ホープフル・モンスター

*いわゆる二次創作。この間のパロディ「社長と門番」よりまじめ。だいぶ長いのでお暇なときによろしければ。鉄彦と森繁の旅のお話。


■暗い部屋(夜)

ちらちらと懐中電灯の光が部屋の中を行ったり来たりしている。

中央には箱型の寝袋が置かれている。

しばし寝袋を照らしていたが、気配に気づき、さっと光は遠ざかる。
カチリと蓋の開く音。

森繁の声「…わああー!!(悲鳴)」


■暗い部屋(日替わって・夜)
カチリと蓋の開く音。
森繁の声「うわあっ!えっなにこれ、えっ」


■暗い部屋(日替わって・夜)
カチリと蓋の開く音。
森繁の声「ひぃ冷たっ!」


■暗い部屋(日替わって・夜)
カチリと蓋の開く音。
森繁の声「いてっ、いたっ!こら鉄彦!」
鉄彦が猛スピードで走って逃げていく気配。


■暗い部屋(日替わって・夜)
カチリと蓋の開く音。
間。
森繁の声「……あれ?今日はない感じ?…………わーっ!(悲鳴)」
鉄彦の声「ぁっはははは、あははははは!」


■ノクス仕様完全遮光のホテルの部屋(日替わって・夜)
カチリと蓋の開く音。
鉄彦の声「起きた!」
声と同時に、ぱっと、部屋の明かりがつく。部屋の中央に置かれた箱型の寝袋の中にいる森繁、まぶしさに思わず腕で顔を隠す。
森繁「なんだ!今日はなんだ!?(全力で警戒)」
鉄彦「今日はお茶だ!紅茶!」
森繁「たしかにお茶の香りだ……さすがに人の寝起きで遊ぶの飽きたのか」
鉄彦、テーブルにずらりと並べたティーカップを嬉しそうに示す。
鉄彦「見ろよこの色!こんなにいろんな種類見たことないから思わず全部もらって淹れてみた!」
何種類もの袋を見せびらかす鉄彦。がば、と飛び起きる森繁。
森繁「…いくら使ったんだよこれ…(青ざめる)…なに、今度はそういう意味で心臓に悪いやつ…!?」
鉄彦「なに言ってんだよ。いつも脅かすのも悪いかと思って今日は趣向を変えてみたの!俺の自慢のFOPと物々交換だから金は使ってない。安心しろ!それより、ほら、これは俺が作ってたやつに近くて明るいオレンジ、でもこっちはこんなに鮮やかな赤で、こっちは濃い茶色。全然違うんだよ!すごいだろ」
森繁「ん?…オレンジと、赤と、茶色?」
鉄彦「そうだよ、ほら」
森繁「…うーん、ごめん、わからないや」
鉄彦「ちょっと、まじめによく見ろって」
森繁「いや…違うんだ、ほら、俺…」
鉄彦「ああっ。そうか。あれか…前聞いた…、スペ」
森繁「そうそう」
鉄彦「ス、…スペシャル?…スペクタクル?…ストリップ!?」
森繁「最後スとトしか合ってないから!なんだよスペシャルスペクタクルストリップって。どんなだよ」
鉄彦「あああ、だめだ、このへんまで出てきそうなのに、出てこない」
森繁「スペクトル」
鉄彦「それだそれ。……本当に見えないのか」
落ち込んでいる鉄彦。
森繁「でも、ほら。いい香りや美味しい味はわかるよ。いい香りだ…(飲む)うん、美味しい。淹れ方も絶妙だね」
鉄彦「(元気取り戻して)だろ!?」
森繁「おう。さっすが社長。そのうちさ、移動販売ティールームでもやる?それで稼いだら中古のシスタ買ってさ!」
鉄彦「おおっ。いいねえ。いいこと言うね、門番!」
森繁「役職やめよう…っていうかもう門番じゃないし」
鉄彦「ああそっか、じゃあ運転手? 社長と、運転手」
森繁「だからやめて?役職とかやめて?」

ふたり、ふざけ合いながら出発の支度をする。

鉄彦のモノローグ「森繁と旅を始めてもうすぐ1か月。俺は毎日驚いてばかりいて、もう1年ぐらい経った気がする。森繁はあまり驚かない。正直悔しい。だからここのところ俺は毎晩、あいつを驚かせてやろうと、躍起になっている。驚いてほしくて、喜んでほしくて。でも、やっぱり俺は、なかなか森繁を心から喜ばせられていない気がする」


