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自然法爾のウ・ラ・ガ・ワ(その1)

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人 物

西園寺海(50)(99)元俳優
榊 涼太(50)元学者
女神イシェス(40)死と再生を司る女神

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〇西園寺海の葬儀場前

「西園寺海儀 葬儀会場」の立て看板

〇西園寺海の葬儀場内

豪華な花祭壇。
舞台衣装をまとった華々しい姿の西園寺海(50)の遺影。
弔問客が小グループになって各々集まっている。
弔問客の側に立ち現われては、気付かれないままにも、挨拶を続けている西園寺の幽霊(50)。

西園寺「いや、たっちゃん、忙しいのに来てくれてありがとうね。茂木君も~、いや~ありがとう」

N「百歳間近まで長生きし、大往生のこの男、生前は、皆々に愛された俳優でございました。数々の演技賞を総なめしたにも関わらず、偉ぶるそぶりは微塵も無く、終始、周りを楽しませる事に気を遣う。今日は、惜しまれつつのお別れの場でございます。しかしながら、この男の気遣いの心は、死してなお。最盛期の頃のお姿で、自らの葬式の弔問客に御挨拶をしているのでございます」

別の弔問客のグループにも、挨拶を続けている西園寺の幽霊。

西園寺「いや~松木君じゃないか!あん時は世話になったね、ありがとうねぇ」

〇死者の国・審判の門前

薄暗い空間。「審判の門」と書かれた大きな門。門前に大きな机。
机上に「地獄行き」「幽玄界行き」「天国行き」と書かれた箱。
各々、多くの名札が入っている。
先に死んだ俳優たちA、B、Cがボォっと浮かび上がる。

俳優A「西園寺海が、とうとう死んだらしいぜ。それも大往生で」

俳優B「もうすぐ、こっちにやって来るって」

俳優A「MC抜擢に、大河ドラマ主演に、各種芸術賞の受賞。俺達、同業者として、むちゃんこ羨ましかったよなぁー」

俳優C「確かに。奴は全て上手くいっていた」

俳優A「俺なんかさ、実のところ、なんでアイツだけって思って、悔しくて。いつも枕を濡らしていたんだよ」

俳優B、「天国行き」の箱の中の「西園寺海」の名札を取り出して眺める。

俳優B「そんでまた、死んですぐに天国への道が用意されているなんて、なんだか癪に障るよなぁ」

俳優C「確かに。俺たちは未だに幽玄界を彷徨ってるって言うのに…」

N「どれだけ周りに気遣いしても、順風満帆な人生を歩む後姿に、他人からのやっかみや嫉妬の念はつきものでございます。それは人間の性、致し方無い事なのでございます。幽霊になったからと言って、所詮、元は人間。先に亡くなった俳優たちは、生前抱き続けていた西園寺への暗い情念を、どこかにぶつけたい思いに駆られてしまったのでございましょう・・・」

俳優A「そうだ。ちょっと、意地悪してやろうぜ」

俳優A、俳優Bの手から「西園寺海」の名札を奪うと、「地獄行き」の箱に入れる。
意地悪そうな笑みを浮かべながらスッと消え消え入る俳優A、B、C。

〇西園寺海の葬儀場内

祭壇前に安置された棺の小窓から見える西園寺(99)の顔。
棺の小窓を覗き込む親戚女性陣A、B、Cの顔。

親戚女性A「お爺ちゃん、本当にいい顔してはるわぁ」

親戚女性B「大往生ですものねー」

親戚女性C「ホント良い人で。皆に愛されたから、絶対に天国に行きはるわねぇ」

親戚女性A「そりゃぁ、当然よー」

傍に立ち、一緒に覗き込んで、満足げに頷く西園寺の幽霊(50)。
うっすら笑顔が浮かんだかの様に見える棺の中の西園寺(99)の顔。

〇死者の国・審判の門前

棺の中の西園寺(99)の顔に、ディゾルブで置き換わる西園寺(50)の満足そうな笑顔。
西園寺、背後からの衝撃を受けて我に返り、周囲を見渡す。
死に装束を付けた死者でごった返している。
目の前に「審判の門」と書かれた大きな門。

