📗【文書版】✴️礼拝メッセージ「空気という『霊』に縛られずに生きてゆける」新約聖書　マルコの福音書第1章21～28節　2024年1月28日

📗今日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします。
✅国際司法裁判所(ICJ)が2024年1月26日にイスラエルにジェノサイド防止条約に基づき仮保全命令を出しました。そのことについても冒頭少しだけ語ります。
✴️礼拝メッセージ「空気という『霊』に縛られずに生きてゆける」
新約聖書　マルコの福音書第1章21～28節　2024年1月28日

21　それから、一行はカペナウムに入った。イエスはさっそく、安息日に会堂に入って教えられた。
22人々はその教えに驚いた。イエスが、律法学者たちのようにではなく、権威ある者として教えられたからである。
23ちょうどそのとき、汚れた霊につかれた人がその会堂にいて、こう叫んだ。
24「ナザレの人イエスよ、私たちと何の関係があるのですか。私たちを滅ぼしに来たのですか。私はあなたがどなたなのか知っています。神の聖者です。」
25イエスは彼を叱って、「黙れ。この人から出て行け」と言われた。
26すると、汚れた霊はその人を引きつけさせ、大声をあげて、その人から出て行った。
27人々はみな驚いて、互いに論じ合った。「これは何だ。権威ある新しい教えだ。この方が汚れた霊にお命じになると、彼らは従うのだ。」
28こうして、イエスの評判はすぐに、ガリラヤ周辺の全域、いたるところに広まった。

主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　以前にも少し触れたことですが、国際司法裁判所に、南アフリカ共和国が、イスラエルを、ジェノサイド条約違反だとして訴えた、ということがありましたね。(ジェノサイドとはひらたく言えば大量虐殺のことです)
　その審理の結果がおとつい26日に出まして、15対2で、南アフリカの訴えが認められました。
　これは人道や人権のうえで、良かったことだと思います。世界の倫理やモラルは生きていた、ということが言えると思います。
　国際司法裁判所から、イスラエルに対しては、虐殺や集団懲罰をやめさせ、一か月以内にその報告書を出すようにという命令が出ました。
　これは仮保全措置と言うそうですが、ただ、即時停戦が裁定に含まれていないことと、一か月以内の報告を求めているが、その一か月間は攻撃が激化しかねないことと、その仮保全措置に法的拘束力があると言っても、強制力が何も無いことを指摘する人もいます。
　しかしガザのある市民のX(旧ツイッター)の投稿では、「国際司法裁判所から、『停戦』という言葉を聞くために、2時間窓際に立ってインターネットに接続しようとしていたのに、代わりに彼らはイスラエルに僕らを穏やかに殺すための1か月を与えた！」と言っているんですね。それも本当に心が痛むことです。しかし、これだけではなくて、色んな国際的な圧力が高まって行けば、停戦の可能性も上がり、一人でも、いのちが助かる可能性が出て来ると思います。引き続き、ユダヤがかつてナチスにやられたようなあのジェノサイドに匹敵する、そんなジェノサイドの罪をこれ以上イスラエルが犯すことがないように。一日一分一秒でも早い停戦がなされるように祈り続けたいと思います。またウクライナのためにも、他の戦争紛争地域のためにも祈りたいと思います。そして戦争と平和というのが、今日の箇所にもかかわってきます。