■国道(夜明け前)
ゆっくりと速度を落とした車が路肩に止まる。運転席には森繁。
助手席で寝ている鉄彦。

森繁のモノローグ「旅をして初めて、キュリオと毎日身近に接して、いかにキュリオが疲れやすいかを知った。俺は毎日連続・夜通しで運転してもたいして疲れないが、鉄彦は途中で何度も休憩を取らなければならないし、それでも毎日車中泊は無理だ。それだけじゃない、見えるものの違い、感じ方の違い。当たり前だと思っていたことが、そうじゃないと知って、鉄彦が言っていた『全然同じじゃない』という言葉が、少しずつわかってきた」

車の止まる振動で目覚めたのか、鉄彦が起きて、大きく伸びをしている。
鉄彦「(まだなかば寝ている)…おはよう」
森繁「おはよう。寝られた?」
鉄彦「うーん、まあまあ。昨日はつい話し込んで夜更かししちゃったしね…、あ…時間大丈夫?」
森繁「あと30分てとこかな」
鉄彦「あーごめん、もっと早く起きれば良かった」
森繁「いいよ」
外に出てふたりで体操をする。

   × × ×
鉄彦「森繁は何が見たいんだ?」
体操しながら訊く鉄彦、すっかり目が覚めた顔つきになっている。
森繁「なにって?」
鉄彦「この旅で見たいものだよ! 俺は今までずっと狭い世界にいたから、見るものがみんな珍しくて面白いけど、森繁はもう知ってることばかりだろ」
森繁「まあね」
鉄彦「それじゃあ、せっかくふたりで旅してんのに、俺ばっかりじゃん。だからさ、森繁の見たいものを見に行こうよ!ちょっとぐらい寄り道したって構わないからさ」
森繁「寄り道もなにも、目的地すら決まってないからね。…ありがとう。考えとくよ」
鉄彦「ちゃんと考えろよ?」
森繁「わかったよ。まあ、時間はたっぷりあるんだからさ」
地図を広げる森繁。
森繁「さて。対岸の島に渡ればこの先は四国。このまま南へ向かってさらに海を渡れば九州だ。どっちにする?」
鉄彦「四国は…いつでも行ける。もっともっと南がいい」
森繁「よーし。じゃあこの道をまっすぐだ。今日も安全運転頼んだよ」
先に車に乗り寝袋に入る支度をする森繁。
森繁「あっ、そうだ。この先、キュリオの街があるんだけど、そこはだいぶ治安が悪いらしい。もうちょっと先に行くとまた別の街があるから、そこで交替にしよう」
鉄彦「よっしゃ。任しとけ」
森繁「おー、よろしく。じゃ、おやすみ」
鉄彦「おやすみ」
森繁は寝袋に入り蓋を閉め、眠りにつく。

   × × ×
鉄彦、そのまま外に残っている。
水平線に赤みがさし、夜が明け始める。すると、眼下に広がる海、いくつもの島々とそこに架かる橋という絶景が姿を現す。
鉄彦「うっわあ……!」
やがて空は燃えるような赤と藍色のコントラストを見せ始める。
美しさに打たれ、立ち尽くして海と空を見ている鉄彦。
鉄彦「すげえ……」
いよいよ空は明るくなって、太陽の光も激しい色から暖かな色へと変わっていく。鳥が羽音をたてて飛んでいく。
鉄彦「すっごい、綺麗……」
ふと振り返り、静かな車内のほうを見つめる鉄彦。
鉄彦「……」


■国道を走る車の中(昼)
運転席には鉄彦。
外は激しい雷雨。
鉄彦「森繁―。おーい、森繁―。…寝てるか」
視界が非常に悪い。
鉄彦「これ、やっばいな。ちょっとどこかで止まりたい…とりあえず街に」
ハンドルを切り、標識が示す一番近い街へと車を走らせる鉄彦。

