゃないですよ。ハマスを、だったらまだちょっと分からなくもないですが―パレスチナ人全体を、旧約聖書を引用して「滅ぼすべきアマレク」などと言っているんですね。そんなひどい聖書の引用は無いと思いますね。

　それで今日、神のことばとして共に聞きましたのは、マルコの福音書第1章のイエス様の洗礼の場面ですが、今日礼拝への神からの招きのことばとして、イザヤ書第42章が冒頭で読まれました。そこに書かれてあることは、どんなに聖書が、―これは旧約聖書も新約聖書もそうなんですけれども―弱者やマイノリティの権利を守ることを大事にしているか、ということですね。そのことは後でも触れます。

　さて今日は、バプテスマのヨハネが出て来ますね。「またか」と思われた方もいらっしゃると思います。ちょうど去年のクリスマス前、待降節に、バプテスマのヨハネが出て来る箇所が読まれました。
　その時は、ヨハネの福音書の方の記事でした。今回はマルコの福音書なんですね。
　そして今日は、バプテスマのヨハネ自体には注目いたしません。バプテスマのヨハネのことは今までも十分お聞きになったでしょう。今日はイエス様の洗礼に注目したいと思います。

　ヨルダン川で、ヨハネからバプテスマ・洗礼をお受けになった。これは考えてみればおかしな話かもしれません。ヨハネが宣べ伝えていたのは、罪が赦されるための悔い改めのバプテスマです。イエス様は人となられた神であって、全く罪が無いはずです。そうであれば、イエス様はヨハネからバプテスマを受ける必要は全く無いはずです。マルコには書かれていませんけれども、これはマタイの福音書の方では、ヨハネはイエス様から「洗礼を受けさせてほしい」と言われたら、「いやいやめっそうもない、私の方こそあなたから洗礼を受けなければなりませんのに」と一回断ったぐらいですよね。
　それなのにイエス様が洗礼を受けられたのはなぜなのか？これはいくつかの説があります。一つ目は、私たちの模範としてという説ですね。イエス様ご自身はバプテスマを受ける必要は無いんですけれども、私たちもまた、洗礼を受けて、クリスチャンとしての歩みをスタートするわけですから、そのための模範だという説ですね。
　それからもう一つは、イエス様ご自身の決意、という説ですね。イエス様がこれから公の生涯に入られる決意ということで洗礼をお受けになったという説ですね。ナザレの大工としてのひっそりとした一目に知られない生活ではなくて、言動がすべて公のものとなる、そういう生活に入られるということですね。しかもこれは、実際は、―私たちの世の中の言葉で言えば―就任式である、と言われています。何の就任式か。それはメシアとしての就任式なんですね。ここに実は、父と子と聖霊の、三位一体の神が現れている、と言われています。
　御霊が鳩のようにくだってきた、とありますから、聖霊はおられますね。そして、そして天から声がした、これはバット・コルと専門用語では言いますけれども、父なる神からの直接の声なんですね。旧約の最後の預言書であるマラキ書から400年も経ってしまいました。この400年間預言者が現れなかったんですけれども、ここでついに、父なる神から直接の、「あなたはわたしの愛する子、わたしはあなたを喜ぶ」という声がして、三位一体の神の交わりがここであざやかに現れているわけですね。

　三位一体の神が現れていると言って、どうしてそれが、メシアとしての就任式なのか？これは、その天から聞こえた声のことばを見れば分かるんですね。

　まず、前半の、「あなたはわたしの愛する子」ということばです。

　これは、旧約聖書詩篇第2篇7節と響き合うんです。

旧約聖書　詩篇第2篇7節
　「私は主の定めについて語ろう。
　主は私に言われた。
　『あなたはわたしの子。
　わたしが今日　あなたを生んだ。

　この詩篇第2篇は、王の即位の歌と言われています。この「生んだ」ってちょっとよく分からないですよね？これは実は、養子にした、という意味なんですね。養子にした、というのを「生んだ」と表現しているんです。そして、この「私は主の定めについて語ろう。」と言っている主体はダビデ王の子供である「ソロモン王」のことだと言われています。「主は私に言われた」ですから、神さまが私に言われた。「わたしが今日、あなたを養子にした」つまり、神の子として、王として、即位する、こういう歌なんですね。
　そして王の即位の歌であると同時に、メシア預言の詩篇だと言われることがあって、なぜかというと、これはサムエル記第二、第7章11節後半以下の、「ダビデ契約」と呼ばれているところと深い関係がある詩篇なんです。