　さて、先ほど共に聞きましたのは、マルコの福音書の第1章の、先週は20節まででしたので、聖書日課でもそのすぐ後の21節以下に記された神のことばでした。この箇所皆さん、好きですか？
　まぁこの記事が好きで好きで何度でも繰り返し読みたくなるという方は少ないかもしれませんから、あんまりこのあたりを愛唱聖句にしていらっしゃる方も少ないのかもしれません。読むこと自体、気持ち的に読みにくい、あまり読みたくない箇所だという方は多いかもしれません。
　最初の2節分はよく分かる。ガリラヤのナザレでは無い別の町の、カペナウムという町に、弟子たち4人を連れてイエス様がお入りになった。
　そこでユダヤ人のシナゴーグと言う会堂で、安息日の礼拝、土曜日ですね。そこでちょうど今のキリスト教会がルーツとしているような形の礼拝が行われて、イエス様が説教者として、礼拝メッセージをなさった。
　そこで人々がびっくり仰天した。「これがどうなら！いっつもメッセージしてくれる律法学者の先生らぁとは全然違うよ！」と言ったわけですね。みんながイエス様を凄いと思った。
　これだけなら、イエス様の素晴らしさを思うことができて、何の抵抗もなく、ほっこりとして、読み終えるかもしれません。
　しかしその後で、もしかしたら嫌だな、という思いを持つ方が出ると思うのは、イエス様による「悪霊追い出し」の記事が続くからです。その安息日の会堂の礼拝の場所に、汚れた霊に付かれた人が登場する、その人についていた汚れた霊をイエス様が叱って、追い出される。悪霊追い出しの奇跡。これが挟まっているんですね。
　その後で会堂に集まっていた人々が、「またこれはどうなら。権威ある新しい教えだ！」と言ってまたまたイエス様にびっくりするわけですね。そして人々がそれを言いふらしたんでしょう。イエス様の評判がガリラヤの周辺全域に広まったということですね。
　で私たちがこのひとまとまりの箇所を読みにくい、聞きにくいとするならば、それはおそらく、出だしと結びのことではないと思います。途中に、この悪魔とか悪霊と同じ存在であると言われる「汚れた霊」が出て来る、言ってみれば現代の私たちにとって異様なできごとが挟まっているように見えるからです。しかしこれは、先ほど挟まっていると言いましたが、挟まっているという言い方自体が間違いであるかもしれません。少なくとも、この福音書を書いたマルコは、これを挿入などではなくて、はずしてはいけないできごととして書いているんです。実際マルコは、この後も悪霊追い出しの話を、他の福音書記者よりも頻繁にたくさん書きます。マルコはこの福音書の出だしを、イエス・キリストの福音のはじめ、と書き始めましたし、とても大事なこの福音書のテーマのような大事なことばとして、「時が満ち、神の国が近づいた。悔い改めて福音を信じなさい。」と、第1章15節にイエス様の福音宣言を書きました。その神の国のおとずれの、良い知らせ・グッドニュース・ゴスペル、その神の国には、この悪霊の追い出し、というのが、本当に密接にかかわっているんだ、外してはならないことなんだ、そうマルコはどうも言いたいようです。それはなぜなのか、ということもひも解いて行きたいと思うんですね。
　
　この箇所のメッセージとして、色んな方向性のメッセージがあると思います。
　一つは、これは一番最初のエクソシストである、という方向の理解です。
　エクソシストとは何か、それは多分、映画など色んなメディアのおかげもあるでしょうか？あまり説教者が説明しなくても良くなりました。昨年2023年の「バチカンのエクソシスト」というドラマが話題になりましたよね。ジャンルはアメリカのホラー映画ということにされているようですけれども、エクソシストとは要するに悪魔祓いのことです。今でもカトリックでは、現実にエクソシストの専門のチームを組む司祭たちがいるそうですね。
　でもそれは、私たちの生活に非常に遠い話のように思いますね。とても身近じゃないですね。日本で「カトリックの神父様に来てもらって悪魔祓いしてもらったわ」という話を聞くことはほぼありませんよね。

　そういうふうに遠い印象があるものですから、もう少し身近なことに当てはめようと、私たちは解釈と適用を試みるわけですね。
　そこで、よくなされるのが、これは現代の精神病あるいは心の病のことであると、そういう方向の解釈と適用です。
　で、これ気をつけなければいけないところがあって、そう解釈と適用をすると、どういうことになるかというと、下手にすると、二次加害をすることもあって、心の病の方の病気を悪化させることにもなる場合があるんですね。
　牧師や信徒が精神医学の知識が無い状態で、鬱病などの心の病は悪霊のせいだ、などと言って、悪霊追い出しの祈りをしたり、あるいは、今鬱病などが増えていて、クリスチャンの間にも増えていてこれはサタンの働きだ、などと言ってですね、でも時にクリスチャンがうつ病になったりするケースがありますね。そしたらそういう時にですね、いやあなたがクリスチャンなのに鬱病になるなんてそれは祈りが足りないからだ、とか信仰が足りないからだ、とか、ネガティブ思考は悪霊のしわざですね、聖霊を受ければそんなものは逃げ去るんですよ！などといったような類いの礼拝説教や、または普段のことばがけをすればですね、きっと当事者の方の病状は悪化します。
　それは当然のことで、たいてい心の病の方は、傷を受けて来ているんですね。役立たず、とか、あなたはダメだ、とか、存在を否定する言葉を受けて来ているんですね。
　そこで教会に行ったら癒されるかもしれないと思って行ってみたらですね、悪霊付き呼ばわりされてですね、たとえ洗礼を受けてクリスチャンになっても治らなければ「信仰が足りない、祈りが足りない」と言われてダメシールを貼られるわけですね。こうなると二次加害されているわけですから、当然心の病は悪化する、ということになりかねないわけですね。霊的パワハラなわけですね。

