📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『繋がっている世界の中で、栄光から十字架へ』新約聖書　マルコの福音書第9章2～9節　2024年2月11日

今日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『繋がっている世界の中で、栄光から十字架へ』
新約聖書　マルコの福音書第9章2～9節　2024年2月11日

2　それから六日目に、イエスはペテロとヤコブとヨハネだけを連れて、高い山に登られた。すると、彼らの目の前でその御姿が変わった。
3その衣は非常に白く輝き、この世の職人には、とてもなし得ないほどの白さであった。
4また、エリヤがモーセとともに彼らの前に現れ、イエスと語り合っていた。
5ペテロがイエスに言った。「先生。私たちがここにいることはすばらしいことです。幕屋を三つ造りましょう。あなたのために一つ、モーセのために一つ、エリヤのために一つ。」
6ペテロは、何を言ったらよいのか分からなかったのである。彼らは恐怖に打たれていた。
7そのとき、雲がわき起こって彼らをおおい、雲の中から声がした。「これはわたしの愛する子。彼の言うことを聞け。」
8彼らが急いであたりを見回すと、自分たちと一緒にいるのはイエスだけで、もはやだれも見えなかった。
9　さて、山を下りながら、イエスは弟子たちに、人の子が死人の中からよみがえる時までは、今見たことをだれにも話してはならない、と命じられた。

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　皆さんは、ボイコットとバイコット、というのをご存じでしょうか。ボイコットはよく聞くでしょうけれども、バイコットというのは、あまり聞かないかもしれませんね。私も最近初めて知りました。
　ダイアローグフォーピープルという団体がありまして、世界の紛争、差別、貧困などの社会問題を伝える団体なんですね。そこがユーチューブでラジオ番組を流していまして、レディオ・ダイアローグっていうんですね。その放送を私はたまに聞くんですけれども、そこで先週あたりに、「ボイコットとバイコット」というのを紹介していらっしゃって、大変勉強させていただいたんですね。
　一つは、この放送を聴く前にもネットニュースで結構話題になったものがありました。これは広く知られているので企業名を出しても差し支えないと思いますけれども、日本の伊藤忠商事の子会社である伊藤忠アビエーションがイスラエルの軍事企業エルビットシステムズと協力関係にあるという覚書きがあったわけですけれども、つまり伊藤忠アビエーションの関係のコンビニなどの商品を買ってしまうと、その日本人のお金がですね、イスラエル軍が、ガザの市民を殺害するための兵器を作るのに使われてしまうということで、それに対するボイコット―つまり不買運動ですね―ボイコットや、またデモなども行なわれましたし、たくさんの署名がなされたりもいたしました。それを受けてということも一部あるのでしょう。伊藤忠アビエーションは、2月中をめどに、このイスラエルの軍事企業との協力をやめると言っています。(ICJ国際司法裁判所の影響も大きくあるでしょう)私はこれを聞いて、あ、市民の声ってちゃんと通るんだ、声を上げることってやっぱりとっても大事なんだなって思いました。
　他にも、そのラジオでは、ゲストの方が取り組んでおられるバイコット運動のことを話されていました。これは2014年くらいから言われていることだそうですが、社会的に悪いことをしている企業の商品を買わないことによってということとは逆で、何か良い取り組みをしている企業の商品を買うことによって応援していく、という方法なんですね。だけれども、このバイコットという言葉が出始めの頃には、そういう調べられるアプリがあるそうなんですけれども、そのアプリで調べたら、大企業はほとんどダメ、何も買えないじゃないか、というぐらいになってしまってですね、どこかで、途上国の労働者を安い賃金で過酷に取り扱っていたりとか、そういうのをサプライチェーンの問題と言いますけれども、今はそういうのに取り組んだり改善したりする企業がだんだん増えて来ましたし、「買い物は小さな投票」と言われていますから、私たちも世界や社会をほんの少しずつでも良くしていくために、できることは色々あるんだな、と思わされました。
　私は、2017年に、高知でテゼのつどいが持たれましたことが忘れられないんですね。大変素晴らしい集会でした。テゼの素晴らしい歌も歌われたんですけれども、講師として来てくださった植松功さんという方、この方が、フランスのテゼの修道会の大変深い霊性について色々と語ってくださったのと、さらには、テゼのコミュニティはバングラディッシュにもありまして、そこに植松さんは行かれますので、そのバングラディッシュの話もしてくださったんですね。それで植松さんの話はどれも興味深くて、99％わかって心の中で99％賛成したんですけれども、一つだけ分からなかったことがあるんですね。講演のまとめの中で、いくつかの私たちの生活へのお勧めをしてくださったんですけれども、こんなことをおっしゃっていたんです。「感謝の生活をしてください」って。これだけなら普通ですよね。どこの牧師さんでも言います。「祈りの生活、感謝の生活をしましょう」って。でも植松さんは続けてこうおっしゃったんですね。「もし高知で、四国で、皆さんが、不満を言う、愚痴を言う、そういう生活をすると、バングラディッシュの人が傷つくんです。信じられないかも知れないけれど、祈りの世界ってそういうことなんです」って、おっしゃったんですね。私はその時ですね、恥ずかしながら「そんなわけないだろう」って思ってしまったんですね。「そんな風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話があるだろうか？」と思ったんですね。その当時は。けれども、私は頭の片隅にその言葉をずっと置いておいて、繰り返し取り出しては考え続けて来たんですね。今なら分かる気がします。
　かつてバングラディッシュに、日本の大手のアパレル系の企業が生産事務所を持っていまして、それが現地の取引先工場で縫製をさせていたわけですね。ところが(2013年)この工場ビルが崩落して現地の労働者にたくさんの死者を出したんです。
　そういうのは極端だとしても、私たちが、良い品質の服を、その服を作った海外の労働者の給料や職場環境は気にすることなく安く買いたい、そうでなければ不満だ、という心が、企業を動かすニーズとなって、まわりまわって、海外の人々の劣悪な職場環境や低賃金をもたらしている、と言えないこともないと思います。
　植松さんが言いたかったことは、そういうサプライチェーンの問題だけではなくて、もっと霊的な領域の話だったかも知れませんけれども、そんなに外れていないと思います。
植松さんが言ったように、現状では不満だから、もっと便利に、もっと快適に、もっと安心安全に、生活していきたいという、言ってみれば、この世の栄光を求める生活というのは、どこかに落とし穴がある、そういうことが、実は今日のみことばと、非常に密接にかかわってきます。

