<陸自幹部候補生学校生活記録> 60年前の手榴弾による重大事故再び??極度に緊張してしまった同期による手榴弾投擲訓練での事件
こんにちは。
元・国防男子/陸上自衛隊応援団/初級・中級幹部サポーターのMr.Kです。
幹部自衛官として13年間勤務し、主な経歴は🪂最精鋭部隊第1空挺団、🇺🇸米国陸軍留学、✏️陸自最高学府の指揮幕僚課程、🇺🇸在日米陸軍司令部、🇺🇳国連南スーダンミッション軍事司令部等で勤務して参りました。
現在は、民間企業の危機管理部門で海外セキュリティ担当として危険国の情勢分析、セキュリティ対策の立案など、陸自時代よりもよりリスクの高い仕事をしています。
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今回は、幹部候補生学校シリーズで『手榴弾投擲』についてお伝えします。
幹部候補生学校の教育では『手榴弾投擲』という課目があり、演習場で実弾の手榴弾投擲訓練を行います。
実は、60年以上前になりますが、幹部候補生学校での手榴弾投擲訓練で死亡事故が発生しています。
僕が候補生時代に手榴弾投擲訓練をした際、60年前と同様の死亡事故を間一髪で免れたという事案を経験しましたので、今回はその時の話をしたいと思います。
ちなみに幹部候補生学校での訓練関連の記事は、↓↓のような記事も書いていますので、合わせて読んでいただけると幸いです。
⏩ 陸上自衛隊での手榴弾投擲訓練
世界の軍隊などでは、様々な種類の手榴弾が使用されていますが、陸上自衛隊で採用されていて、僕が幹部候補生学校で実際に使用した手榴弾は、パイナップル式のものです。
爆発したら側面の鉄の部分が破裂し、その破片で人員を殺傷するタイプです。
手榴弾は、安全ピンを抜いて、投擲して(安全レバーが外れて)から数秒で爆発します。
ちなみに、陸上自衛隊の手榴弾投擲要領はこんな感じです。
トッカグンの東京サバイバルチャンネルさんからの引用です。
陸上自衛隊では、実弾の手榴弾を使用する基本教育は、幹部候補生学校での教育のみです。
新隊員教育では模擬弾投擲だけで『実弾』を使用した訓練は行いません。
陸上自衛隊の部隊で手榴弾投擲訓練をやるのは普通科(歩兵)職種くらいなので、職種によっては、手榴弾投擲は最初で最後の経験となります。
幹部候補生学校でこのような教育を行う理由は、部隊配属後、実際に隊員に教育をしたり、手榴弾投擲の訓練を計画しなければならないためです。
実際に実手榴弾を投擲して、その威力や特性を理解します。
現在の陸上自衛隊の体力検定の科目には『ソフトボール投げ』の種目は無くなってしまいましたが、陸上自衛隊のひと昔前の体力検定の課目であった『ソフトボール投げ』は、手榴弾投擲を行う際に重要な課目でした。
球技をあまりしたことのない候補生にはソフトボール投げが苦手な人が多く、体力検定でいつも『不合格』となっていた候補生が沢山いました。
小さい頃から野球等のボールを投げる球技をしていなければ、ボール投げの飛距離は短期間では伸びません。
投擲のフォームや体の使い方から矯正していかなければならないからです。
⏩ 過去に幹部候補生学校で発生した悲しい事故
かつて、幹部候補生学校において、そんなボール投げが苦手な候補生が手榴弾投擲訓練時に引き起こしてしまった悲惨な事故がありました。
昭和33年5月、幹部候補生学校での手榴弾投擲訓練で死亡事故が発生しています。
手榴弾投擲訓練の際には、1人の候補生に対して、教官が1名ずつ配置されます。
事故防止のため、教官が候補生の投擲場での動作や投擲要領を安全管理上しっかりと確認するためです。
その教官と投擲をする候補生のいる場所は壕になっていて、投擲をする方向には腰の高さくらいの土の壁が構築されています。
投擲する際にはその壁を超えてさえ投げられれば、自分の所に鉄の破片が飛んできて負傷することはないのです。
しかし、昭和33年5月の手榴弾投擲訓練事故では、当時の候補生が手を滑らせて手榴弾を自分の足元に落としてしまいました。
極度の緊張のためか、手榴弾を前に飛ばすことができず、自分と教官のいる壕の中に落としてしまったのです!!
絶体絶命のピンチです!