　ついでに申しますと、前向き肯定的信仰というのも、実は良いようでメンタルケアには逆に良くない。というのは理由がありまして、何かポジティブ教会のようになると、一見いいように見えるんですけれども、ネガティブであることを禁じるような空気が教会内にあれば、それは人のメンタルを悪化させることになります。
　どういうことかと言いますと、ネガティブな感情をきちんと言葉にできることが、心の癒しにつながるんですね。これは「感情の社会化」と最近言われていますけれども、辛かったこと、悲しかったこと、苦しかったことを、「私はこう思った、こう感じた」と、きちんと言葉にすることが、たとえば依存症の治療プログラムに入れられています。
　カトリックの司祭が作った、アルアノンというアルコール依存症からの回復プログラムもそうですね。他に他言しない信頼できる仲間たちの自助グループの中で、ネガティブなことでも、ありのままの自分の気持ちを語る。それが癒しにつながって行くという、実績があるわけですね。
　実はそれはすでに旧約聖書の詩篇に、なぜ嘆きの詩篇・呪いの詩篇があるのか？という疑問を解いてもくれます。詩篇読んで行ったら凄いネガティブなことばありますよね。全編、神への祈りの歌なのに、もう本当に赤裸々に、そんなこと神様に申し上げていいの？というぐらいに、いわばネガティブな、敵を滅ぼしてくださいとか復讐してくださいとか、そんなことをビックリするぐらい率直(そっちょく)に神さまに叫んでいる、そんな歌ですね。そういう復讐を自分が実行に移したらいけないんですけれども、しかし感情の社会化、と、こんにちでは言われているように、ありのままをさらけ出す、そしてそのありのままの姿を神さまに抱き止められることによって、心も魂も、癒されて行く、そういうことがあるからこそ、こんにちまで聖書の一部として、その嘆きの詩篇も残っているわけですね。皆さんの中にも詩篇の嘆きの歌を読んで心が癒された人きっといらっしゃるかと思います。そのように、後でも触れますけれども、何か「言えない空気」や同調圧力のようなものがあって、その人の人生の「語り」この語り、物語と言いますけれども、ナラティブですね。この語りを個人が失うと病みやすくなるんですね。そのことも後で触れます。