　今日神のことばとして共に聞きましたのは、教派によって呼び方が異なりますけれども、イエス様の変容、または変貌、と呼ばれる記事です。お姿が変わった、ということなんですね。高い山の上で、イエス様は光り輝くお姿になられた。
　これは奇跡の記事だと言えるんですが、4つの福音書のうち、マタイもマルコもルカも3人が記しています。ということはそれだけ大事な記事だということなんですけれども、しかしなかなか分かりにくい記事だとも言われています。というのは、話の筋が分かりにくいというのではもちろんありませんで、むしろシンプルですよね。話の筋がではなくて、私たちへの意味というのが分かりにくいということなんです。ともすればこんな風に思ってしまうかもしれません。どんなにイエス様が光り輝いた姿になったとしても、私たちの生活に何にも関係がないのではないかと、ここを読んだり聞いたりしても思われるかもしれません。
　しかしここを、ペテロの罪というのをキーポイントにしてみて行くと、だんだんと意味が分かってくるんですね。
　イエス様は、しばしば12弟子のうちの三人だけをお連れになって、特別訓練なさいますね。その三人はペテロとヤコブとヨハネです。特に初代教会において大切な働きをするので、その準備としての訓練だったのでしょう。
　この三人をお連れになって、高い山に登られた。これはタボル山とかヘルモン山だとか言われていますけれども、どの福音書記者も記していないということは、何山であるかは、重要な情報ではないということですね。何が起こったかが重要なんだと。
　そこでイエス様のお姿が光り輝く姿になった。他の福音書では顔が輝いたとかありますけれども、マルコは、特に服の白さに注目して、独特の表現で語るんですね。その衣の白さは「この世の職人には、とてもなしえないほどの白さであった」と。別の翻訳では「さらし職人」「さらし屋」ですね。こんにちで言えばクリーニング屋さんですね。人間の技術によっては絶対にできない白い衣、これも後で大事なポイントになってきます。
　そして、旧約の偉大な人物である、モーセとエリヤが現れて、イエス様と語り合っているという光景を、この三人は見ました。
　もうそれはそれは素晴らしい光景だったでしょう。それを見た時に、一番最初に口を開くのは誰でしょう？やはりペテロなんです。ペテロはどうも、性格的にというより、何か変な義務感のようなものが、頭の中にありますよね。よくは分かっていなくても、一番弟子として、何か発言しておかなければいけない、何も言わなかったら罪であるかのような、変な責任感みたいなものがあるのでしょうか？言いますよね。だからここはよく言われます。ペテロの頓珍漢。5節6節をもう一度読んでみます。
 
