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天使のささやきって?

研究所の天使


はるか昔に大学の薬学部を卒業した私は、大学院で二年間研究業務に従事し、その後 製薬会社の研究所に勤務しました。
そのころの私は、自分はこの先もずっと研究職であり続けるのだろうと思っていました。

研究職というと、発想が大事!というイメージをを持っている方も少なくないようです。
確かに 物事を発展させるためには ときには新たな発想が必要!
そのためには、何もないところから突然何かを思いつく、ということも、時には必要かもしれません。
が、ほとんどの場合、研究機関でそんなひらめきに出会うことはありません。
私が記憶する限り、研究が発展するきっかけは、ほんのちょっとの疑問です。
今まで何の疑いも持たず、これが当たり前とスルーしていたところに、不意に「あれ?」と小さな疑問が生じる。
たとえば、実験結果について2、3人でディスカッションしているときに、誰かが ふと、
「ちょっと待って?」
と疑問の声を上げる。
その声は必ずしも大きくはありません。
その疑問も、そんなに大きなものとは限りません。
でも、その疑問を拾い上げると、そこから研究は思わぬ広がりを見せることがあります。
このとき、最初に発せられた
「ちょっと待って?」
これが “天使のささやき” 。

ささやきは気まぐれ


天使のささやきをしっかり聞いたときに、意外な発展が待っていることがあります。
世の中にセンセーショナルに登場する大発見も、最初はこんな小さなささやきから始まることが殆どです。

そして、その疑問が本当に “天使のささやき” かどうかは、進めてみないと分かりません。ささやきのすべてが天使のものである保証はなく、むしろ、たまたま 様々な事象が組み合わさって、ちょっと不思議な現象が見えただけ、という方がはるかによくあります。

天使のささやきは、実に気まぐれ。
いいえ、天使が気まぐれなのではなく、楽をしたい人間が期待しすぎなだけです。

ささやきが聞き入れてもらえないとき


ときには、若手研究者の素朴な疑問が、その場では取り上げてもらえないこともあります。
それは別に、先輩研究者たちが意地悪をしているわけではありません。

研究は常に、目的を持って進められています。
途中で誰かが気になることを見つけても、それが その研究では常にみられる現象であれば、そのときにはその疑問に時間を割くわけにはいかないからです。
「あなたが疑問を持ったのは分かったが、今は寄り道はできないよ」
という意味で、若手研究者の疑問は、その場では保留になるでしょう。

では、その疑問はその後どうなるでしょうか。
本来の研究がひと段落したら、できるだけ早く その疑問に取り組んで解消すると良いですね。
その疑問は、とるに足らない決着を見るかもしれませんが、もしかしたら とてつもなく大きく発展する “天使のささやき” なのかもしれません。

天使の居場所


ささやく天使の居場所は、研究室だけとは限りません。むしろ天使は いたるところに潜んでいます。
研究職に従事していた時も、そこを離れた今も、私は日々、何度となく 天使にささやかれているのだと思います。
そして、殆どのささやきには気づけていないのでしょう。

けれども、お客様とお話していると、研究職時代と同じように
「ちょっと待って?!」と思うことがあります。
それを放置せずに、丁寧にほぐしていくと、お客様の抱える複雑なトラブルの改善の糸口が見えてくることもあります。
その作業が上手く進んで、ずっとうつむいていたお客様が 明るい表情を見せてくださるとき、私は、大昔に培った研究職気質に ひそかに感謝して、自己満足しています。

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