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パラレルワールドの俺はヤれたのか

「お待たせ~、遅れちゃってごめんね」

待ち合わせ場所で久しぶりに会った友達は、昔のままの笑顔で駆け寄ってきた

「頼みたい仕事って何?私で大丈夫なの?」

「大丈夫、すぐ終わるやつだから」

首をかしげる女を横目に、冬の寒さに手をかじかませながらイヤホンをしまい、そう答えた

「すぐ終わるって何それ?もしかしてあれじゃないよね?AVの撮影とかじゃないよね?」

こんな冗談いうヤツだったっけ、と戸惑いながらもけして表情には出さず言い返す

「よくわかったじゃん、そうだよ、今近くに撮影隊またせてっから」

「何言ってんのも~、ほんとはなんなの?」

お前が言い出したんだろ、とは言わずにしょうもない頼み事をお願いし、手伝ってもらった






「これでいいの?」

「オッケー大丈夫!あざす!」

カラオケでお願いを終えて会計を済ませる、外に出ると彼女が手を差し出してきた

「はい、これアメ、レジに置いてあったから貰ってきちゃった」

飴を舐めながら話す彼女は、はにかみながらこっちを見つめてきた

「お、ありがと、そうだ、今からメシ行ける?今日のギャラで奢るよ」

「いいの!?行こ!」

「俺この辺詳しくないから飯屋とか飲み屋あるとこ教えてよ」

「んー、まぁあっちの通りにいっぱいあるからそっち行こっか」

二人で話しながら歩く、最近のこと、友人のこと、仕事のこと、話すことなんていくらでもあるが、話が盛り上がりきるには道中は短く、飲み屋のならびについた

「この通りにいっぱい居酒屋あるよ」

よくみるような居酒屋ロード、週末はにぎやかでざわめいている

「こんな通りあったんだ、たくさんあってどこ行きゃいいかわかんねぇな、なんか食いたいものある?」

「なんだろ、なんでもいいよ」

「まぁ適当に探すか」

そう言って歩き始めると同時に彼女が口を開いた

「ここからずらーっと居酒屋があって、奥のかど曲がるとラブホ街になってんだよね」






もしかして俺、今、試されてる?




その一瞬で脳みそがフル回転、この返事に全てがかかってる、冷静に焦れ、時間はかけるな、マジだと思われる、いやマジなんだけど、だけども余裕に、人生の最後の一瞬に走馬灯を見るように思考を巡らす、0.1秒でベストを考える暇はなかったけど、俺の口から出たのは




「じゃあラブホにすっか」

こんな答えで精一杯だった





「行かないよー、なーに言ってんのー?」






もっといい答えはあったのか、居酒屋のあとで「もう一軒行こうぜ」と言ってラブホ街に歩いて「あれ、なんかお城みたいなとこある!?何あれ、せっかくだから観光して行こうぜ」とでも言うべきだったのか、それとも最初に「ごめん今いきなり右眼見えなくなって鼻呼吸出来なくなっておなか痛くなって左足骨折したからちょっと休も!休んだら全部治るから!ちょっと休んだら全部よくなるから!ね!」とでも言うべきだったのか、終電がなくなるまで飲むべきだったのか、次の日朝から予定があって帰ることを選択した俺にはわからない、いや帰らないべきだったのか?

違う選択をしたパラレルワールドの俺はヤれたのか?

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