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お誕生日おめでとう。

※このnoteは、息子の一歳の誕生日に書いた手紙をもとに、加筆・修正をしたものです。

お誕生日おめでとう。

今日で一歳。あなたが生まれてからまだ一年しか経っていないなんて、信じられません。毎日少しずつ、新しいことができる。その成長に驚いて、喜んで、あっというまに今日を迎えました。

この手紙は、さらに十年後、あなたが十一歳の少年になった日に渡そうと思って書いています。

大きくなってね

十一歳のあなたは、何が好きですか。夢中になっているものはありますか。お父さんに似て、やさしくてお調子者? それとも、わたしに似て食いしんぼうかな。 どんな少年に育っているのか、今から楽しみでなりません。

あなたが生まれたばかりの頃は、こんなふうに未来のことを考えられませんでした。ただ「大きくなってね」と唱えていた。会えてうれしい、生まれてきてくれてありがとう、大きくなってね、と。
小さなからだに管を通して、保育器の中で眠る姿。真夜中のNICU(新生児集中治療室)でピピピッと鳴るモニターの音が、今も耳から離れません。あなたは予定日よりも2ヶ月早く生まれました。

2020年7月。産婦人科で「いつ生まれてもおかしくない」と言われ、救急車で大きな病院に運ばれました。お腹の中のあなたはまだ小さく、器官も整っていなかったので、少しでも長くお腹の中にいられるように点滴を打ちました。でも「待てない!早く外に出たい!」と言わんばかりに、翌朝生まれてきましたね。

あの二日間は、かなりドタバタだったな。探したら当時のメモが出てきたので、手紙の最後に書き記しておくね。とにかく、思いがけずあなたは早く生まれてきて、わたしは母親になりました。

母親って、なんでしょうね。わたしが母親であることをはっきりと自覚したのは、眠るあなたを撫でているときでした。数日前までお腹の中にいて、この世に生まれた小さな我が子。これまでのように、お腹の中で「なんとなく無意識のうちに」育てるわけではなく、きちんと食事・睡眠・排泄などのお世話をしなければいけない。そうしないと、命を落としてしまう。

わたしに芽生えたのは「守らねばならぬ」という使命感でした。

だからこそ、その瞬間、肺も乾いていないうちにあなたを産んでしまった自分を激しく責めました。本来ならばまだお腹の中にいるころ。母体を通じて栄養を摂り、大きく成長するころ。なのに、早く産んでしまった。無理をさせてしまった。守ってあげられなかった。

このまま自力で呼吸ができないかもしれない。目が開かないかもしれない。たくさんの「かもしれない」に不安でいっぱいになり、今はただ生きてほしいと願いました。早く産んでしまってごめんね。その小さなからだで、頑張って生まれてきてくれてありがとう。大きくなってね。

早く会いたくて、生まれてきた

わたしを救ってくれたのは、あなたのお父さん。いろんな言葉をかけてくれました。

「予定日まで待てないほど、とても会いたかったんだね!」

「この小さくてかわいい時期、ほかの多くの人は知らないんでしょ? 2か月も長くいっしょに過ごすことができて、お父さん幸せ!」

「こんなに足を伸ばしている。お腹の中でも蹴っていたもんね。お腹の中は狭かったのかな? 今は大きく伸びをして気持ちよさそう。よかったね!」

「お母さんは暑がりだから、夏に大きなお腹を抱えるのつらいと思ったのかな? 優しいね、お母さん思いだね」

わたしが「そうかなあ…?」と呟くと、迷いなく「ぜったいそうに決まっているよ!」と言うのです。いちばん身近な人に言われ続けて、少しずつ前向きに受け止められるようになりました。そうか、会いたかったのね。わたしも会いたかった。うれしい。生まれてきてくれてありがとう、と。

いつか、あなたが言葉を話せるようになったら、生まれたときのことを覚えているか聞いてみたいと思っています。もし覚えていたら、教えてね。

誕生日おめでとう

一歳のあなたはまだ言葉は話せないけれど、表情や言動からなんとなく、言いたいことがわかるようになってきました。眠かったり、絵本を読んでほしかったり、スプーンを自分で握りたかったり。

そして、強く感じるのは「お母さん大好き!」というメッセージ。笑顔で駆け寄ってくるあなたを「わたしも大好きだよ!」と抱きしめられることが、心から幸せ。

あなたの誕生日はとても大切な日です。生まれてきてくれた日。ずっと会いたかったあなたに、初めて会えた日。

きっと毎年、誕生日が訪れるたびに、あなたが生まれた日と、それからいっしょに過ごしたかけがえのない日々すべてを想うのでしょう。一年後も、三年後も、十年後も。生まれてきてくれてありがとうと、大好きの気持ちをたくさん込めて、言うのだと思います。

「お誕生日おめでとう」


おまけ:生まれる前日・当日のできごと

6:30 歌っても痛い
10:30 産婦人科
11:14 美容院キャンセル
11:52 もうしきゅうぐちはっせんち
12:09 山賊ショーツ?
16:00 MFICU
18:23 バイバイ
18:39 まずい鰻
1:40 陣痛10分間隔
1:54 分娩室
2:05 Alexaで起こす
3:20 カーテン越しに仮眠
6:43 誕生