5ペテロがイエスに言った。「先生。私たちがここにいることはすばらしいことです。幕屋を三つ造りましょう。あなたのために一つ、モーセのために一つ、エリヤのために一つ。」
6ペテロは、何を言ったらよいのか分からなかったのである。彼らは恐怖に打たれていた。
 
　幕屋3つって、テントのことですね。これはちょうど仮庵の祭りの時期だったので、実はペテロは、テントというより仮庵、仮小屋を建てて、本当の仮庵の祭りをこの山の上で祝おうとしたんだ、という説もあるんですけれども、それはマルコ自身が否定しているからその線は薄いと思いますね。「ペテロは、何を言ったらよいのか分からなかったのである」と著者のマルコ自身が、トンチンカンな発言だったと評価して書いているわけですね。もっともマルコはペテロの通訳としてついて回ってペテロから体験を聞いて書いたわけですから、ペテロ自身から、「あの時は何でもいいから言わなくちゃ。って思って言っちゃったんだ」って失敗の経験として聞いたんだと思いますね。
　でも先ほど私は、ペテロの罪とまで申しました。でも果たしてこの発言がペテロの罪なんでしょうか？いつものペテロのオッチョコチョイというだけじゃないでしょうか？ペテロっていうのは、聖書の中で多くの人に、とても愛されている人物です。オッチョコチョイで、直情型で、考えるよりも先に口も体も動く。それだから失敗が多いけれども、裏表がないある意味で純粋な人物、イエス様を単純素朴に自分なりの人情と師匠への愛と言えるもので愛している、そういった、好感が持てる人物ではないでしょうか？
　だからここはですね、よく言われます。まぁその幕屋、テントなんてこの3人には要らないということもあるかもしれないけれども、この三人を同列に扱ったことがいけなかったんだと。モーセは旧約の、律法を代表する人物、エリヤは旧約の預言者を代表する人物、旧約聖書全体のことを、律法と預言者、などと言いますけれども、その2人で旧約全体を表す、それにプラスして、イエス様も。イエス様のことばも聞く、と。そういう姿勢だったからいけないんだ、と。イエス様は、2人と同列ではなくて、モーセとエリヤつまり旧約全体が指し示しているメシア・救い主である。これに気づかなかったからいけないんだと、こういう説明がよくされると思いますし、それは神学的にも正しいと思います。
　けれどもペテロの罪の本質はですね、そういう同列に扱ったことではないでしょう。ある神学者が、非常に興味深い言い方をしているんですね。ここで現れているのは、「変貌の山におけるサタン」だって言うんです。「サタン」？ええ！？そんなキツイ言い方しますか？
　実はペテロは、この少し前、第8章で、イエス様に「下がれサタン」って叱られてしまっているんですね。まぁもちろん、これはペテロ本人にではなくて、ペテロの背後で働いて、それをペテロに言わせたサタンに向かって、イエス様は言われたんだ、とも解釈できるんですけれども。
　どうしてそんなこと言われたでしょうか？第8章で、ペテロの信仰告白がありました。イエス様に「あなたがたはわたしをだれだと言いますか。」と問われてペテロは「あなたはキリストです・メシアです」と答えました。
　マルコは「生ける神の子」ということばを省いて書いていますけれども、まぁペテロのこの時の答えは、言葉自体は100点だったんです。けれども、中身は、つまりどんなメシアかっていうことは、全然分かっていなかった。
