053-“MM-Farm Oath”

【同日 MMファームの誓い】
　なんて伝えよう。
　わたしこそごめん。あのとき力になれなくて……
　わたしこそありがとう。戻ってきてくれて……
　ずいぶんな自信家！
　なんという思い上がり！
　わたしになにかできたと？
　わたしのために戻ってきてくれたと？
　言いあぐねて、フキダシをブルーとオレンジに点滅させてしまった。そのあげくに沈黙に耐えかねて、自分でもよくわからないことを口走る。
「いあ、なんかわたしはいつもアレだしｗ よけいなことしいだしｗ そのくせ肝心なことはできなくて　謝ったりお礼したりしなくちゃいけないのはいつもわたしだから＾＾」
　ほんのすこしだけ長めの沈黙があった。
「いあいあｗ」
　松乃さんはそう短く言い、さらに長めの間が空いたあと、なにかに気づいたように続けた。「あーｗ もしかしてようりさんあれかな？」
「うん？」
「なるなるｗ だいたいわかたｗｗｗ ようりさんらしいｗｗｗ」
「なになにｗ」
「なに考えてるかわかるけどさー お礼を言われるようなことしてるんだよ、ようりさんは。ようりさんだって私がなにかするとお礼言うでしょｗ」
「うむ」
「なにかしてもらったり、してあげたりって繋がってるじゃん。してあげてよかったと思える人じゃないと繋がらない。続かない。私もようりさんにそう思われてるって思ってるし」
　何気ないけれど、とびきりうれしいことばだ。
「うんうん」
「だからさー ようりさんすぐ考えすぎてぐるぐるするけど、ありがとー どーいたしましてー でいいんじゃない？ 呼吸するみたいに」
「呼吸するみたいに？＠＠」
「そそｗｗｗ」
「すってー……」
「ありがとー＾＾」
「はいてー……」
「どーいたしまして＾＾」
「ｗｗｗ」
「ｗｗｗ」
　ひとしきり笑いあったあと、思い出したように松乃さんは続ける。
「付き合いが多くなるとさ、いろいろ面倒なことが多くなるｗ 実際」
　やはりブログでの震災にまつわる発言で、人知れず巻き起こった“小火”のことを言っているのだろうか。
　もちろん、わたしが“そちら側”の考えだと思われたのならそれは本意ではない。もしそうなら誤解を解きたい。
　松乃さんは心配をかけたと思う人に「ごめん」と言えるひとだ。
　心配してくれたと思う人に「ありがとう」と言えるひとだ。
　そしてなにか思い悩んでいる人を心配し、心情を察しようとしてくれるひとだ。
　わたしも真摯にそうありたいと思う。
「あのさ、松乃さん」
「なにー？」
「わたし、いつもミュートじゃない？」
「うんうん」
「もしかして、TELに出られてなかったりするかもだけど、ごめんね」
　松乃さんから返答がなかったので続けた。「メッセならいつも目を通してるから。ぜったい気づかないことないから」
「あーｗｗｗ なりほどわかった　そっちかｗｗｗ」
　松乃さんは面白がるように言った。「いやいや　わはは。　さっきも言ったけど付き合い多いと面倒多くなってさ。ときどきわーってなるｗｗｗ そんなときはＭＭからちょっと離れるようにしてるのよ ようりさんのせいじゃないよ。ちゃんとわかってるから＾＾」
「うん」
　なんとなく通じたような。通じていないような。
　でもこれ以上は深掘りすまい。
　わたしは過去面倒事に巻き込まれて“転生”するはめになったせいで、ようりで活動を始めるにあたっては、いわゆる“晒し板”にアンテナを張るようになっていた。
　素行の悪い（特に女性プレイヤーなら接触を避けたいような）プレイヤーは“罪状”とともに逐次晒されているからありがたい。
　もちろん、“晒し板”は妬み嫉み、誹謗中傷と陥穽の掘り合いで満ち溢れている一面もあって、情報の真偽は定かではないけれど、誰の周辺で火種がくすぶっているかは確実に知ることができた。
　だから晒し上げられているプレイヤーが誹謗中傷どおりの腹黒であるか、悪い噂に信憑性のない人格者であるかはあまり関係がない。
　そうやって知ることで、四方八方から見えない弾丸で狙われているプレイヤーにうっかり近づいてしまい、射線上に立って流れ弾を受けるような真似を防ぐことができるのだ。
　そんな“晒し板”に松乃さんが晒されていたことがある。
　なんとなくだけれど、それは松乃さんの言う“いろいろ面倒なこと”の発露のような気がする。だから、いまは深掘りはしない。
　松乃さんだけではなく、わたしの数少ないフレンドにも数名晒されている人がいる。
　これからお友達になりたいプレイヤーにも、名前が挙がっている人がいる。
　もちろんわたしは晒されているフレンドともお付き合いを続けるし、晒されているプレイヤーでもフレンドになりたいと思った人とはフレンドになるつもり。
　自分がフレになりたいと思った人たちだし、そんなわたしを受け入れてフレになってくれた人たちだから“晒し板”の怨嗟や呪詛などわたしには関係ない。
……あれ？ 気づいたらアンテナを張っている意味、いつのまにかあまりなくなっているな。