11主はあなたに告げる。主があなたのために一つの家を造る、と。
12あなたの日数が満ち、あなたが先祖とともに眠りにつくとき、わたしは、あなたの身から出る世継ぎの子をあなたの後に起こし、彼の王国を確立させる。
13彼はわたしの名のために一つの家を建て、わたしは彼の王国の王座をとこしえまでも堅く立てる。

　ということで13節までで止めさせていただきましたけれども、神さまがダビデ王に言われたことですね。あなたの身から出る世継ぎの子をあなたの後に起こし、彼の王国を確立させる。世継ぎの子、つまり、ソロモン王ですね。しかし、これはもっと深いことがらを含んでいます。聖書の預言には二重性というのがありまして、ここではソロモン王のことを直接的には言っているけれども、でも同時に、やがて来られるメシアのことをも言っている。二重になっているんですね。私たちは新約聖書を読んで、メシアはイエス・キリストだと知っています。彼の王国を確立させる。彼の王国の王座をとこしえまでも堅く立てる。これはイエス様のもたらした神の国のことを言っているわけですね。
　それが、詩篇第2篇も同じなんです。直接はソロモン王様のことを言っているけれども、後に来られるメシアであるイエス・キリストのことを預言している詩篇でもあるんですね。詩篇第2篇7節と全く同じことばが、天から聞こえたわけですから。
イエス様が、ヨハネから洗礼を受けた時に、別に神の養子になったわけじゃないんですけれども、―ここでイエス様が養子となった、というその見解は、古代の教会で異端として斥けられました―だけど父なる神が、イエス様のことを「わたしの子」と呼ばれたことは間違いないんですね。天からの声の前半のことばは「王としてメシア」を表しています。

そして後半のことば、「わたしはあなたを喜ぶ」ということばですね。これはイザヤ書第42章の冒頭のことばだと言われています。

旧約聖書　イザヤ書第42章1～4節
１　「見よ。わたしが支えるわたしのしもべ、
わたしの心が喜ぶ、わたしの選んだ者。
わたしは彼の上にわたしの霊を授け、
彼は国々にさばきを行う。
２　彼は叫ばず、言い争わず、
通りでその声を聞かせない。
３　傷んだ葦を折ることもなく、
くすぶる灯芯を消すこともなく、
真実をもってさばきを執り行う。
４　衰えず、くじけることなく、
ついには地にさばきを確立する。
島々もそのおしえを待ち望む。」

　ここに「わたしの心が喜ぶ」とありますね。「わたし」と平仮名であったら、これは神が主語ですね。神の心が喜ぶ、そういう、神のしもべだというんですね。そして、このイザヤ書第42章も、メシアの預言だって言われているんですね。
　ええっ！？と思う方もいらっしゃるかもしれません。しもべと言ったら、王と対立概念みたいに思いますよね。しもべと言ったら聖書では奴隷ですね。そういうものと王さまとは対極にいる。そういう者だと普通は思いますが、聖書は違うんですね。この人々に仕えるしもべというのが、またメシアにふさわしいということで、聖書の価値観では、王であり、同時にみなに仕えるしもべであるということは、両立しうるものなんですね。
　「叫ばず、言い争わず」というのは、柔和で優しい方であるということですね。そして、「３　傷んだ葦を折ることもなく」というのは、最も弱い者をさえ傷つけないという想いやりの心をもって、の意味なんです。そして「くすぶる灯芯を消すこともなく」というのもほぼ同じ意味でしょう。イエス様のご生涯を見たらもうぴったりのように思いますね。

　そして、ここには4節までの間に、さばき、さばき、さばき、って出て来るんですね。なんだ、やっぱり裁きをするのか。優しそうに見えて厳しい方なのか。と思う方もいらっしゃるかもしれません。このことばについて、ある神学博士で宣教師でいらっしゃいます方が、こうおっしゃっているんですね。