　ではこのマルコ第1章で言われている悪霊の働きとは、エクソシストで悪魔祓いするようなものととらえるのでなく、また精神病や心の病ととらえるのでもなく、どうとらえれば良いのでしょうか？それはいくつかあると思うんですけれども、神学者の加藤常昭先生がですね、長らく鎌倉雪ノ下教会で牧会伝道なさっていた先生ですね。この先生の説教集は、私は新約は全部読んだんですけれども、第二次世界大戦の戦争中のこともよくお話になっているんですね。その背後には確かに悪霊の働きがあったっておっしゃるんです。ここの箇所の説教では、ある教団の牧師と戦争中のことを話されたことを例話としてあげておられました。その教団の先生は、戦時中、特高警察に捕らえられて、拷問につぐ拷問を受けて、釈放された時には、顔の形が変わってしまっていたそうです。
　そんなふうに戦時中は、顔が曲がるほどに毎日殴られたものですが、戦争が終わったとたんに、自分を殴っていたその特高警察の人がやってきて、自分があなたを残酷に取り扱ったことはぜひ内密にしてくれ、と頼んだというんです。あなたを取り調べた記録を燃やすことを承認してくれ、と求めたそうです。その卑屈さは、私にも耐えがたいことであった、とその牧師は言ったそうです。
　私はその話を読んだ時に、人というものは、そういう戦争中と戦後で、ガラリと変わってしまう。それまで戦争中に特高警察の人をとりこにして、酔わせ、狂気に走らせた得体のしれない力というのは何なのか？やはりこれは、悪霊の働きだと加藤先生は間接的にですけれどもおっしゃっているんですね。
　そしてそうやって、人をとりこにして酔わせて狂気に走らせた得体のしれない力というのは、あのドイツでも、ナチスヒトラーの時にもありました。あのナチスの時代のことを研究している方は沢山いらっしゃいますけれども、あの残虐なホロコーストというジェノサイド、最近は約600万人というのが不正確な数字だという話だという話も出てきているようですが、でも少なくとも数百万人のユダヤ人をホロコーストで虐殺してしまったという、世界の歴史の中で最大級のジョノサイドでしょう。そんな恐ろしいことをやってのけたナチスの幹部たちは、驚くことに、家庭においては非常に普通の男で、やさしい良き父、良き夫であったりする、っていうんですよね。そんな人を狂気に走らせるんです。
　で、ドイツ人牧師たちは、そういうものを、時代の霊、と言いました。今日(きょう)の言い方では、「汚れた霊」でしょう。ヒトラーが優生思想を広めると共に、ドイツにそういう「空気」が醸成されて、同調圧力も強くなり、ああいった悲劇に歯止めがかからなくなって行った、ということなのでしょう。
　ということは、ドイツにも、日本ほどでないにしても、抗いがたい空気や同調圧力があった、ということなのでしょう。
　山本七平さんは、日本人とユダヤ人や、日本教について、や、空気の研究、などの本で、日本の抗いがたい、得体のしれない力を持つ「空気」について、非常に鋭い視点をもって、うーん！と思わずうなってしまう、分析をしていらっしゃるんですね。
　その空気と言うのは、諸外国に伝わりにくい。英語圏の人に、エアーとか、アトモスファーなどと言っても全然伝わらない。でも、アニマとか、ルーアハとか、プネウマに近いもの、と言えば、伝わりやすい、って言うんですね。
　これはおおー！と思いました。アニマとかルーアハっていうのはラテン語とヘブル語なんですけれども、どちらも霊です。そしてプネウマはギリシャ語で霊です。新約聖書で文脈によって、神の聖なる霊である聖霊も指すし、悪い霊を指すこともある単語です。そして今日の箇所の汚れた霊というのも、もちろん「プネウマ」という単語で書かれているんですね。
　だからこの空気というのが、汚れた霊ではないか。演劇で有名な鴻上尚史さんは、日本の空気というのは、世間が流動化したものだ、と言います。そして、日本人は、この世間様という一神教で今までやってきた、というのが本質だっていうんです。
　これは本当に鋭いと思います。鴻上さんは、日本人はこの世間様や空気というものを非常に恐れている。そして、空気を乱さないように物凄い気を使って生きている、っていうんですね。そして宗教改革者マルティン・ルターは「その人が恐れ、愛し、信頼しているものがその人の神である」って言っているんですね。まぁ「その人が恐れ、愛し、信頼しているものがその人の偶像である」と言い換えてもいいんですけれども、それを考えますと、日本人の本当の偶像は、多くの場合、仏教や神道では無いと思うんですね。仏さんや、神社の神さまを本気で恐れている人って日本人にいますか？いらっしゃるけどごく少数でしょう？
　だから私は常々よく思うんですよね。欧米から来てくださった宣教師の先生方は、この箇所などから、よく神社の初詣にたくさんの人が行っているなどの例をあげて、神社や仏教は偶像であり、その背後には悪霊がいるから避けましょうというようなメッセージをされる方が多いように思います。それは確かに聖書には父と子と聖霊なるまことの神のほかは、偶像であると書いてありますから、私のその宣教師の先生のメッセージを否定はしませんけれども、しかしですね、まぁ宣教師中心の教会でなくても、ことさらに神社や仏教を敵視して戦おうというような姿勢の教会もありますけれども、いやそういう戦いをしているところで、実はサタンはかげで、ほくそ笑んでいるんじゃないかなと思うわけですね。日本人の魂が捕らえられてきゅうきゅうして苦しんでいるのは実は少なくともメインはそこじゃない。空気という霊にとらわれてしまっている。
　
　ですから私たちはですね、この空気を醸成しようとする動きには、警戒して注意しておいた方がいい部分があると思うんですね。まぁ和やかな空気などいい空気はいっぱいあると思うんですけれども、妙な空気は警戒した方がいいですね。特にドイツでありましたのは、たとえば民族の誇りというものですね。ヒトラーが強調したのもそれなんです。ドイツキリスト者というものを掲げまして、アーリア人種であるドイツ人クリスチャンが優等なのだ、と言いまして、―まぁドイツ人がアーリア人種であるっていうのも誤りなんですけどね―他の人種、特にユダヤ人は劣等なのだと言って、虐殺することを正当化していったわけですよね。まさに反ユダヤ主義の極みとも言えるわけなんですけれども、ここから、わが民族の優等性とか誇りとかいうのが、全部が全部そうじゃないかもしれないんですけれども、危険であることが分かりますよね。なぜなら、わが民族だけを尊いとするのは、それ以外の民族を劣等としたり、見下げたり、人間として扱わなかったり、モノ化したり、時には集団ごと殺したり、そういったことに繋がりかねないからなんですね。
ということは同じように、日本人の優等性とか、日本民族の誇りとか、そういった言説で何か空気を醸成しようとしている動きにはやはり警戒しておいた方がいいと思いますね。

