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関越トンネルを出て、泣いた。
泣いた。
関越トンネルを通ったんだ。
運転していなかった。助手席で、ボーッとしていた。
雪国からの帰り道、関越トンネルに入ってしばらくした頃、ハザードランプの点滅が目に入ってきた。
あ、渋滞だ。
渋滞。
関越トンネルの中で、渋滞だ。
関越トンネルの中で…渋滞…だ。
え。
胸がドキドキしてきて、息が苦しくなってきた。座っているのに目眩がするような…
わ、吐きそう!
いきなり、吐きそう!ってくらい、気持ちが悪くなった。
(私もうダメかもしれない!)
ゆっくりゆっくり、深呼吸する方法を思い出して、唱えて、数えて。
吸って、とめて、吐いて。
吸って…とめて…吐いて…。
少し窓を開けて、また閉めて。
目を瞑って、唱えて、数えて、吸って…とめて…吐いて…。
降り止まない雨はないと言うように、出口のないトンネルもない。
出口はあるし、ほら、非常口だってある!
もうこのままずっと出られないかも!と思った長い長い関越トンネルからようやく出たら、気持ちのいい青空が見えて、ホッとした。
よかった。もう大丈夫。
…なんて思ったら、大まちがい。
青空のドライブなのに、全然スッキリしない。
「どうした〜?車酔い?」
「いや…私、もう…ダメかもしれない」
「なに、吐きそう?」
「私、もうトンネルダメかもしれない」
トンネルダメかもって言ったら、トンネルがダメって認めちゃう。
ダメなものが、どんどん増えちゃう。
言いたくなかった。
言うのが嫌だった。こわかった。
でも、言った。
言ったら、ホッとした。
ポロポロ涙が出て、あぁ私、トンネルダメなんだ、って受け入れた。
車内のおやつ袋に入れていたポンカン。
震える指で、やっとの思いで皮をむき、口に入れた。
ポンカンは味方だ。
「はい、トンネルくるよ〜目瞑って〜」
「はい、出たよ〜」
え、みじかっ!
「くぐるもの全部、念のため。陸橋とかも言っておこうかね」
「ありがと…」
ダメなもの、苦手なもの、こと。
受け入れたくないのだけれど、受け入れると、ほんの少し楽になれることもある。
ほんの少し楽になれるという経験が、私にはある。
苦しかったときのことを思い出すと、呼吸が浅くなっちゃうけれど。
人のやさしさ、温かさに救われたことを思い出すと、じんわり涙が出る。
たくさん助けてもらった。
私もうダメかもしれない、って言えた。
認めて、受け入れて…まぁ、それだけのことなんだ。
なんてことない、それだけのこと。
ただ、トンネルダメかもしれないって言って泣いたのは、生まれてはじめてだったな。
今回はわるい方の初めてだったけれど、震える指でむいて食べたポンカンの美味しさは、いい方の初めてだった。
大人になっても、まだまだ初めてがあるね。
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