004-online

「ハイドくん、ヘリちゃ ばんちゃ」
 私が呼びかけると、大きなラッコの着ぐるみとそのとなりのペンギンの着ぐるみが応じた。
「ようりさん、こん^^」
 ラッコの着ぐるみ“はいどろげん”が私の友人。オンラインではハイドくんと呼んでいる。
 ペンギンの着ぐるみは“へりうむ”。メンバーからはヘリちゃと呼ばれていて私もそれに倣っている。ヘリの中の人はハイドのパートナーで、もちろん私も面識があった。
 ハイドは特定の場所で稀に釣り上げることができるらしいこのレアなラッコの着ぐるみを、自分で釣ったと言っていた。始めてせいぜいが2か月だというのに相当な強運だ。
 ラッコが言った。
「“聡”はもうインしないの?」
 聡というのは、私の本来のマイキャラのことだ。私の妻もMMのユーザーで、私と妻はそれぞれマイキャラを持っている。それが“聡”と“ようり”だった。
 わざわざ強調するようなダブルクォーテーションマークが、私が初日以外ようりで会いにきていることの説明を求めている。
 芝居がかったしぐさを好む彼のエアクォーツの手振りが目に見えるようだ。
「聡はいま別のことで時間使ってるから、落ち着くまでしばらくインしないと思う。ちょっといい?」
 私はハイドを促して集団からすこし離れた場所に移動した。
「なんだよ」
 ハイドがいぶかしむ。
「いや、やっぱSkype飛ばすわ」
 おおっぴらにすることではないと集団から距離をとったのだが、考えたらSkypeを飛ばせば良いのだ。Skypeにはついさっきの会話の履歴が表示されたままだった。

はいどろげん:
 今日ひま?
聡:
 飯食ったらすこし
はいどろげん:
 盆踊りこいよ
聡:
 おう
はいどろげん:
 おk 朝礼台で踊ってるw

 私はその履歴に続けて打った。

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