■街(昼)
車が街に入ってくる。灯りがついている店らしき建物、その脇に車止まる。と、激しかった雨はすっかり止んでしまう。
鉄彦「通り雨か…」
車を降りる鉄彦。大きく伸びをして、ストレッチ。
と、後ろから男がやって来る。
男「おい、おまえさん、どっから来た」
鉄彦「おわっ…えっと、長野8区だけど」
鉄彦の腕時計にちらりと目をやる男。
男「長野8区!?ずいぶん遠くから来たな」
鉄彦「おっ、俺は奥寺鉄彦」
男「…奥寺。なんだか背格好も似てるし…それにその時計も見覚えがある…」
鉄彦「ああ?なんだよ?」
男「おまえ、まさか奥寺克哉の血縁か?」
鉄彦「…知ってるのか?」
男「ああ、旧い友だちさ。なんてこった。息子…じゃないよな」
鉄彦「…違う。奥寺克哉の姉さんが俺の母さん」
男「姉さんが母さん………って甥か、わかりづらい説明だな。どうしだんた、その時計。まさか盗んだんじゃないだろな」
鉄彦「違う。…もらったんだ」
男「へえ。あのけちな克哉がねえ」
鉄彦「ここは、キュリオの街なのか?」
男「おまえ、キュリオなんて言葉を使うのか」
鉄彦「意味は知ってる」
男「人間の街だよ。ここは。最近じゃノクスは寄りつかない」
鉄彦「治安が悪いと聞いた」
男「さてはノクスのやつから聞いたんだろう。たしかにノクスにとっちゃあ、暮らしやすくはないだろうさ。人間の街だからな。よし、ここで会ったのも何かの縁だろう。酒、おごってやるよ。…ん?未成年か?酒、飲んだことあるか?」 
鉄彦「はっ。ははん。長野8区では有名な酒豪でとおってます!」
男「そ、そうか…?」
男と鉄彦、酒場に入っていく。森繁は車内で眠っている。

■酒場(夕方)
窓からは西日がさし、間もなく日が沈もうとしている。
鉄彦「(ろれつあやしく)だからぁー、1か月前?ぐらいから一緒に旅しててー」
男「ノクスと旅!?ありえん!」
鉄彦「ありえなくないよー。だって森繁すっごいいいやつなんだもんー。なんでだろー、たしかに他のノクスはちょっと怖いときもあるけどー、森繁は他のやつとは違うのかなー。よかったら紹介するよー。これ、同じの、おかわりー」
別の男が店の奥で手招きするのに応え、おかわりした酒を呑んでいる鉄彦を置いて奥へ行く男。
男2「だいぶ馬鹿っぽいガキみたいだが…」
男「世間知らずに山奥で育ったんだろ、しかたない。今の俺たちにはひとりでも多くの力が必要だ。体格もいいしなにしろ若い。貴重な戦力だ。思想だって、これから教育していけば問題ないさ」
戻ってくる男。
男「おい、奥寺鉄彦」
鉄彦「あぁ?」
スクラップブックを差し出す男。男2もそばへやって来る。
鉄彦「なんだよこれ…」
  “ノクス旅行者の不用意な接触で村は壊滅状態”
  “すべて搾取された―農家の悲痛な訴え”
  “太陽に当たらないノクスは伝染病の温床”
  “母も父も連れていかれた…たったひとり残された少女”
悲痛な面持ちの少女の写真に、幼馴染の少女の面影がだぶる。
男「ひどいもんだろ」
鉄彦「……」
男2「ん?もしかして字が読めないのか? そうかそうか、10年も経済封鎖なんて異常に執念深いこと、やつらがいかにもやりそうだ。かわいそうにな」
男「文字は全部はわからなくても写真はわかるだろ。こっちは内戦時代のやつらの悪行だ。残酷だろう。有名な写真だ」
鉄彦「………初めて見た」
男2「検閲が入ってるからな。新聞も都合のいいことばかり。情報操作してるんだ」
鉄彦「……」
男「どうだ、わかっただろう。ノクスと友だち?ありえないね。おまえは騙されてる。あいつら俺たちを利用することしか考えてない悪魔だ。太陽の下を堂々と歩けないのが何よりの証拠じゃないか?」
鉄彦「……」
男「仲間にならないか、俺たちの」
鉄彦「あんたたちは、なんなんだ」
男「俺たちは、白夜党という。聞いたことないか?ノクスに奪われた土地や資源を取り戻し人間の世界を再興する。太陽の沈まない白夜のように、ノクスの存在しない世界をつくる。そのために仲間を募っている。克哉も俺もノクス排除のために戦ってきた戦友だ。克哉は今どこで何してる?」
鉄彦「…ははっ」
男「なにを笑う」
鉄彦「なにが、白夜だ。あはは、はははは」
男「なにを笑う!」
鉄彦「叔父さんは死んだよ」
右手のこぶしを握る鉄彦。利き手の、その手首には克哉の腕時計が光っている。
鉄彦「キュリオが…俺が……死なせた…」
男「おまえ…!?」
殺気立つ店内。
 
