📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『ペテロの姑の癒し』　2024年8月24日 新約聖書　マタイの福音書第8章14～17節

📗先日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『ペテロの姑の癒し』　2024年8月24日
 
新約聖書　マタイの福音書第8章14～17節
 
14　それからイエスはペテロの家に入り、彼の姑が熱を出して寝込んでいるのをご覧になった。
15イエスは彼女の手に触れられた。すると熱がひき、彼女は起きてイエスをもてなした。
16　夕方になると、人々は悪霊につかれた人を、大勢みもとに連れて来た。イエスはことばをもって悪霊どもを追い出し、病気の人々をみな癒やされた。
17これは、預言者イザヤを通して語られたことが成就するためであった。
「彼は私たちのわずらいを担い、
私たちの病を負った。」
 
主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　皆さんは、今連続テレビ小説の「虎に翼」を見ていらっしゃるでしょうか？(日本初の女性弁護士で後に裁判官となった三淵嘉子(みぶちよしこ)さんをモデルにしたドラマですね。)
　(話題のドラマなんですけれど私はお恥ずかしながらあんまり見ていなかったんですね。けれども、先週(水曜日)、ちょっと病院に行きまして、そこでテレビでちょうど流れていましたから、その回はじっくり見ました。)
　主人公の寅子(ともこ)さんの結婚話の回でした。寅子さんは佐田姓に思い入れがあって、結婚して入籍すれば姓が変わるわけなんですけれど、職場でも通称つまり佐田姓ですね。これを通称として使いたいと強く訴えるわけですけれども、それが認められないわけですね。「裁判関係の書類に戸籍とは異なる名前が書いてある、それだけでそこを突いて来る者もいる。そうなれば名前一つでその書類の真偽が疑われかねない。だから絶対だめだ」と言われてしまうわけですね。
　それで寅子さんは色々と葛藤したすえに、結婚しようとするわけなんですけれども、その回の最後のシーンで結婚相手となる予定の航一さんが出てきて、「結婚をやめよう」と言うわけですね。
　ええっ！？というシーンでその回は終わるわけなんですけれども、その後の回で、寅子さんが、相手の姓を名乗ることを決心して「私たちならば、折れてよかったと思える日がいつか来る」というわけですが、その後の相手側の航一さんのセリフが秀逸なんですね。
 
【それでは、君の僕への愛情を利用した搾取になってしまう】
 
　ＳＮＳでは、このセリフに対して、【愛情を盾に相手に無理を強いる。それが搾取。】だと言う投稿をする人もありました。
 
　もちろん双方納得している夫婦ならいいでしょうけれども、今のいわば強制的に夫婦が同じ姓を名乗るというしくみが―これ何も日本の伝統でも何でもなくて、明治31年からのことなんですね。それまでは夫婦別姓が当たり前だったわけですが―、しかも今でもほとんどの場合、男性側ではなく女性側が姓を変えさせられるという暗黙の了解（慣習）が、女性に不便や不利益をこうむらせている、ということなんです。
　他にもあげればきりがないんですけれども、それまで当たり前だと思いこんできて気にしたこともなかったことが、実は女性を搾取していて、それが透明化されている、ということが日本社会にもいまだに色々あるんですね。
　ですから日本も、今もまだ家父長制、ミソジニー―女性蔑視ですね―が強く、男性優位社会であるということですね。
 
　実は2000年前のユダヤの国というのは、もっともっと家父長制やミソジニーが強くて、女性が軽んじられ、一人の人間として扱われず、蔑視されていたわけですね。聖書の記述を見てもそれがお分かりになると思います。たとえば4つの福音書すべてに記されている5000人の給食と呼ばれる記事、これは「男だけで5000人であった」とカウントされて書いてあるわけですよね。つまりこの時代は、女性や子どもは、ものの数に入れられていなかった、ということですね。そういうところ一つを見ても、当時のユダヤの社会が、女性蔑視であったことがよく分かるわけです。
　そういう社会状況の中で、一つの小さなできごとが起こります。イエス様の一番弟子のペテロさん、この人は結婚していまして、妻がいました。そしてそのお母さんが登場します。彼女が「彼―つまりペテロの―姑」と書かれていますね。（姑とは夫または妻のお母さんなわけですね。）
　この人が、ペテロの家の中で、酷い熱病で苦しんで寝ていた。そこにイエス様が入って来られます。そしてこの女性の手を取って癒される、今日共に神のことばとして聞きましたできごとは、そんな話から始まります。
　で少しおさらいになりますけれども、これまでの文脈を見ますと、第5章から第7章の終わりまでがイエス様の山上の説教、そして第8章からイエス様の奇跡奇跡のオンパレードになります。その文脈の中なんですね。
　先週は、2つの奇跡のできごとがありました。一つ目は、ツァラアトの人の癒しでした。2つ目は、100人隊長のしもべの癒しでした。この文脈の中で、