数秒後には、安全ピンが外れて自分達がいる壕内に落下してしまった手榴弾は爆発💥してしまいます。
つまり、数秒後、『死』を意味します。
この時、当時の教官は数秒という短時間で色々な事を瞬時に考えて状況判断をしたことでしょう。
🔴 安全レバーが外れて、数秒後に爆発
🔴 拾いあげて前方に投げても間に合わない
🔴 このままでは、爆発して候補生もろとも死んでしまう
🔴 この絶体絶命の状況にどう対応すればいいのか
教官は足元に落ちた手榴弾の上に咄嗟に覆いかぶさりました。
自分自身の生命を犠牲にすることで、候補生の命を守るという判断をされました。
非常に勇気ある行動です。
その教官は、候補生の生命を守り、亡くなってしまいました。
今から60年ほど前に起こった悲しい事故でした。
過去に実際に発生したこの事故について、手榴弾投擲の訓練をする前に教官から聞かされ、本当に危険な訓練をやっているということを再認識させられました。
当時の僕にとってすごく衝撃的な話でした。
そして、自分の命を犠牲にして候補生を守った勇気ある教官をすごく尊敬しました。
⏩ 手榴弾投擲訓練当日
前述したとおり、幹部候補生学校で使用する手榴弾は、爆発時の手榴弾の破片効果によって人員を殺傷するもの。
手榴弾投擲場では、鉄の破片が飛び散るため大変危険です。
投擲訓練は各10名ずつのグループで順番に行われます。
投擲を行わないグループの候補生は、投擲場から200mくらい離隔し、土嚢を何重にも積み重ねて作られた「退避壕」で待機していました。
その退避壕には、分厚いガラスの監視窓が設置されていて、そこから他のグループの候補生達が行なっている投擲訓練の状況を監視できるのです。
その分厚いガラスの部分には手榴弾の破片が当たったのか、少しヒビが入っていて、破片の殺傷力の強さを物語っていました。
退避壕に入って待機していても、爆発音の後に
ヒューン、ヒューン、ヒューン
と、金属の破片が空気を切る音が聞こえました。
200mくらい離れていても、飛散してくる金属片に当たったら大怪我をする事は容易に想像出来ました。
⏩ 歴史は繰り返す??
手榴弾投擲訓練時、
次に投擲訓練をするグループは、投擲している組のすぐ後方の簡易的な退避壕で待機をします。
よって、前のグループが投擲する様子を見ることができるのですが、前のグループが投擲している時に、大変なことが起こりそうになりました!
ーー 隣の区隊のK候補生の投擲の時
彼は、運動系は基本的に苦手。
体力検定は隣の区隊と合同で行うので、彼がどれだけ運動が苦手なのかは僕でも良く分かっていました。
球技もやったことがないのか、体力検定でのソフトボール投げもボールが前に飛ばず、投げたボールが斜め前方向へ飛んでいくタイプ。
そんなK候補生の手榴弾投擲本番。
投擲に不安があるのか、いつになく緊張していた様子でした。
K候補生達のグループが投擲位置に着いた後、教官の号令と候補生達の復唱が響きます。
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教官 「投擲準備!」
候補生「投擲準備!」
教官 「ピン抜け!」
候補生「ピン抜け!」
教官 「投げ!」
候補者「投げ!」
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「あっーーーー!!」!゚(✽ ゚д゚ ✽)
後ろで待機していたグループの候補生達の悲鳴が響き渡りました。
K候補生は手を滑らせて、手榴弾を自分の足元に落としてしまったのです。
えっ、マジ!?
訓練前に教官が話していた過去の手榴弾投擲事故の話が思い出されました。
ー また悲しい事故が起こってしまうのか・・・
K候補生に付いていた教官が、慌てて足元に落ちた手榴弾を拾い上げ壕の外に投げ落としました。
ドーーン!💥
間一髪・・・
助かりました・・・ ゚ε-(´∀`*)ホッ
あと1秒遅かったら、教官とK候補生の2名とも亡くなっていたかもしれない緊迫した状況でした。
一応、壕の中には『手榴弾口』といって、手榴弾を投げ損じてしまった場合に備えて、できるだけ被害を軽減するための工夫はされています。
防御陣地にも『手榴弾口』は構築しますが、所詮、穴を少し掘った程度のものですので、その手榴弾口に手榴弾を投げ入れても、大怪我は免れなかったでしょう。
その場にいた教官は、
当然、大激怒!! ゚ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!
