プロ野球申し送り事項

※このコラムは2020年の夏に開催された文春野球フレッシュオールスターに投稿したものです。


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 2020年のプロ野球は開幕が遅れに遅れ、6月中旬にようやく球春を迎えた。オープン戦もままならず、対戦相手と顔を合わせるのはいきなり本番からという場面も多く、厳しいシーズンである。
 データの収集も新戦力の分析もできずにいるのは現場もファンも同じ。千葉ロッテマリーンズのファンである私も、テレビの向こうで開催されているPayPayドームでの無観客試合を見ながら「なるほど、これが今年のホークスか。やっぱり強そうだな」と考えていたものだ。
 で、3連戦が終わった日の夜、Twitterでなにげなくこんなツイートをしてみた。


 「#プロ野球申し送り事項」というハッシュタグをつけ、次のカードで福岡ソフトバンクホークスと対戦する埼玉西武ライオンズに向け、エールの意味もこめて現有戦力の感想を「申し送り」してみたのだ。すると、このタグがひとり歩きを始める。球団を問わず、あらゆるチームのファンが「申し送り」をするのが、連戦後の定番となったのだ。

 特に今季のパ・リーグは、火曜から日曜にかけての同一カード6連戦が続くキツい日程。勢いや流れを味方にできるかがカギとなる。事実、マリーンズは6連戦最初のカードとなるオリックス・バファローズ戦で6連勝を達成し、大いに弾みがついたのは間違いない。
 1週間かけてじっくり腰を据えて同じチームと対戦するため、相手のことも細かく見えてくる。選手の好不調はもちろんのこと(好調な選手は「温めておいた」、不調な選手は「冷凍中」と表現)、イケメン選手のイケメン具合、松田宣浩・杉谷拳士・山田遥楓といった各選手の声のうるささ(ほめてます)、PayPayドームに出現した恐怖のPepper軍団について、etc…。あるいは有観客試合となってからはグッズ販売や球場グルメの情報にいたるまで、あらゆる情報が「#プロ野球申し送り事項」のハッシュタグに乗って伝えられていった。


 ひとり歩きしたハッシュタグは意外なところにまで波及する。ABEMA TVにて放送されている「ABEMA バズ!パ・リーグ」という番組でこのハッシュタグが取り上げられたのだ。Twitterで盛り上がっている項目として、具体的にツイートを紹介。以下は司会の辻歩さんのTwitterアカウント。



 この番組にゲスト出演していたマリーンズOB・里崎智也氏もこのハッシュタグが気に入っていただけたようで、自身のYouTubeチャンネル「里崎チャンネル」でも話題にしてくれた。



 ハッシュタグに寄せられた多くのツイートから感じられたのは、プロ野球ファンのあたたかみだ。思うようにことが運ばない世の中にあってもプロ野球を楽しみながら共存していく、といった独特な連帯感で盛り上がっている印象が残っている。それと、他球団のファンから自分の好きな選手をほめられるとこんなにもうれしいものなんだな、と思わずニヤニヤしたものだ。マリーンズならば種市投手、そして若き4番・安田選手への評価が高く、ファンとしては鼻が高くなるというものである。

 もちろん、ひたすら相手をdisるタイプの口さがないファンも存在する。見る者の感情を昂らせるのがスポーツの常。しかし、プロ野球の試合が開催されるだけでも幸せだと思わされる時代なのだ。どうせなら楽しんだ方がいいし、蔓延するなら諍いの種より笑顔の方がいい。息の詰まるような世の中で、「#プロ野球申し送り事項」のツイートを見ながらそんなことを感じるのだ。


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※文春野球フレッシュオールスターに投稿した文章はここまでです。


 「#プロ野球申し送り事項」のハッシュタグは年をまたいで生き続け、2021年の交流戦を前にして各メディアでも活用されるようになりました。



 ハッシュタグの意味するところは変異していますが、「野球について語りたい」という根っこの部分に変わりはないと思っています。まったくもって、Twitterというのは不思議なものです。

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