山を降りてから3つ目と言っていいでしょうか。奇跡のできごとが第8章14節15節の、ペテロの姑の癒しです。
　16節の多くの悪霊につかれた人や病気の人の癒しというのが、4つ目の奇跡とするならば、今日は3つ目と4つ目の奇跡のできごとが語られたわけです。
　これを4つの奇跡を見てみますとですね、一つのことが浮かび上がって来ます。ツァラアトに冒された人、この人は当時のユダヤの社会では、―こういう言い方がいいかどうか分かりませんけれども「アウトカースト」カーストの外ということですね―社会的にも隔離され、シナゴーグというユダヤ教の会堂に入ることができないので神からもある意味引き離されていたような人です。
　そして2人目のローマの100人隊長は異邦人です。ユダヤ人から見れば異邦人というのは、「地獄のたき木」と呼ばれたこともあったようで、異邦人というだけでけがれた存在、今日の衛生的な観点や感染予防というのではなくて、宗教的なけがれがうつるということで、市場に行ったら異邦人と触れたりしたかもしれないから、そういう場合には全身をきよめの洗いをせよとか、市場で野菜を買って来たら、その野菜を入れた銅の器ごと洗うといった、それぐらいに毛嫌いしていたんですね。そのけがれた者とされた異邦人の部下ですからやっぱり異邦人、けがれた者とされた者の癒しだったわけです。
　そして後先になりますけれども4つ目の、悪霊につかれた人々や病気の人々も、当時のユダヤ社会で忌み嫌われていたと言ってもよいと思います。病気の人だって、その病気は、罪の結果だと言われていました。だからツァラアトほどではない病気であっても、病気の辛さだけではなくて、偏見に遭って差別されて見下されている、そういう人たちであった、ということですね。
　そして一つ戻って3人目のペテロの姑、この人も病気で、病気のゆえに、「あのペテロさんのおしゅうとめさん、ひどい熱病ながやって。なんかの罪でも犯したがやろうかにゃあ？」と噂された上に、女性であるということで、軽んじられること。訪ねてくれる人や優しく触れて介抱してくれる人のいないことに苦しんでいたでしょう。
つまり、この文脈から、社会で見捨てられている人、社会で隔離されている人、そういう人たちに率先して愛を示されたイエス様のお姿というのが浮かび上がってきます。ここにも感動があるわけですね。
 