　イエス様がこのペテロの信仰告白の直後、ご自身が多くの苦しみを受け―つまり十字架で死に―そして三日目に復活する、ということをお話になると、ペテロはイエス様をわきにお連れして、いさめ始めたんですね。「ちょっとちょっとイエス様、今からそんな弱気なことおっしゃったらダメです。あなたにはローマ帝国を追い払って天下を取ってもらわなくちゃいけないんですから。」って。その時に「下がれサタン」って言われてしまうんですね。なぜですか？ペテロは、―他の弟子たちも全員そうだったんですけれども―イエス様のことを、栄光のメシアだと思っていたんです。民族的、軍事的、政治的なメシアだと思っていたんです。当時ユダヤはローマ帝国の植民地にされていましたから、ユダヤの民衆は殆ど全ての人が、旧約聖書に預言されている、やがて来られるメシアとは、ローマ帝国をやっつけて、あのかつてのダビデ王朝のような、独立王国を再び打ち立ててくれるそんなメシアだと思い込んでいたわけですね。そして何よりも、ペテロをサタンと呼んだのは、その発言が、実にイエス様が赴かれる【十字架を避けさせる】ものだったからですね。十字架が無ければ、栄光の王様になってしまえば、永遠の昔から計画された、世界中の人々の罪のゆるしという神の救いのご計画は実現しないということになるんです。40日の荒野の誘惑でもサタンは、十字架を徹底的に避けさせて、栄光のメシアになるように、イエス様にささやきかけていたわけですね。
　ペテロは山の上でも、その「栄光のメシア」という固定観念から自由になれませんでした。だから、山の上で、この素晴らしい不思議なイエス様の力の現れの記念として、証拠としての幕屋を作ろう、これを記念碑にして、人々への宣伝活動に使おうと思ったのかどうか分かりませんけれども、この栄光の姿をずっととどめておきたいと思ったのかもしれません。6日前におっしゃったように、エルサレムで苦しみと死が待っているのでしたら、エルサレムに行くのはやめましょう。ここで、この栄光の中で、とどまりましょう。自分たちだけの安心と栄光に留まれればそれで良い。または(宣伝して革命を成功させて)栄光の王様になっていただいて、自分も大臣になって、自分たちの安泰を手にしたい、そう、自分たちだけの平安にとどまること、苦しんでいる人がいる現実を見ないこともまた、サタンのわざだと、その神学者は言いますけれども、やはりここでも、イエス様に、自分たちに都合のいいメシアになってほしい。もっと言えば幕屋の中に入(い)れることが象徴するように、救い主を自分の手の中に入れて、自分の栄光を求めたい、これは最初に発言したペテロだけではありません。ヤコブもヨハネもそうでしたし、なんなら12弟子の他のメンバーたち全員もそうでした。でも12弟子たちが思っていたように、自分たちの栄光というか、自分たちの安心安全を守りたいっていうのは、そんなに悪いことなんでしょうか？私たちは普通、安心安全や、便利で快適を求めることは、罪だとはあまり思わないと思います。
　それで、最初の話に戻ってくるんですけれども、自分たちの安心安全というのは、もしかしたら、誰かの犠牲によって成り立っているのではないかという視点ですね。これについて、NPO法人抱樸の理事長でもいらっしゃいます奥田知志牧師と、経済思想家の齊藤幸平さんの対談の動画がありまして、その最後の方で、まさにこの罪について、語り合っているものがあったんですね。その最初に齊藤幸平さんは、こういう資本によって繋がっている世界において、対立と分断を乗り越えるためには、キリスト教の「ゆるし」という思想に、そのヒントがあるんじゃないかと何となく思っている、と奥田牧師に語りかけるんですね。その中で、水俣病のことを扱った、「チッソは私であった」という緒方正人さんの書かれた名著のことに触れつつ語るんですね。ちなみにチッソ株式会社は、水俣病の原因を作ったとされる会社ですね。緒方さんの本の紹介文には「水俣病患者認定運動の最前線で闘った緒方は、なぜ、認定申請を取り下げ、加害者を赦したのか？水俣病を「文明の罪」として背負い直した先に浮かび上がる真の救済を描いた伝説的名著。」と書かれてありましたが、齊藤幸平さんがその本に触れつつ、語られた、だいたいの内容を聞き書きしてみました。こう言うんですね。＊一言一句正確には聞き取れていませんのでご了承ください。
 