   × × ×
押さえつけられ、したたかに殴られる鉄彦。が、鉄彦は手を出さない。
男「いい加減なんとか言え!ああ!?」
鉄彦「…ノクスも、キュリオも…同じだ。同じように愚かで…同じ、人間なんだ…!」
と、酒場の扉が音を立てて開く。
森繁の声「鉄彦!」
鉄彦「森繁!」
森繁、店に飛び込んでくる。
男「なんだお前」
森繁「おーっと気をつけて。俺に怪我させたら危ないよ?」
森繁に一瞬ひるむ男たち。その隙をついて、森繁は華麗に舞うように男たちを制し、あっという間に鉄彦を救出する。
森繁「大丈夫か!鉄彦」
鉄彦「うん、超いいタイミング…」
森繁、なかば担ぐように鉄彦を支える。
男「おまえら…」
男2「信じられん。人間とノクスが…」
男「いったい何者だ!?」
森繁「何者って…。名乗るほどのものでもないが、ひとつ、人より賢くて、ふたつ、ふわりと宙を舞い、みっつ、見た目も麗しい、生まれながらの純粋ノクス、森繁富士太!」
鉄彦「(呆気にとられて森繁を見ている)」
森繁「そしてこちらは(と鉄彦を示す)」
鉄彦「おっ!? おう! ひ、ひとーつ、ひ、100%天然モノ! ふたつ、ふ、ふ、ファインティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコーは最高級! みっつ…みっつ……あー、もう! 10歳からお茶一筋の奥寺鉄彦とは俺のことだこのやろ!」
森繁「ノクスとキュリオの最強コンビだぜ!」
男「ふざけやがって、こんのっ…!」
向かってくる男に、森繁、何かをひらりと投げつける。銀色の円盤が宙を舞う。
男「いてっ!!」
森繁「今だ!鉄彦走るぞ!」
鉄彦「おう!」
男「っつー!なっなんだこれ!」
森繁「灰皿だよ(にっこり)」
鉄彦「見りゃわかんだろ!(どや顔)」
ふたり、車に飛び乗り急発進で街を出て行く。

■車内(夜)
鉄彦「あーー怖かった…」
助手席で脱力している鉄彦。
森繁「だめだって言ったのになんであの街に寄ってるんだよ、びっくりしたよ」
鉄彦「だって、すごい雨だったんだって。おまえ寝てて起きてくれないんだもん」
しばらく猛スピードで車を走らせる。

   × × ×
追手が来ないことがわかり、車はスピードを落としている。
殴られて切れたところに絆創膏を貼っている鉄彦。いつになく表情が硬い。
森繁「痛い?」
鉄彦「こんなのたいしたことねえよ」
森繁「大事に至らなくてよかった」
鉄彦「森繁がすぐ来てくれたから。助かった」
森繁「……さっきの人たちに、何か言われた?」
鉄彦「……(腕時計を触っている)」
森繁「……(鉄彦を見つめる)」
 
森繁のモノローグ「俺は以前、鉄彦に『俺はキュリオを守りたいんだ』と言った。そうしたら鉄彦は、ものすごく怒って、歯の根が合わないほど震えていた。泣きそうな顔で俺を見ていた…。もちろん、キュリオの文化を守り残していくべきだって思っているのは本当だ。でも、あの時…俺はこう言うべきだったんだな。『俺は、鉄彦を守りたいんだ』、って」
 
車を止める森繁。
鉄彦「ん?どうしたの?」
森繁「腹減らない?」
鉄彦「おお」
森繁「チョコレートバーとバナナ、どっちにする?」
鉄彦「チョコレートバー!」
森繁「了解(後部座席をごそごそ探す)」
森繁、チョコレートバーのパッケージを鉄彦に渡し、自分はバナナをとる。
鉄彦「うぇぇい(小躍り)」
森繁「おまえ好きだなーそれ。飽きない?」
鉄彦「全然。だってこんなの食ったことなかったし。今まで食べれなかった分、10年分取り戻す!」
森繁「…そっか(微笑む)」
しばし食べているふたり。
鉄彦「白夜党なんてふざけてるよな。でも…やっぱりキュリオとノクスが仲良く暮らしてる街なんてないのかなあ」
森繁「いや、きっとあるよ。現に俺たち仲良く旅してるじゃないか」
鉄彦「うん…」
森繁「あのさあ…変なこと言っていい?」
鉄彦「あぁ? あっ、なに。もしかしてアァーン!系の?アハァン的な話!?」
森繁「違うよ、ばか」
鉄彦「じゃ、なんだよ?」
森繁「なんかこの旅してるうちに、思ったんだけどさ」
鉄彦「うん」
森繁「ノクスとキュリオはもともと1つの生きものだったんじゃないかなって」
鉄彦「え? でも、もともとはキュリオしかいなかったんだろ」
森繁「もちろん、学校でそう教わったよ。だから…そうだな、これは1つのたとえ話だよ。不幸な事件が起きて、人間はキュリオとノクスに分かれてしまった。もう、1つに戻ることはできないかもしれないけど…、俺たちは、お互いの存在が必要なんだ。相手が傷ついたら自分も傷つく。だから…2つの種が共存の道を見つけられたら、その時こそ人類は本当に進化する。俺たちは分かれちゃいけないんだ」
鉄彦「…ああ。そうだな。そうだよな」
間。
森繁「そうだ、白夜党に対抗してなんか名前つけようよ。俺たちの。さっきみたいに名乗るとき、なんか格好つかないじゃん」
鉄彦「名前?」
森繁「そうだよ!ほら、なんかない?」
鉄彦「え?そんなこと急に言われても…えーと、…太陽の党?太陽族?」
森繁「…うーん、そのへんはやめとこうか」
鉄彦「なにがいいんだよ……なんかカッコイイの考えてよ。おまえ物知りだからなんかあるだろ」
森繁「…そうだなあ、あっ、そういえばさ、白夜って英語だとなんていうか知ってる?…って、鉄彦?寝てんの?」
いつの間にか寝息を立てている鉄彦。
森繁「(微笑んで)おやすみ」