イザヤ書42章の神の僕の活動についてみていきます。神の僕が携わることになると強調されている「裁き」ですが、これはヘブライ語の元の単語はミシュパートמשפטと言い、「何が正しいかについて決めること」とか「何が正しいかということについての決定」という広い意味があります。その広い意味から、「裁き」とか「判決」というような限定した意味がでてきます。しかし、広い意味から限定した意味はそれだけに尽きません。「何が正しいかについて決めること」「何が正しいかということについての決定」ということを出発点にすれば、「裁き」や「判決」の他にも、「正当な要求」「正当な主張」という意味にもなるし、そこからさらに「正当な権利」とか「正義」という意味にもなります。

(中略)

神の僕が「国々の裁きを導き出す（新改訳2017は「国々に裁きを行う」）」というのは、実は「諸国民、特にイスラエルの民以外の異邦人をさしますが（גוי）、諸国民に正義（正しいこと、正当な権利）をもたらす」ということ。「この地に裁きを置く」というのは「この世に正義（正しいこと、正当な権利）を打ち立てる」ということであります。

　つまりこの柔和で優しい神のしもべとしてのメシアは、民族や人種の壁を超えて、世界中の人に、正当な権利を与えるんだと言うことですね。今のネタニヤフ政権とは全く逆である、と言えると思います。

　マルコの第1章に戻りまして、天からの声によって、つまり、王として、そして同時に、しかも神の忠実なしもべとしてのメシアとして、イエス・キリストは、ヨハネからバプテスマを受けた時に立ったのだ、とこういう深い深い意味が、込められているわけですね。

　そして、イエス様が洗礼をお受けになったもう一つの理由は、「私たち罪びとの列に加わられた」ということなんです。

　以前に、この

　炊き出しの列に並ぶイエスという、版画をお見せしました。これは考えさせられる作品ですね。イエス様が、生活困窮者へのあるいは被災者への炊き出しの場面におられるなら、どこにおられるだろうか？それは、一所懸命暖かい食事を配っておられるイエス様が思い浮かぶだろうか？むしろ、この最も苦しんでいる人と同じ苦しみを共に味あわれるんじゃないだろうか？と私たちに問いかける版画ですね。

　ある牧師はとてもユニークなことをおっしゃっていました。皆さん教誨師(きょうかいし)ってありますよね。教えるに難しい漢字を書いて―ごんべんに右に毎日の毎という字を書いて師匠の師です―これは刑務所で、受刑者に対して、仏教のお坊さんや、教会の神父や牧師が、教え諭すことを言うんですね。
　イエス様がバプテスマのヨハネのところで、罪人の列に並ばれたということは、たとえるなら刑務所の受刑者に、教誨師として面会に行くということじゃないんだと。その受刑者をあまりにも愛するから犯罪を犯してでも刑務所に入って、その人と一緒に刑務所での暮らしをするのだ、こういうふうに言っているんですね。

また、教皇フランシスコは、こうも言っています。

人類という川にご自分を浸そう。人びとの過ちと弱さを担おう、解放の願いと、神から引き離し兄弟姉妹を見知らぬ存在にするあらゆるものを克服したいという人びとの願いを自分のものにしよう、そうしたイエスの思いです。ベツレヘムでそうだったように、ヨルダン川の岸辺でも、神は、人間の運命をその身に担うという約束を守っておられます。そしてイエスは、そのことを表す目に見える決定的なしるしなのです。そのかたはわたしたちすべての者をご自分の肩に担っておられ、生きている私たち皆を、日々、背負っておられます。

　深く黙想から出てきたことばではないでしょうか。私たちの罪、みじめさ、そういうものを、はらわたがちぎれるぐらいに深くあわれんでくださっているのです。
　しかもこのイエス様は、ただ罪びとの列に並ばれて、私たちと同じ境遇になってくださって、辛酸をなめ尽くしてくださったというだけではありません。マルコの第1章10節の御霊がくだって来る前に「天が裂け」ということばに注目してみたいと思います。
　他の福音書では「天が開け」というふうになっていたり柔らかい表現になっていますが、マルコは意図的にこのことばを使ったと思います。というのはもう一度だけ、同じことばがマルコの福音書に出て来ます。イエス様の十字架のシーンです。マルコの福音書第15章38節、