で、ある男性の牧師先生が、今日のみことばは、私の愛唱聖句の一つだ、とおっしゃっていたんですね。皆さんの中で、ここを愛唱聖句にしている方はいらっしゃるでしょうか？あんまりいらっしゃらないと思うんですね。私にとってもその先生の発言は、大変新鮮でした。女性の牧師先生がそう言われるならすぐ納得するんですけれども、そういう見方をしたことはなかった。何かその男性の牧師先生が共感して、これは私の話だ、と思うところがあったのでしょう。
私も、聖書の中で長血の女と呼びならわされてきた女性の話は大好きで、その話の説教を初めて聞いた時に、12年間医者にもどこに行って癒されなかった女性が、イエス様の衣にでも触れればと思ってそっと触れた、そこで癒された。「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。安心して帰りなさい」と言ってくださった。そこに、私は女性ではないし、体の病ではないけれども、どこに行っても治らなかった「自分は生きていてもしょうがない人間だ」「自分には愛される資格も価値もない人間だ」といういわば魂の病が、イエス様に触れた時に癒された。これは私の物語だ！と今でも思っている。だからこの話が私の愛唱聖句の一つになっています。
けれども、このペテロの姑の癒しを、そんなふうに受け止めていないのなら、やはり私の読みが浅かった、ということでもあるのでしょう。よくこの話を手でなでるように読み取っていく、聞き取って行くと、やはりこれも私の物語だ、と私も含めて、ほとんどすべてのクリスチャンが言えると思います。
重ねることができると言えば、熱を出したことは、私たちは全員あると思いますね。39度、40度の熱を出すことはまれであっても、37度38度の熱を出す機会は多いでしょう。私も子どもの頃からしょっちゅう風邪を引く体質でして、でも20代30代の頃は、体力があり余っていましたから、38度出しても、平気で働いていました。けれど副鼻腔炎やってからですね、風邪と副鼻腔炎のダブルパンチと片頭痛も加われば、5倍も6倍もきついんですね。手術してから副鼻腔炎と片頭痛が気休め程度に少しだけ軽くなった気がします。
でもある意味それでも体のしんどさだけだと、それほど辛くないんですよね。私が小学校の頃インフルエンザで40度の熱を出した時ありますけど、それはそれほど辛くなかったんです。なぜか。母親に看病してもらえたからです。優しく触れてもらえて、心配してもらえた。体は辛いんですよ。けれども孤独じゃない、ということが、どれほど精神をラクにしてくれるか、ということなんです。
だから体の不調だけではなくて、2000年前のユダヤの女性でなくても、あの病気になったのは自己責任だ自業自得だなどと言われている、何かの差別に遭っている。阻害されたり隔離されたりしている、コロナには私かかったことありませんけれども、きっとコロナにかかった人はこのペテロの姑により強く共感するのではないかと思います。隔離されたり、邪魔者や疫病神のように扱われることがある。もう初期の頃にはコロナ差別などと言われて酷かったですよね。コロナにかかった者が―本人は体が辛いのに―謝罪させられるということがありました。「コロナにかかって申し訳ありませんでした」と世間様に対してお詫びさせられるんですね。
そういうわけで、病気の苦しさに、「孤独」というものが加わると、その苦しみは二倍どころじゃない。何倍にもふくれあがる。そういう苦しみの中にあったでしょう。
ここでイエス様が、そんな孤独の中にいたペテロの姑に、手を触れられると、癒された。聖書では、癒しと救いが同義になっています。だからペテロの姑はこの時に救われたと見ていいんです。
でこのことをよく考えてみると、私たちにも同じことが起こった、ということがよく分かります。同じこと？イエス様にお祈りしたら、からだが癒された、ということもあるでしょうけれども、現代ではそうでないことがほとんどだと思います。けれど、大切なのはそこじゃなくて、女性であってもそうでなくても何らかの形で構造的に搾取されて生きる勇気を阻害されていたり、孤独に沈んでいるまさにそのところに、主イエスが来てくださって、そっと優しく手をふれてくださって、あなたは高価で尊いと言ってくださって、生き生きと生きる力を与えてくださった。
ここで15節に、彼女は起きて、とありますけれども、起きて、というのは、復活して、とも訳せることばです。だからイエス様から復活のいのち、永遠のいのちをいただいた、ということなんです。これも、ここで救われたことを表している、と言っていいと思います。
そして同じく15節の「イエスをもてなした」の「もてなした」とは、仕えた、奉仕した、ということばなんです(ここから教会の執事ということばが生まれましたけれども)。しかもこれがちょっとややこしいことを申しあげますけれども、このニュアンスがとても大事で、ギリシャ語の未完了形という形が使われていて、「仕え続けた」とか「仕え始めた」と訳せるんですね。つまり、ここで一回仕えただけじゃなくて、ずっと仕え続けたことを表していてるっていうのが大事なポイントで、つまり、イエス様に弟子入りしたのだ、と読んでもいいかもしれません。弟子になって生涯イエス様に仕え続けたんです。
そうなると私たちのクリスチャン人生と重なっていますね。あるところからイエス様に手をとっていただいて、救われて、復活のいのちをいただいて、生き生きと生きる人生になって、生涯イエス様に仕える、そういうキリスト者としての私たちの生がここで描かれていると言ってもよいかもしれません。
けれども、ここはそれだけのことを語っているのではありません。
　4番目の、悪霊につかれた人々や、病気の人々の癒し、これらのことを含めて、この4つのできごとは、弱者とされている人びと、構造的に搾取されていたり阻害されたり差別されている人びとに主イエスによって光が当てられて救われたという切り口で捉えることができると同時に、これは山上の説教で権威ある者としてお語りになった主イエスの権威が、行動、奇跡を通して、つまり静から動へ、ことばではなくて、行動を通してその主イエスの権威が現れた、という「主イエスの権威」という切り口で捉えることもできるわけです。
　そして、その権威の現れというのは、神の国の到来として現れているんですね。山上の説教は、ある意味で神の国の到来、という終末論的な説教だと言えますね。「神の国とその義をまず第一に求めなさい」「わたしイエス・キリストという狭い門を通って天の御国に入りなさい」と主イエスはおっしゃいました。そして、8福の教えもそうですね。まぁ教えというのは本質を突いていないかもしれません。宣言と言った方がいいです。幸いなるかな心貧しい者。から始まる幸いの宣言は、この世とは逆転しています。神の国とはこういうものだ！という神の国の到来、という一つのテーマから捉えることもできるわけですね。（色んな多角的に理解しておいた方が、その豊ーかさ、というのが味わえるわけです。）
　そしてこの神の国の到来というのが、今日のみことば第8章17節でマタイの筆によって表現されているわけです。しかしこれはマタイが考えたことばではなくて、引用なわけですね。どこから？旧約聖書イザヤ書の引用なわけですね。
 