候補生諸共、亡くなっていた可能性もありました。
「何やってんだー!殺す気か!!」
もし、教官が手榴弾を拾い上げて前方に投げるまでの動作が遅れていたら、
僕は、目の前で手榴弾の爆発により2人が亡くなる瞬間の目撃者になっていたことでしょう。
ゾッとしました・・・
⏩ そして自分の投擲の番がやってきた
そんな危険な出来事が目の前で起こった後、ついに自分が投擲する番がやってきました。
練習通り平常心で行えば問題はないのですが、つい数分前に目の前で事故が起こりそうになったことで、少し動揺していました。
まずは、手榴弾を受領して、手榴弾の点検。
外観にヒビが入っていないか等、異常の有無を確認します。
訓練では事故を防止するため、手榴弾の保持要領もしっかりと統制されています。
初めて手にした本物の手榴弾。
ずっしりと重みを感じました。
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昔、野球もバスケもやっていたので、投擲は問題ない。
失敗することは99.99%ない。
でも、今回は練習ではなく、本物の手榴弾。
訓練で使用した模擬手榴弾よりも何だか重く感じる。
緊張する・・・・
練習で投げたものとは違って、本当に爆発して破片が飛び散る・・・
過去には死んだ人もいる。
🔥 変な風に爆発をしないだろうか・・・
🔥 隣で投擲する同期は、ちゃんと投げてくれるだろうか・・・
🔥 投げ損じて隣の壕に飛んでくる事はないだろうか・・・
🔥 もし、何かの間違いが起こって、ピンを抜いた瞬間爆発したら・・・
初めての実弾に不安ばかりが頭を過りました。
冷静にならなければ・・・・
落ち着け、俺。
大丈夫だ。
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実際にリアルな爆発物を手にすると色々な不安なことが頭をよぎりました。
そして、教官の号令で10名が一斉に投擲します。
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教官 「目標確認!」
候補生「目標確認!」
教官 「投擲準備!」
候補生「投擲準備!」
教官 「ピン抜け!」
候補生「ピン抜け!」
教官 「投げ!」
候補者「投げ!」
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一斉に目標をめがけて投擲します。
ーー 数秒後・・・・
ボーン! ボーン! ボーン! ボーン!・・・
次々に投擲された手榴弾が爆発していきます。
すべての手榴弾が爆発したのが確認できたら、教官の合図で終了。
何事もなく無事に最初で最後の手榴弾投擲の訓練は終わりました。
よかった・・・゚ε-(´∀`*)ホッ
⏩ 不発弾処理隊の隊員を想う
これを考えると、不発弾処理をやっている隊員たちのメンタルは凄いと思います。
日本でも未だに不発弾や遺棄兵器が発見されて、近傍の住民を避難させた後に自衛隊の不発弾処理隊の隊員が処理をしたというニュースがあります。
僕の陸上自衛隊の同期も、不発弾処理のために硫黄島でしばらく滞在していたことがあったと話していました。
陸上自衛隊の不発弾処理の隊員達は、その危険な仕事を、確か1日か1発あたり500円という少ない手当で業務を行なっています。
危険度からして、もう少し手当が高くてもいいとは思うのですが・・・
陸上自衛隊では、これまで不発弾処理での失敗はありませんが、僕が今の仕事で担当している中東の某国では、不発弾処理の失敗による軍人の死者が後を絶ちません。
某国での不発弾関連の業務では、元陸上自衛隊の不発弾処理隊員からもアドバイスをいただいたりもしていますが、やはり不発弾であっても爆発物を見ると緊張します。
取り扱いを間違ったら、爆発する可能性がありますからね。
⏩ 最後に
幹部候補生学校では、手榴弾投擲の他にも『110mm個人携帯対戦車弾(LAM(ラム))』の実弾射撃も行いました。
LAMの射撃訓練の時、教官から言われたことは、
「1発あたり数十万円の対戦車弾だ。絶対に外すな!」
当時、演習に参加してLAMの射撃訓練を行なったのは約180名の候補生。
ということは、このLAMの射撃訓練だけで1億円以上の税金が使われているのです。
痺れました。
僕の候補生時代はなかったのですが、最近では『擲弾(てきだん)射撃』も行われているみたいですね。
擲弾とは、上の写真のように小銃などに装着して発射する火器で着弾と同時に爆発します。
手榴弾投擲を含めて小銃射撃以外の射撃も、一般的に部隊では普通科(歩兵)隊員くらいしか訓練しません。
普通科隊員以外は、幹部候補生学校での射撃が最初で最後となるのです。
幹部候補生学校では実弾を使用した危険な訓練も行いますが、部隊で幹部自衛官として隊員に教育したり、訓練計画を作成するためのものです。
こういう教育を受けられるのは、幹部候補生の特権です!
危険なことを行う際には、訓練通りに行えるように『平常心』を保つことの重要性を学びました。
貴重な経験をさせていただきました。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
今日も皆様にとって良い一日となりますように!
元国防男子 Mr.K
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