水俣の緒方さんなんかはそれがゆるしだって言うわけですね。
彼の言葉で、本当に衝撃を受けたことばは「チッソは私であった」っていう言葉です。
患者さんがシステムに飲み込まれて　そのシステムで生きてきたという意味では被害者の方もチッソと変わらないんだ、と。
普通の方は自分があんなに大変な公害で苦しんでいる時に、そんなことは言えないので、緒方さんというのは凄い人だなということで打ちのめされたんですけれども、
他方で、それと同じレベルで無いにしても、私たちは自分と意見が違ったり、あるいは自分のことを、傷つけるような加害をしてくるような人たちと、
それはもちろん批判して、その足をどけてくれと、そうした態度は誤っていると、声を上げて批判していく必要はある。相手に謝罪をしっかりしてもらって変わってもらう必要がある。
まぁそれは言えば、マジョリティの側も変わって行かなければならない。
他方で、指摘された時に自分自身もそれをどういう風にしてゆるすことができるのか？
違う立場の人と、どういうふうに歩み寄っていくことができるのか？
別にその被害に苦しんでいる人びとに、加害者を即ゆるせというわけじゃなくて、違いをなんでもかんでも赦せというわけじゃないけれども、
分断をどうやって乗り越えるのかを考えて行くときに、奥田さんがやられている、ゆるしの精神が重要になってくるんじゃないかな、というのを、
運動の中でも対立が目立つようになってきているので、
そのヒントがゆるしなんだろうな、というところまでは来ているんですけれども。
 