西園寺「お、ここが死後の世界か~。俺は特に悪い事もしてないし。天国に行けるだろうって皆に言われてるし。天国行きは確実だよな」

感慨深げな西園寺。大勢の死者が向かう門の方へ歩みを進める。

〇西園寺海の葬儀場内

棺の小窓から見える西園寺(99)の顔。
静かに小窓が閉じられていく。

〇死者の国・審判の門前

両側に鬼たち(30)を携え、大魔王(60)が、死者たちを前に振り分けの通達をしている。
西園寺が他の死者数人を前に、通達を受ける順番を待って並んでいる。

大魔王「田坂省吾、未練が残り幽玄界行き」

大魔王「国中過、地獄行き」

大魔王「本田晴香、天国行き」

大魔王に振り分けられ、各々の反応を示して去っていく死者達。
西園寺の番になる。
少し胸を張って大魔王の前に立つ西園寺。

大魔王「西園寺海、地獄行き」

面食らう西園寺。

西園寺「ちょ、ちょっと待ったー!!なんで俺が地獄?」

大魔王「あなたの名札は地獄行きに分類されていますが、何か?」

西園寺「何か?じゃないですよ。おかしいって、ちょっとよく見て?何かの間違いだから」

大魔王、記録帳をペラペラとめくる。

大魔王「…ん?記録によると…子供の頃に蟻地獄に蟻を落としましたね」

西園寺「そんなの、興味本位でみ~んなやってるだろ?全員、地獄行きなのかよ!」

大魔王「…ん~?記録によると、自分の腕に止まって血を吸っていた蚊を叩き潰して、カマキリに食べさせましたね」

西園寺「それもね、地獄行き案件なの?ね、田舎育ちの子供の半分以上がやってるよ?」

大魔王、記録帳をペラペラとめくる。

大魔王「食事の時に目を瞑って食べ、同席者を不快にした」

西園寺「…って、それ、個人の意見だから!良いところ無いの?良いところ!よく調べてよぉ」

大魔王、記録帳をペラペラとめくる。

大魔王「ジャングル旅行の際、重そうにしている仲間の荷物を代わりに持って歩いた」

大魔王、記録帳をペラペラとめくる。

大魔王「大金をかけて芸能界の仲間にマグロという高級食材を差し入れた」

西園寺、思い出して、若干怒りの表情。

西園寺「あれは、無理やり…。にしても、ね?俺が地獄っておかしいでしょ?」

大魔王「…んー」

西園寺「お、か、し、い、って!」

大魔王「…そうですね。確かに、変ですねー」

西園寺「そうでしょぉー?はやく天国行きに変えて下さいよ」

大魔王「…そう簡単には、無理」

西園寺「どゆこと?どゆこと?そっちの間違いでしょ?」

大魔王「…むずかしい」

西園寺「え?え?ちょっと待って。むずかしいってどゆこと?」

大魔王「地獄行きの悪人たちは、皆同じ主張をするから、地獄行き決定後にそれを覆すのは、ひじょ~うにむずかしいの。うん」

西園寺「いやいやいやいや、だから、それをどうにかするのがあんたの役目でしょう?」

大魔王、伏し目がちに静かに首を振る。
大魔王、両側の鬼たちに合図する。
屈強な鬼たちに無理やり担ぎ上げられて連れていかれる西園寺。

西園寺「おい!なんなんだコレは!おい!」

〇死者の国・地獄行き小道の前

「地獄行き」の表示がある小道の入口。
途方に暮れて岩に腰かけている西園寺。
西園寺、大きく溜息をついて、

西園寺「いや〜参った。困ったなー」

西園寺の前を考え事をしながら、足早に通り過ぎようとする榊涼太(50)。
榊に気付く西園寺。

西園寺「あ!ちょ、ちょっとアンタ!」

榊、そのまま歩いていく。

西園寺「おぃ!アンタだよ、アンタ」

榊、訝しそうに西園寺を振り返り、

榊「僕?」

西園寺「そう、ボク」

榊、西園寺をマジマジと見つめた後に、無視して歩き出そうとする。

西園寺「ちょ、ちょっと待ってって!」

榊、立ち止まり、早口で、

榊「僕は貴方の事を知らない。恐らく生前に一度だって会った事はない。なぜならそんな特徴的なモジャ頭は一度あったら忘れられないはずだからだ。なのに、なぜ、唐突に呼ばれ、見ず知らずの貴方のつまらない話を聞くために足を止めないといけないのか。僕は忙しいんだ。理不尽だろう」

榊、歩みを進める。
西園寺、あまりの勢いにポカンとして榊の後ろ姿を見ている。
西園寺、ハッと我にかえり、

西園寺「さりげなく人の頭のことをディスったな、アイツ。初対面で酷い奴だな」

西園寺、榊の背中に向かって、大声で

西園寺「アンタだってねぇ人の事言えないよ。なんだよその七三分けのにやけ顔は」

榊、いきなり踵を返して早足で歩いて来て、西園寺に顔を近づけ、

榊「七三分けはまだ許す。だけどにやけ顔だけは言うな!」

西園寺「あ、ごめんごめん。それだけは言われたくなかったんだね。にやけ顔君」

西園寺、飄々として鼻歌を歌っている。
榊、顔を真っ赤にして唸る。

榊「バカにしてんのか、おい!」

榊、西園寺の胸ぐらを掴み、取っ組み合いの喧嘩になりかける。
突然眩しい光で、周りが見えなくなる。
眩しすぎて喧嘩の手を止め、目を覆う榊と西園寺。

光が収まり、目を開ける榊と西園寺。
白い布を纏い、翼を持った、セクシー美女の女神(40)が岩の上に居る。

西園寺「えっと・・・?女神・・・さま・・・かな?」

見惚れる榊と西園寺。

女神「いやらしい目で見てんじゃないわよ!モジャ頭とにやけ顔!」

二人顔を見合わせてから、女神に文句を言おうとする。

西園寺、榊「なんであんたにそんなこ…」

女神「貴方達、こんな中途半端な場所で何してくれてんのよ!『冥界の警報が鳴りっぱなしだから見て来い』って言われたじゃん!折角気持ちよく昼寝してて、夢ン中で美味しい桃にかぶりつく瞬間だったのに!」

榊、西園寺「知るか!そんなの!!」

女神「女神である私に向かって!なんって偉そうな口を!忌ま忌ましい!」

女神、ジロリと西園寺と榊を睨むが、うっすらと不気味な笑みに変わり、

女神「西園寺海と榊涼太。君たち、此処から出られなくて困ってるんでしょう?」

西園寺、ハッと我に返り、

西園寺「あ、そうなんです。実は…」

事情を話そうと女神に近づく西園寺を、ぶっ飛ばして女神に駆け寄る榊。
榊、半泣きになって、

榊「そうなんです!僕、ずっとずーっと此処に閉じ込められてて。抜けられる方法を知っているなら教えてください、女神様!」

女神「んふふ。知っていない訳ではないな〜。何しろ、私は、め・が・み・ですからぁ~」

榊と西園寺、必死に女神に縋り付く。

西園寺「それを是非!」

榊「教えてください!」


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