38すると、神殿の幕が上から下まで真っ二つに裂けた。

　これはどういうことでしょうか。これはエルサレム神殿の聖所と至聖所というところを分ける幕なんですね。これが裂けたということは、隔ての壁が無くなって、神と人との断絶の時代は終わったんですね。今やイエス・キリストの十字架による罪のゆるしによって、誰でも大胆に神に近づくことができるんです。

　つまりマルコは、ここで「天が裂け」と言うことによって、十字架による罪の赦しを、ここですでに、イエス様の公生涯のはじめから、暗に言っているわけです。

　そしてもう一つ忘れてはならないことは、この天からの声は、実は詩篇とイザヤ書だけではないんですね。この天からの声には創世記第22章が響き合っていると多くの人が申します。
　創世記第22章はどういう話だったでしょうか？

　これはイサク奉献、などと呼ばれる記事ですね。信仰の父アブラハムが、神の約束通りに、年老いてから息子イサクをさずかります。しかし、神は奇妙な命令をアブラハムにくだします。モリヤの山で、あなたのひとり子イサクを全焼のいけにえとして捧げものにしなさい、とおっしゃるわけですね。要するに神へのいけにえとして殺しなさい、ということです。
　どうしてそんなことを！？私たちの目にはこれは非常に奇妙なことに思います。そもそも神さまが与えてくださった子供でしょう？それをいけにえにせよなんて！？
　しかしアブラハムは、息子を連れてモリヤの山に登ります。そして山の上で刀を取って息子に手をかけようとしたところ、御使い・天使が現れてアブラハムを止めます。アブラハムが目を上げてみると、一頭の雄羊がいて、それを息子の代わりにいけにえとして捧げます。
　この話はさっぱり分からないように思われるかもしれません。その説明は後に回しますけれども、この話の中に繰り返し、第22章の2節、12節、16節と読んでいきますと、神はアブラハムにイサクのことを「あなたの子」「あなたのひとり子」「あなたの愛しているひとり子」と何度もおっしゃっています。イエス様がバプテスマの時にお聞きになった「あなたはわたしの愛する子」ということば、この「愛する子」というのは、ひとりっ子という意味があるとも言われます。それと、アブラハムに対するイサクについてのことばがここに重なって聞こえると多くの人々が読んだのです。特に、イエス様の地上のご生涯が終わった後に、これらの人々は特別な思いでイサクとイエス様のお姿を重ねたと思います。神のご命令で父が自分を捧げようとした、その父の子であったのです。イエス様ご自身の献身が、ここですでに父なる神によって決意され、告げられている、と読んだのです。つまり、先ほど私は、イエス様の決意表明と申しましたけれども、父なる神さまも、このアブラハムのように、ご自分の息子のいのちを、愛する人間のためにささげるって、決意してくださった、というのが、「わたしの愛する子」ということばに、込められているのです。

　そしてさらに、実はここは、アブラハムの復活信仰を語っている箇所なんです。復活？そんなことをは一つも書かれていないではないか。

　アブラハムのイサク奉献については、よく説明されることがあります。たとえばこれは試練と書いてあるから、神からのテストだったんだと。そして、アブラハムは子供が生まれて、その子に夢中で、神さまよりもその子を大事にするようになってしまっていた。あるいは神さまのことを忘れていた。そこで、神さまはご自身のことを何よりも大事にするアブラハムの心を呼び起こそうとして、息子のいのちよりも神を大事にするかどうか試されたんだと、だいたいこういう説明です。けれどもおそらくそうではないでしょう。これもイエス様を抜きにしては本当には分からない箇所なんです。モリヤの山は、あの十字架が立てられたエルサレム郊外の丘の場所だと言われています。アブラハムのイサク奉献は、イエス様の十字架の予型・予表・型なんです。
　しかもこれは、先ほど申しましたようにアブラハムの復活信仰の記事だとも言われています。注意深く読んでみると、アブラハムは、イサクを連れて山に登る前に、お付きの若い衆に語りかけるんです。「私と息子は山に登って礼拝して帰ってくる」って。つまり、2人とも帰ってくるとアブラハムは確信していたんです。もし息子を文字通りいけにえとしてささげても、神は復活させてくださると、ここですでに復活を信じたのだ、こういうふうに言われています。
イエス様は、死んで葬られ、復活されました。だからイサク奉献の記事はそのことの型でもあるんですね。十字架の型であり、復活の型でもある。死と復活の型、一度死んでよみがえる。これがまさに「洗礼」を表しているわけです。