と言われて、奥田牧師はこう答えるんです。
 
キリスト教では、まぁ愛だのゆるしだのは大事なんですけれども、
私にとっては緒方さんがおっしゃった「わたしはチッソだった。」っていうその観点は凄く大事で、
キリスト教のゆるし、っていうのは、誰かが誰かをゆるすというよりは、
すべての人間はゆるされなければならない存在なんだって　それをキリスト教では罪びとっていう言い方をするんですね。
そこから逃れることはできない。
たとえば今の資本の仕組みからしても、完全なる加害者と、完全なる被害者はいないんだろうと思うんですね。どっかに外部化していくんだけれども　システムの中で組み込まれているから、完全に私は被害者です、というのは、それはなかなかやっぱり難しいんじゃないかなと　思うんですね。
その時に、私、さっきの斎藤さんの最初のところで、自分がうまくいっているのは、結局誰かがうまくいっていない結果なんだっていう、そのつながりが可視化された時に、そこに自分の原罪とは言いませんけれども、実存的なつながりの中にある、自分の負い目というか　このことばを読んだ時に、
柳田邦夫さんが息子さん　自死されて脳死の11日間を書いたサクリファイスという小説というか本がありますけれども、
そこで、洋二郎さんという息子さんが、亡くなる時の話なんですけれども、
その時に柳田邦夫さんが、タルコフスキー監督の　サクリファイスという映画がある。
われわれが一日一日を平穏に過ごしていられるのは、この広い世界、広い空のどこかで　名も知れぬ人間がひそかに自己犠牲をささげているからではないかという、信仰的思想を、この映画は、精神病の主人公アレキサンデルが、人類を核戦争の危機から救うために自分の家に火を放って神へのささげものとし、自らは精神病院に収容されると言う、かなり難解な寓話によって表現している、っていうこういう言葉があるんですが、この感覚って凄く大事だなって。
さっき言われたゆるしっていうことにおいては、加害者と被害者の関係で　被害者が加害者がゆるすっていうことも確かにそうなんですけれども、
構造的に完全に上と下っていうものがあるんだけれども、
一方で、私はゆるしっていう時に、私はチッソだった、というその観点ですね。
私が生きているということにおいて、誰かがこの空の下で犠牲を払っているんじゃないか？ということに、そこに気付けるかどうかというところが、人間として、ゆるせるか、ゆるせないかにおいては、非常に大事で、
そこの可視化ですね。そのからくりを、たばかっている資本主義をちゃんと暴露した。
僕は加害者だったんだとか、あるいは僕は
物凄い広告の世界で騙され騙され　あんまり
いらないものをいっぱい買ってきてしまっているんだみたいな、被害者でもあるんだ。
そこの可視化において何を見出すかというと
キリスト教で言えば、全員がゆるされないと生きて行けない罪びとであるみたいな感覚は、敗北主義に聞こえるかもしれないけれども、でも私はその緒方さんの一言も含めてとっても大事なんじゃないかな、っていうふうに思いました。
 
　こういうふうに、物凄い深い含蓄のある言葉をおっしゃるんですね。
　で、私もこのテーマについて妻と語り合った時に、いやーでもいくらかはできても、買う物すべてのチェックはできないよね、とか、結局私たちは地球環境への罪っていうのも含めて、日々罪を犯さずには生きることは不可能なわけで、何かを買ったり売ったり選択する時に、より罪の少ない方を選ぶぐらいのことしかできないよね、という話になったんですね。
　そういうわけで、私たちは結局、そういうことに敏感になるとですね、太宰治さんのように「生まれてすみません」という心で生きるしかなくなるんでしょうか？結局はキリスト信仰の「自らの罪を見つめる」ということは、そういう生き方でしかないんでしょうか？
　いいえ、断じてそうではありません。ここで、マルコが注目して描いた、イエス様の御衣のことが大事になって来るんです。なぜマルコは服の白さのことを書いたか、これは意味が込められていると思います。
 
3その衣は非常に白く輝き、この世の職人には、とてもなし得ないほどの白さであった。
 
　なぜこの世の職人にはなし得ない白さが、描かれているんでしょうか？この世の技術ではなくて、何によってならば、この白さが出るんでしょうか？ヨハネの黙示録第7章13～14節をお読みしましょう。
 
新約聖書　ヨハネの黙示録 第7章13～14節
　すると、長老の一人が私に話しかけて、「この白い衣を身にまとった人たちはだれですか。どこから来たのですか」と言った。
そこで私が「私の主よ、あなたこそご存じです」と言うと、長老は私に言った。「この人たちは大きな患難を経てきた者たちで、その衣を洗い、子羊の血で白くしたのです。
 