十年後には忘れてしまいそうなので、覚えているうちに補足します。

出産前日  6:30 歌っても痛い
朝起きて布団の上でゴロゴロしていたら、お腹が痛くなってきました。お父さんといっしょに、あなたが好きな「Memory」やディズニーの曲を歌うとおさまって、「やっぱり好きなんだね!」とお腹をなでなで。でも、しばらくすると激痛。つらかった。痛みの理由がわからなくて何度もトイレに行きました。

10:30 産婦人科
あまりに痛いのでお父さんが「産婦人科に行ったほうがいい」と言って、アプリでタクシーを呼んでくれました。歩けば5分の距離なのに、タクシーがなかなか迎えにこなくて30分以上かかりました。妊婦検診で通っていた、かかりつけの産婦人科に到着。

11:14 美容院キャンセル
控室でモニタリング。痛いのになぜ診てくれないんだろうと思いながら横になっていました。お昼ごろから美容院に行く予定でしたが、このままでは間に合いそうにないと思って、お父さんに「予約キャンセルの電話を入れてほしい」と伝えました。

11:52 もうしきゅうぐちはっせんち
内診後、医師・看護師・助産師などたくさんの人が集まっていてびっくり。「子宮口が8cm。いつ生まれてもおかしくない状態です。安全にお産を進めるため、大きな病院に移っていただきます」と言われ、あわててお父さんに連絡しました。「もうしきゅうぐちはっせんち。来れる?」「何も準備いらないからとりあえず来て」と。在宅勤務だったのですぐに駆け付けてくれました。

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12:09 山賊ショーツ?
この時点で、陣痛は5分間隔。救急車の中で、痛みの引いている数分のすきに、入院セットの中身を口頭でお父さんに伝えました。「産褥ショーツ」がわからなかったようで、聞こえたまま「山賊ショーツ」とメモしてあり、後から見て笑いました。

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16:00 MFICU
大きな病院に到着。「なるべく長くお腹にいてもらいましょう」と言われ、MFICU(母体・胎児集中治療室)に入院。陣痛を遅らせる点滴を打ちました。MFICUは個室。ソファもトイレもついているし、家よりも涼しいなあ、読みかけの本を持ってくればよかったなどと呑気なことを考えていました。

18:23 バイバイ
お父さんが入院セットを用意するため、家に帰ることになりました。新型コロナウイルス感染防止のため、病院では面会が制限されていました。もう退院まで会えないかもしれない。ここからはひとりで、あなたが生まれるまでの数か月間を過ごすのかもしれない。さみしくて名残惜しくて、いっしょに写真を撮りました。これが出産前最後の写真になりました。

18:39 まずい鰻
生まれて初めての病院食。土用の丑の日で、鰻が出ました。運ばれた丼を見て「おいしそう!」と思ったのですが、一口食べてがっかり。これからは期待しないぞと心に誓いました。

出産当日 1:40 陣痛10分間隔
22時に消灯したあとは、寝返りを打つと陣痛がきてしまうと思い、腰が痛いのも我慢して姿勢を保っていました。やがて夜中に痛みが増してきて、ついに陣痛が10分間隔になりました。定期的に様子を見に来てくれる助産師さんに、「とても痛いです、ううう……」と涙ながらに訴えると、分娩室に移動することに。

1:54 分娩室
内診で子宮口が開いていることがわかり、出産に備えることになりました。「ご主人にも連絡を」とスマホを渡され、そんなに近いの? と半信半疑で連絡しました。助産師さんは信じたほうがいい。

2:05 Alexaで起こす
立ち会い出産を希望してはいませんでしたが、やっぱり一人では心細くて、必死になってお父さんを起こしました。何度電話をかけても気づかないので、「さてはマナーモードにしているな」と思い、Alexaで呼びかけました。Alexaでアラームをかけて音量を徐々に上げると、ようやく気付いてくれました。

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3:20 カーテン越しに仮眠
お父さんが病室に到着。枕元に来てくれましたが、「そばにいらっしゃいますか?」という助産師さんの質問に「いえ、カーテンの向こうで」と回答。寝不足と日々の疲れで、個室のソファーで寝ていました。お父さんはこのときのことを、「叫び声が響く部屋でも、眠れるようだ」と振り返っています。わたしも、存在を近くに感じたいけれども姿を見られたくはなかったので、ほどよい距離感でした。

6:43 誕生
おぎゃあと産声。「ああ、生きている」と思いました。胎動は感じていたけれど、生まれ出てきた姿を一瞬見て、ほんとうにお腹の中から出てきたんだと驚きました。数分後には、保育器に入ったあなたを枕元に連れてきてくれました。体が熱くて、背中には毛が生えていて、細くて小さい。しわくちゃの顔もとてもかわいかったです。


お父さんにこの流れを読み上げて、ふたりで声をたてて笑いました。思い出って、いいね。いずれ少年から青年になり、大人になるあなたに、家族が生まれる瞬間の愛おしさが伝わればいいなと思います。


お母さんより

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