　使徒パウロが書きましたローマ人への手紙第6章3～5節にはこうあります。

3それとも、あなたがたは知らないのですか。キリスト・イエスにつくバプテスマを受けた私たちはみな、その死にあずかるバプテスマを受けたのではありませんか。
4私たちは、キリストの死にあずかるバプテスマによって、キリストとともに葬られたのです。それは、ちょうどキリストが御父の栄光によって死者の中からよみがえられたように、私たちも、新しいいのちに歩むためです。
5私たちがキリストの死と同じようになって、キリストと一つになっているなら、キリストの復活とも同じようになるからです。

　私たちの洗礼は、単なる入信の儀式ではありません。洗礼は一体化という意味があります。ここでパウロが言っているように、キリストと共に死に、キリストと共によみがえる。キリストの死と復活と一つにされる。キリストと一体にされる。それが私たちの受けた洗礼なのです。

　そしてそれは、もちろん個人的な側面もあります。しかしもう一つ、教会という共同体の中に洗礼によって生まれるという側面もあるんですね。むしろ共同体の中に生まれるというこっちの方がメインかもしれません。

私たちの第一の誕生は、母の胎から生まれます。羊水という水を通ってから生まれて来ます。
そして第二の誕生は、今度は洗礼の水を通って生まれて来ます。洗礼によって神の民として新しい命をいただいて誕生し、群れとして生きるんです。
　私たちが罪びとだっていうことは、必ずしも悪いことをしてきた、ということではないんですね。聖書がいう罪は、神との関係の破れ、断絶のことなんです。「あなたはわたしの愛する子、わたしはあなたを喜ぶ」ということばを聞けなくなってしまっている、その人間存在のみじめさ、というものを聖書は罪と呼んでいるんです。それはさみしいです。アイデンティティがない、という言い方もできるでしょうか。
　洗礼を受けた、ということは、わたしがいったい何者か、ということに対する強力な答え、「キリスト者」という強力なアイデンティティをいただいた、っていうことなんです。

　ウイリアム・ウィリモンというアメリカの著名な牧師がいまして、洗礼という本の中で、こんなことを言っているんです。
ウィリモンが高校生の頃のことです。何かに出かけようとする高校生の息子に対して、「自分が誰であるか忘れないでね」って言うんです。「あれやっちゃだめよ、これもやっちゃだめよ」と言うのではない。窮屈にさせるのではなくて、自由に、キリスト者としてふさわしい、良き行動をしなさい、と言うわけですね。
含蓄のあることばですね。洗礼を受けることは、現代的に言うとアイデンティティですが、「キリスト者」である、という名前を与えられるということだって言うんですね。それにふさわしい歩みをするんだ、ということですね。

イエス様は洗礼において、私たちに連帯する生涯を送られる、という決意をなさいました。そういうわけで私たちの長子となられた、と聖書にありますね。長子って長男っていうことです。私たち次男坊以降なんです。
イエス様は、十字架という、この世でもっとも周縁に赴かれました。それは世界の周縁におかれた一人一人と連帯なさるためです。イエス様はそのようになされた。ならばイエス様の兄弟として洗礼を受けてキリストと一つになった私たちも、周縁におかれた人びとと連帯して生きるようにと、神によって呼ばれているのです。キリストと共にいわば世界の修理人として、どんな小さな愛のわざでもいい。福音を携えて今、この世界に出かけて行こうではありませんか。

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
イエス様の洗礼が、どんなに深い、多様な神秘が隠されているのか、ということを知ることができまして感謝いたします。私たちもあなたに続いて洗礼を受けた者として、周縁におかれた人びとの権利を守り、福音を携えて、この世界に小さくても祝福をもたらすように出かけさせてください。いやおひとりひとりをすでにそうしてくださっていますことを信じて感謝して、主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

#主の洗礼 #イエスの洗礼