そういう空気というものがもたらすものは、この24節の悪霊が主イエスに語ったことばによく現れています。

24「ナザレの人イエスよ、私たちと何の関係があるのですか。

　これちょっと悪霊が複数入っていたことは興味深いんですけれども、今日はそれには深入りしません。実はこのセリフは、前の第二版の翻訳では、「私たちに何をしようというのです」となっていたんです。実はこれは改善していると私は思うんです。というのは、前は意訳だったけれども、新しい翻訳は、直訳に近くなっているんです。何の関係が、となっているんですね。悪霊は、まぁ悪霊だから当然とも言えますけれども、まことの神との関係を切ろうとします。そして、神との関係を切ろうとすると、たいてい人との関係も切ろうとします。これがまさにですね、悪い霊の働きですね。人との関係を断つということは、実はその相手のそばにいてもできるんです。人を人間扱いしない。ダメシールを貼る。モラハラをしたり、マインドコントロールなどをして、その人の内心の自由や、その人の語り・ナラティブを奪う。人権を奪ったり、搾取したり、支配する。ある場合には殺すことにまで至ってしまう。こういったことは全て、人をモノ化して、ひとりの人間対ひとりの人間として接するという、本当の幸いな関係からじつは逃げるということなんです。悲しいことです。

　けれどこのイエス様は、権威をもって、その関係を絶ち切ることばを黙らせておしまいになる。ここで権威ということが、とっても大事なことになってきます。
　実はこのマルコ第1章全体が、通奏低音のようにして、ずうっと底の方に流れているのが、主イエスの権威なんです。この権威が人を癒すんだって。どういうことでしょうか？
　ある意味で、悪霊はこの人を縛っています。これは偽の権威ですけれども、絶大なある意味での権威で縛りつけています。でもこれは現代にあてはめてもよく分かります。
　山本七平さんは、日本ではこの空気というのは、有無を言わさず従わせる絶大な権力を持っている、と考えました。それは、ある意味その通りでしょう。魂に何も支えをもっていないものは、錨が降ろされていない船みたいなものですから、それに抗うことは非常に難しいわけですね。強い風、空気が吹いてきたらすぐに流されてしまう。
　しかし、ここでイエス様の権威というのが、なぜ悪霊追い出しにとっても深い関係があることとして記されているかと言うと、悪霊の権威を超える権威として、私たちの心の底に、いわば船をつなぎとめる錨として、支えとして、この権威をもったお方が来るんだ、ということを言っているわけです。
　でも権威ということば自体が、嫌いな方もいらっしゃるかもしれません。権威主義、嫌な言葉かもしれません。私たちが権威という言葉をもし嫌うならばその理由は、地上で横暴に権力をふるう人にやられて、ひどい目に遭った経験があるからなのかもしれません。しかし主イエスは別の場面でこのようにおっしゃいました。ヨハネの福音書第10章18節です。

