聴覚障がいのあるライターが、インタビューに初挑戦しました|2024.大寒・水沢腹堅
■ 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)
さむい。朝は特に、ひんやりとしたスリッパに足を通すのに勇気が必要だ。
えいやっと足を突っ込んでしまったら、あとは暖房のスイッチを入れてそそくさと朝の準備を始めてしまう。我が家の暖房の効きが良いのか、わたしに無駄な動きが多くてエネルギーを消費しているからなのか、動き出してしまえば身体はすぐに温まる。
それでも。あの、スリッパに足をえいやっと足を突っ込んでしまうまでのあの時間が、途方もなく長いなと感じる。そんな今は、一年で一番寒さが厳しくなるころと言われる大寒で。
しかも「水沢腹堅」ってなんですか。ひらがなにしてみると「さわみずこおりつめる」と読むらしい。
さわみず……冷たそう
こおりつめる……めちゃくちゃ冷たそう
いや、ね。わたし本当に書き物を生業にする人なのかしら、と自分でも疑いたくなるような感想なのだけれども完全に思考が停止してしまうような寒さが続く今日この頃。春の訪れが待ち遠しくてたまらない。
■ 取材記事に初挑戦しました
倉敷という街では、春の訪れを待ちわびるかのように3月第2週の週末に「瀬戸内倉敷ツーデーマーチ」という西日本最大級のウォーキングイベントを開催しているらしい。
倉敷の恒例行事ならば……と、わたしも倉敷とことこのライターとして市の担当職員からお話を聞いて記事を書くことになった。つまり、取材記事デビュー。
・レポート記事と取材記事
倉敷とことこにはいろいろな記事があるけれども、わたしが今まで書いてきたのは何かイベントに参加してその感想をまとめるレポート記事。こちらは当日ふらっとイベントに参加した一参加者の目線で書く。
これは、いわゆる「報告書」なので、自分が見て感じたことを書けばOK。たまたまそこで出会ったかたとお話しした内容を盛り込むこともあるけれど、かしこまったインタビューはおこなわない。
一方で、取材記事は事前に相手へ取材依頼書を送ってアポイントを取って取材に行く。そして、取材で得た情報をもとに記事を作成する。
特に今回のような参加者の申し込みを促すような記事は「告知記事」と呼ばれるもので、イベントの概要や主催者が読者に伝えたいことの情報をまとめて、読者に「参加してみたい」と思ってもらうことが目的になる。当然、わたしの主観ではなく客観的な視点が求められる。
・聴覚障がいのあるわたしがインタビューの際に工夫したこと
インタビューと言えば、会話が命。がしかし、わたしには聴覚障がいがあるため、音声で語られる相手の話をすべて聴きとることは、難しい。普段は相手の口の形を読み取って会話をしているけれども、そのほとんどは雑談だから聞き漏れがあっても許される。
でも、今回はお仕事。しかも、取材記事を書くためのインタビューのため、聴き洩らしては仕事にならない。
① 質問リスト
そこでまず今回は、取材依頼書を送る際に質問リストも一緒に送った。この質問リストを送っておくことで、話題の内容をある程度推測できるようになるため、聴き取りや読唇がスムーズになる。
② カミングアウト
そして、取材先にはわたしに聴覚障がいがあることを事前に伝えた。今回は上司が事前に説明をしてくれたのだけれども、インタビューが始まる前に改めて自分の口でもきこえのことを伝えた。
隠すような恥ずかしいことではないし、きこえにくいことを伝えることによって「もう一度お願いします」のように復唱もお願いしやすい。
③ 補聴援助システム「ロジャー」
わたしは、聴力的に比較的補聴器で音を聴きとることが向いているほうだと思う。それでも、読唇ができないと音声を聴きとることは難しい。
インタビューでは話をしながらメモをすることが必要だったり、普段口の形を読み取りなれていない相手を取材することが多くなる。するとやっぱり、言葉として相手の音声を聴きとることに不安を感じてしまう。
そのため、補聴援助システム「ロジャー」を使用している。これは補聴器に直接音が届くワイヤレスマイク。学生時代も講義を聴きとる際にお世話になっていて、前職も授業をする際にこのロジャーを付けて子どもたちに声を届けていた。そして地域おこし協力隊となった今も、取材先で大活躍している。
相手の声がダイレクトに補聴器に届くのと、わたしの聴力がロジャーでの聞き取りに適していたおかげで、重宝している。聴覚障がい者のなかにも「ロジャーの音は苦手」という人もいるので、個人差はあるけれども。
④ 音声認識アプリ「YYProbe」
とは言えども、聴き取りには限界と不安がある。限界は文字通りのこと、わたしは生まれつき耳がきこえにくいので「正常なキコエ」というものがそもそも分からない。ロジャーを使っても、聴き取れているのは8.5割くらいかな。
キコエル人たちからよく「どんな音がキコエナイの?」と尋ねられることがあるけれども、わたしはいつも「この世界にはどんな音があるの?」と聞き返したい。
かろうじて読唇ができる相手の言っていることや聴き取りの練習をした結果分かるようになった音は分かるものの、わたしの認識するその音が正解なのか不正解なのかは判断できなくて。
だから、手話や文字のように音声が視覚情報に変換されることで、安心してコミュニケーションを取ることができる。
このYYProbeも、音声情報をリアルタイムで文字情報に変換してくれるアプリ。静かな場所、相手の音声が明瞭な場合は特に認識率が上がるので、今回のような静かな場所での取材には適している。
そうそう。キコエルライターさんたちは、取材の際に音声情報を記録するためにボイスレコーダーを持っていくらしい。でもわたしはボイスレコーダーに録音した音を聴きとれる自信がないので、このYYProbeの画面を録画した。
メモしきれなかった情報や、改めて聞き返したい情報が視覚的に分かるので、スムーズに記事を書くことができた。
■ ツーデーマーチ、わたしも歩きます。
そんなこんなで、文明の利器に助けてもらいながら初めてのインタビューが無事に終了した。とってもとっても緊張して、その後の写真撮影はグダグダだったので、今度は写真も含めて自分一人で取材が完結できるように頑張りたいなの気持ち。とりあえず無事に公開されて、胸をホッとなでおろしているところ。
そうそう。せっかく告知記事を書いて担当のかたの熱い思いを受け取ったので、わたしもツーデーマーチ歩いて来ようと思います。2日目は、障がい者を対象としたふれあいウォークに行く予定で、初日はどのコースにするかまだ悩んでいるところ。
倉敷でまだまだ行けていないスポットをまわれるコースにしたいなぁ……なんて考えていたら、春がぐっと近づいてきたような気がしてきてしまうもんだから不思議。こうやって、春を待ちわびることを少しずつ重ねながら寒を乗り越えるぞ!
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今回取材した記事はこちら。
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第37回瀬戸内倉敷ツーデーマーチ(事前申込は令和6年1月31日まで) ~春の息吹を感じながら倉敷の魅力を再発見しよう
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