17これは、預言者イザヤを通して語られたことが成就するためであった。―これが、イエス様がお生まれになる何百年も前にイザヤが預言した、神の国の到来であったとマタイは言うわけです。―
「彼は私たちのわずらいを担い、
私たちの病を負った。」
 
　こういうメシア、救い主が現れる。これが神の国の到来です。これは苦難のしもべの歌と呼ばれて、イエス様の預言なんですね。
　先ほど、「まぶねの中に」という歌をご一緒に歌いました。意外に思われた方もいらっしゃると思います。これはクリスマスの歌でしょ？季節外れなんじゃないの？そう思われたかもしれませんけれども、別にクリスマスだけの歌じゃないんですね。「まぶねの中に産声あげ」とありますから、イエス様のお誕生の歌のイメージが強いんですけれども、2つの歌詞にこうあるんですね。
 
食するひまも打ち忘れて　
虐げられし人を訪ね
友なき者の友となりて　
心砕きし　この人を見よ
 
病を負った方ご自身が、誰よりも傷ついておられた。
私たちの病をしょいこんでおられるのです。ここで「私たちの病を負った」とありますけれども、取り去った、と訳せることばなんです。
その方の悩みはついに十字架にいたり、私たちの罪という病を永遠のかなたに取り去った。そしてさらに、それを突き抜けて、復活にいたる！この人を見よ！そのことを語るために、このマタイの福音書も書かれたのです。
このペテロのしゅうとめに、そして私たちに、新しいいのち、ほんもののいのちを注いでくださった！
　先ほど終末論的という難しいことばを使いましたけれども、ひらたく言えば天国に行くまでの間のクリスチャンライフと考えたらいいと思いますけれども、これを「すでにといまだの間」と言います。私たちはすでに救われているけれども、いまだ完成はしていない。神の国はすでに到来しているけれども、いまだその完成を私たちは見ていないんです。
　天の御国に行った時には、今日起こったことも含めてすべてが完成しています。差別や抑圧や搾取や人権侵害されている人びとが完全に回復され、完全に人間として扱われ、愛以外のものを受けない、およそ被害と呼べるものは受けない世界です。だからこそヨハネの黙示録では、地上での涙がすっかり拭い取られて、もはや死もなく、悲しみ、叫び、苦しみもない、そんな国だと記されているわけです。
　それが約束されています。そこに行くまでの間に、もちろん不完全ではありますけれども、確かにここに、キリストの教会に、神のみことばを聞く群れの中に、神の国の現実は確かに始まっている。それがどんなにささやかであっても、阻害された人たちのところに、主イエスの温かい優しい手のぬくもりと、罪のゆるしと永遠のいのちという、あなたに生きてほしいという贈り物を届ける奉仕のわざを、私たちの手や口を通して、主イエスがすでに始めさせてくださっているのです。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様がお送りくださった主イエスは、神の国の到来を告げてくださいました。告げてくださるばかりでなく、その権威をもって、その神の国の到来のしるしを見せてくださいました。私たちの元にも、です。虐げられた者が解放され、私たちの病や弱さや罪を担ってくださるその主イエスの十字架によって罪がゆるされ、復活のいのちが与えられ、新しく生きる者とされました。
そのような個人的な救いだけではなくて、この世界に神の国の到来を告げ知らせる者たちの群れとして、教会として生かしてくださっていますことを心から感謝します。どうぞささやかであっても、この世界の破れを繕う者として弟子としてますます神に仕え、隣人に仕えることを得させてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。

#ペテロの姑 #ペトロの姑