だれも、わたしからいのちを取りません。わたしが自分からいのちを捨てるのです。わたしには、それを捨てる権威があり、再び得る権威があります。わたしはこの命令を、わたしの父から受けたのです。」

　いかがでしょうか？この世のいばるような権威とは全く違うようです。イエス様がご自分に父なる神から与えられた権威によって、自らのいのちを捨てる。これは何を指しているでしょうか？まさにあの十字架です。そして、再び命を得る権威、これが三日目のご復活です。このイエス様の十字架による身代わりの死によって、あなたの罪は完全にゆるされました。そして三日目におよみがえりになった主イエスと同じ復活のいのち永遠のいのちが、あなたに与えられました。

　だからこそ私たちは、ありのままを生きることができる。そして実は勇気とか愛とか希望とかいうものも、実はそのありのままを生きることから生まれて来ることであると思います。
　
　私は妻と、今日の箇所を共同黙想していまして、妻は語ってくれました。ここで律法学者たちのようにではなく、権威ある者として主イエスがカペナウムの会堂で教えられたけれども、「私はつい、今日の日はこれができた。あれができた、ということで自分を量ってしまう。」と分かち合ってくれたんですね。
　私はそれを聞いて、「いやー自分にも大いにあるな」と思ったんですね。今日は動画撮影ができたからよくやれた。今日は注解書をしっかり読めたから良かった。今日は説教原稿ができたからよかった、主よ感謝します、と言って眠りにつく。でも逆に、何かが思うように進まなかった。やろうと思ったことができなかった。そういう時には、「ああ主よ、おゆるしください」と祈って悲しい気持ちで眠りにつく。でもそれは律法学者のように生きていることだ、自分が神様の喜ばれる生活をしているかどうかを自分で量る生き方なんだ、それはまさに律法主義であると、まさに気付かされたんですね。
　それもですね、私の生き方に、こびりついていると思うんですね。どこか優生思想のような空気が蔓延する世界の空気を吸って生きていますから、「あああれができなかった自分はダメだ」というふうに、思ってしまうのかもしれません。
自分で自分を責めてさいなんだり、あるいは明日は頑張って、自分を大きく見せる演技をしなければならないと思って見たり、そんな私にあなたに、いやそういうふうに生きよとそそのかす、汚れた優生思想の空気に、主イエスは権威をもって「黙れ。この人から出て行け！」と宣言してくださっているのです。そして、私やあなたに、「あなたはわたしに望まれて生まれて来たのだよ。愛されるために生まれて来たんだよ。神のみもとでは、足りないものは何一つない。そこにあなたが生きているということ、それだけでもう、人としてするべきことはすべてやっているのだ。」という、そういう存在を創造するのが、神の権威です。その権威の中に入れられることが、まさに、主イエスがもたらしてくださった神の国・神の支配に入れられることなのです。
「そんなあなたじゃだめだ」と裁き合う傷ついた世界の中で、そんな神の国に生きる人たちが増えていけば、世界はほんのちょっとずつだけ、優しくなって行くでしょう。お祈りをいたします。

恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる神さま。
あなたがお遣わし下さった大事な大事な御子イエス・キリストは、あなたから権威を授かりました。その権威は、人をがんじがらめにする汚れた霊の持つ権威よりもはるかに強いものでした。その主イエスは権威をどのようにお使いになったかと言うと、驚くべきことに、十字架の上でご自分のいのちをお捨てになるために、そしてご復活なさるためにお用いになりました。そのおかげで、私たちは魂に錨をおろしていただきました。揺るがない平安をもたらす錨です。この錨があるからこそ、人を惑わす霊にも、流されずに、あなたのご愛の中で安心してとどまっていることができますから感謝いたします。そしてこの愛を、人々に手渡して行く者として、私たちひとりひとりを世界に遣わしてください。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

#パレスチナに自由と平和を
#即時停戦