【ショートストーリー】Vol.11 いつかの書きかけの記憶。
めちゃくちゃ手が綺麗と思った。これはめちゃくちゃ綺麗なんじゃないかって。誰かに褒めて欲しい。カメラで手を写してみようかとも思ったけど、台所の明るい蛍光灯の下で改めて見たら、なんてことないただの普通の手だった、そうか、それが36歳の手かと思った。
ホタルイカの目玉を取りながら、後ろで流れている震災10年のニュースを聞く。
あの時私は、揺れるビルの中で「えっ、死ぬ?」と思ったのだ。10階のビルの一室、おそらく耐震構造のせいでとてつもなくそのビルは揺れ回ったのだ、遠心力に従って