   × × ×
再び車を走らせる森繁。
森繁のモノローグ「鉄彦、いつかおまえに言ったことあったな。動物も植物も、風も水も太陽の光の下が一番きれいだって。俺は…、俺が本当に見たいのは…」
森繁、すやすやと助手席で眠る鉄彦を見て、微笑む。
森繁のモノローグ「直接は見れないけど、鉄彦からは昼の世界の匂いがする。太陽の光を浴びた生きものの匂い。…真夜中の、太陽」

森繁「それだけで俺は十分幸せだから。この旅がずっと続けばいいなって、思ってるんだ」
鉄彦「んん?なんか、言った?(がばと起き上がる)」
森繁「(笑い)もう起きたの!? 疲れたんだろ。寝てろよ」
鉄彦「うん、さっきはすごい眠かったんだけど、一瞬落ちたら今度は目がやたらさえて…」
森繁「それ、酒飲みすぎだろ。さっきどんだけ飲んでたんだよ」
鉄彦「えーっと…あんまり覚えてないけど、ウォッカ3本ぐらい?」
森繁「(絶句)……強いんだな」
鉄彦「まあねー。草一さんが作った酒を5歳のころから飲んでたし」
森繁「5歳!?まじかよ」
ふたり笑い合う。
鉄彦「森繁、俺さ。もっといろいろ知りたいよ。いろんなものを見たい」
森繁「ああ。見てまわろうぜ!俺も鉄彦と一緒にいろんなものを見たいよ。あのさ鉄彦、俺、キュリオの名前の由来は、骨董品って意味だけじゃないと思う」
鉄彦「え?」
森繁「キュリオシティ…好奇心って意味も掛けた呼び名なんだよ、きっと。俺たちノクスが、おまえたちのことを羨ましがってつけたんだ」
鉄彦「へええ。…えへへ、へへへへへ」
森繁「なんだよ、にやにや気持ち悪いな」
鉄彦「だったらもうお前も立派なキュリオだな。昼の世界はどんなだって、毎日俺に聞いてばっかりだもんな」
森繁「そっ、それは、鉄彦が話したいかなあって思って聞いてるんだよ」
鉄彦「無理すんなって。そうだ!好奇心でいいじゃん、コンビ名」
森繁「ええ!?趣味悪くない?」
鉄彦「いいだろ、運転手!」
森繁「勘弁してくださいよ社長」
鉄彦「ほら。キュリオとー!」
森繁「ノクスのー!?」
鉄彦・森繁「最強コンビ、こうきしーん!」
森繁「ない!ない(笑)」
鉄彦「ありだ、あり!(笑)」
車内に響くふたりの笑い声。
車がひた走るその道を、天頂で輝く満月が照らしている。

To be continued…



エンディングにはスカパラの「世界地図」を…なんちゃって。歌詞がなんだかとっても太陽2068なんです。(リンクからYouTubeに飛びます。音量注意!)
二次創作といいつつ結局これも感想文なのかも。
ホープフル・モンスター(hopeful monster)。カンブリア期に奇妙な形のおびただしい生物種が登場し、そのほとんどは滅んだが、それらのうちのいくつかは残りメインストリームを形成した…今は奇妙な怪物だけれども、そのうちメインストリームになるかもしれないと希望を抱いている生物を、ホープフル・モンスターと呼ぶのだそうです、と最近知ってあらぴったりとタイトルに。いくらでもバッドエンディングになりうる関係だからこそ、最強に幸せになってほしいふたりです! 

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