　そうです。何で白くしたか？この世の職人ではなくて、小羊の血で洗って白くした、っていうんです。ここで言う小羊っていうのは、十字架の上でほふられた神の小羊イエス・キリストです。普通、血で洗ったら服は黒くなると思うんですけれども、イエス・キリストの血で洗うと、純白になるっていうんですね。罪をすべて洗いきよめるからです。それはこの世のどんな職人でも出せない白さです。イエス様が変貌の山で着ていた輝く衣を、私たちは着せていただいているっていうんですね。イザヤ書にも、「たとえあなたがたの罪が緋のように赤くても、雪のように白くする」という約束があります。イエス・キリストの十字架を、自分の罪のためだったと受け止める者は、誰でも罪が完全にゆるされたのです。今日のマルコの箇所では、十字架という単語は出て来ません。けれども、マルコは、このしばらく後にイエス様の十字架があることは知っていますから、十字架による罪のゆるしを意識して「衣の白さ」を強調したのではないでしょうか。使徒パウロはその手紙の中で、イエス・キリストを着なさい、という不思議な表現を使いますけれども、そんなふうにして、私たち白い衣を着させていただいているんです。
　もちろんそれだからと言って、それを免罪符に使うことはできません。クリスチャンはイエス様に赦された者だから、もう何も気にしなくて、どんどん搾取したり、コストの外部化をして、グローバルサウスの人たちを低賃金で間接的にこき使ってもいいんだと、地球環境にもどんどん負荷をかけていいんだ、だってイエス様に赦されたんだから。そんなふうに生きるために、神さまに召されたのでは断じてありません。
　そうではなくて、そういう自らの罪の現実を見つめながらも、主イエスにいただいた復活のいのちを生きる、全く新しい生を生きるのです。それは、この変貌の山の上で、父なる神から聞こえた声に生きるのです。「これはわたしの愛する子、彼の言うことを聞け」
　そう主イエスのことばを聞くのです。モーセもエリヤも、もはや姿は無く、自分たちと一緒にいるのはイエスだけで、もはやだれも見えなかったと、記されております。
　そうなんです。主イエスの御声だけが、教会には与えられております。クリスチャンには与えられております。もちろん、他の声にも耳を傾けなければならない部分はあるでしょう。社会の声、世界の声、そういう声にも耳を傾けなかったならば、私はサプライチェーンほか、さまざまなことを知ることなく、たとえば自分の消費行動が、遠い空の下の誰かを苦しめていたかもしれない、ということを、知らなかったでしょう。しかし、私たちが究極的に聞く声は、決して社会や世界から聞こえてくる声には無い恵みの声です。それは「あなたはわたしの愛する子」という声です。これはイエス様の洗礼の時にも、イエス様に対して天の父なる神が言われたことばですが、変貌の山でも響いていることばです。これはイエス様だけに語られた声でしょうか？いいえ、私たちは、聖書によれば、神の養子とされた者です。そして聖書において養子というのは、実子と全く同じ権利を持ちます。そして、イエス様を長子、つまり長男として、私たちは次男以降、あるいは長女以降なんです。そして実子にかけられたのと全く同じ神からの声がかけられているんです。「あなたはわたしの愛する子」皆さんに言われています。いのちを、無条件に肯定する声です。世の中の優生思想の声ではありません。生まれてすみません、と思わせる声では断じて無い。世の中の、いのちを否定したり値踏みする声は聴かなくていいんです。主イエスの、そして父なる神の御声のみを聞けばよい。いのちを祝福する声です。「生まれてくれてありがとう」って、「あなたはわたしに望まれて生まれてきたんだよ。あなたがこの世界にいてくれたらどんなに嬉しいかって、そう思ってわたしはあなたを創ったのだ。」そう主はあなたに声をおかけになっています。
　主イエスのご復活のいのちをいただいて生きるということは、その声に生かされることです。そして、その声を、この世界に生きる人々に、届けて行くことなのです。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は御子主イエス・キリストをこの世にお送りくださり、その神としての天的な存在としてのお姿を、ほんの少しだけ、今表してくださいました。心から感謝いたします。私たちはペテロのなんでもないようなささやかな、自分たちだけは安心安全、便利で快適でいたい、という願いでさえも、実はそこに罪が潜んでいて、現代の世界においては、遠い空の下の誰かを傷つけていることもあることを知りました。主よあわれんでください。私たちが日々できるだけ罪を離れて生きられますように、しかしまた、それに遥かにまさる十字架による罪の赦しの確かさにこそ、魂の平安を得ながら、しかしそれを身勝手をするための免罪符にすることなく、誰かのいのちを大切にするために生きることを得させてください。いのちを祝福する主イエスの福音の声を、人々に届けるために、私たちをお用いください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。