一瞬で過ぎ去っていく

4月の日々の流れる速さはとんでもなかった。
ライブが無くなり、家とバイト先との往復という生活はあまりにも刺激がなく、気がついたらすぐに5月になっていた。

僕は5月始めまでコートを着て外出していた。
何故なら日々が過ぎるのが早すぎたから。コートを、気温ではなく体感時間で出し入れしていたから。
なんでこんなに暑いのに俺はコートを着てるんだろうとも思った。
でもそれは仕方がない。もう5月になってはいたけど俺の中のカレンダーは4月3日くらいで止まっていたからである。
4月3日ならまだ寒いしコートを着る人も多かった。だから俺はなにもおかしくなんかない。

ライブに出てた時は毎日何かしら刺激があった。
楽屋で芸人が喋る内容にびっくりしたとか、新ネタで手応えがあったとか、ライブのエンディングでエル上田さんとやりあったとか、色んな新しいことがあったりした。
今はなにもない。刺激をなにも得られない。そりゃそうだ、バイト行ってネタ書いてるだけなんだから。
バイトでトイレ掃除の時に洗面台の上に置かれた人糞を発見した時も、なにも刺激はなかった。刺激臭はしたかも。

もし家に帰って遊んだりゲームをしているだけだったら余計時間が経つのが早くなっていただろう。時間を遅らせるためにネタを書いているというのもあるかもしれない。
ちなみに相方は現在バイトに行って遊ぶだけの生活をしているので、今は5月13日だがあいつは8月9日あたりになっている。

だがそう考えた時、一つの疑問が。
社会人の方々は、僕らよりもあっという間に流れる毎日を送っているのでは?
人によるだろうけど、社会人の方々の中にも刺激のない日々を送っている人はきっといるだろう。
僕の友達で工場勤務の人がいる。工場は流れ作業で仕事の内容はいつも同じ。違うのは量だけ。工場だってすごく立派な仕事ではあるけど、刺激という面では少ないと思う。
そうなるとあいつは今2028年くらいになっているんじゃないか?
34歳くらいになっているんじゃないか?
子供も4人くらい出来ているんじゃないか?
その子供の運動会で、親が走る競技で走らされ筋肉痛になっているのではないか?

逆も考えてみる。
よく聞く話で、小学生は体感時間が非常に長いという。人生経験が少ない分、なにもかもが新鮮に感じ刺激的な日々を送っているかららしい。
つまり小学生は、今2017年あたりを生きているのではないか?
まだ第七世代という言葉が生まれていなかった時代ではないか?
とろサーモンさんが、自分たちが優勝する未来をまだ知ってなくて、必死でネタを頑張っている時じゃないか?
俺たちは初めてM-1の3回戦に進出し、ベストアマチュア取れるぞと思っていたら完熟フレッシュが意味わかんない完成度で3回戦で拍手笑いを4、5回取っていた時じゃないか?その日から俺がレイラちゃんに敬語を使い始めたタイミングじゃないか?(そんな喋ったことないけど)

なにを言ってるんだこいつと思うかもしれないが、俺は本当に大真面目にこんなことを考えている。
デカルトの著書「方法序説」を読んだことがあるが、そこには自分の存在は自分の認識でのみ証明できることであり、他人の存在を証明することは出来ないということが書かれている。有名な「我思う、ゆえに我あり」とはそれである。
他人の存在の証明については今は置いておくとして、自分以外の人間が同じ時間を生きているということを証明することは絶対に不可能なのである。
バイトで一緒に働くパートさんが今、2020年5月13日の時間を生きているかなんて俺には証明することができない。
そのパートさんは今そこに立ってはいるものの、それは過去の映像を俺が見ているような状態であり、実際は5年先の未来を生きているなんて充分ありえることなんじゃないのか?

そしてもう一つ。当然のことだが、流れる時間の長さは一定じゃない。
なにか刺激を得ることができたら、時間の流れが遅くなることは十分にあり得る。
そうなった時、いま未来を生きている人たちが僕と同じ時間に戻ってくるということだってありえるかもしれない。

例えば相方は、さっき8月9日辺りを生きていると書いたが
それは勿論刺激がないからだ。
だが昨日のアイツのツイートにはこんなことが書かれていた。

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このツイートは、要は「うるさくしてたら手紙で怒られました」という内容だ。
僕が悪いと書いておきながら被害者意識がすごいというあいつのクソみたいな性格は一旦置いておく。
これは彼にとって刺激的な出来事だったに違いない。
彼は怒られ慣れを全くしていない。身内ならともかく他人から怒られた経験なんて数えるほどしかないと思う。
そんな彼がこんな出来事を経験したら、かなりの刺激になったというのは間違い無いだろう。
そうなると、8月9日まで進んでいた彼の時計は一旦止まる。
止まるというか、時間の流れが止まっているのと同じくらいの感じで遅くなる。
そこで俺が、今からずっとゲームやって寝るだけ生活を始めたら、こいつに時間が追いつくかもしれない。
僕の体感時間の猛追で、やっと相方と同じ時間を共有することが出来る様になるのかもしれない。

それだけじゃ到底追いつかないというなら、あいつにさらなる刺激的な日々が訪れればいい。
例えば、この手紙がルームシェアをしている人たちから毎日ローテーションで送られるようになり、
それが規模がどんどん大きくなっていって、
肉汁が「頂きます」と言っただけで「うるせえ!!」と町の人間全員が右手に釘バット、左手にメリケンサックを装備して茨城に向かい、
肉汁の親を襲撃し出したりしたら、彼の時間は止まるだろう。
それどころか、もしかしたら巻き戻ることすらあるかもしれない。
脳の防衛本能から今現在起きている事象の拒絶が始まり、幻覚や走馬灯のようなものが流れ始め、小学生のときに精神だけがタイムスリップするかもしれない。
つまりなにが言いたいかというと、結局物事は脳が認識しているというだけであり、
その人の世界が変わってしまえば、実際の世界は通常通りに動いているとしても
その人にとってはそれが全てになるということだ。何故ならその人は自分のことしか証明できないから。

俺はこの記事を2秒で書いた。
それもあなた達が否定することは絶対にできない。
ということなのである。

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