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056-online

 オハヨウゴザイマ-ス……
 ヤハリ 早朝ハ ダレモ イマセンネ……
 とまあ、いくらささやき気分でもチャットにはログが残ってしまうので、実際は無言。
 わたしはいま、あいも変わらずよそ様のお宅に忍び込んでいる。
 いつもは入り口に置いてある“カギの木”にお水をあげて早早に退散するのだけれど、きょうはじっくりお店の様子を見学させてもらおうと思っている。
 ここは東雲にある四季舞さんのお店“Cafe&Bar Brilliant”。
 四季舞さんは、わたしの初イベント参加者の一人。
 参加してくれた方たちとは主催としての事務的なメッセージを交わすことになるけれど、半分くらいの方たちとはそれを超えた内容のメッセージのやり取りに発展することがある。
 毎日のカギの木の水やりや、お互いの自宅の掲示板にメッセージを残しあったりもしている。
 なかでも先日sophiaさんのお店でようやく初対面となった藤崎ゆめなさんと、Brilliantのオーナーである四季舞さんは人柄の良さが飛び抜けていて、「いやもう会っちゃいなよ」ってくらい頻繁にメッセージの交流を続けさせていただいていた。
 で、やっぱりというかさすがというかなんというか、松乃さんはBrilliantの常連であるらしく、当然の流れとしてSNS上で『ようりさん、こんど四季舞さんのお店いこうよ』となり、『あら、ぜひいらしてー 歓迎するわー (^_-)-☆』ってなった。
 それで人気のない時間帯に、こうして下調べで忍び込んでいるって流れ。
 だれもいないホールはしんとしている。
 もっともわたしのプレイスタイルはいつもミュート。たとえフロアに音楽が流れていても音はないのだけど、実際奥の大画面TVにはオリジナルのMVが映し出されているから、きっとこのお店にお似合いの音楽が流れているに違いない。
 中央にはグランドピアノ。
 そして壁の2面は巨大水槽が壁に見立てられていて、一方の水槽にはシロナガスクジラが優雅に泳いでいる。
 これ、MMやっていない人には通じないだろうな。バーの水槽にクジラて。しかもシロナガスて。
 とりわけわたしの目を引いたのは、サンゴと2隻の沈没船だけの、まったく動きのないもう一方の水槽だった。
 ふたつの“お城のドア枠”で縁取りされたその埋め込み水槽の前には水色のスツールがふたつ、パートナーと片寄せあって座れるようにセッティングしてある。
 店内全体の統一感といい、色使いといい、なんてセンスだろう。
 ようりの中のわたしは、ため息ともつかない「わあ」というような声をあげてしまった。
 わたしは忍び込んでいることも忘れて、スツールに座らせたようりのうしろ姿越しに水槽を眺めていた。

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