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それでも母はお菓子を作る

スイートポテトパイを作った。
それも、紫芋を使って。

作っているわたしの周りをうろちょろしては、娘が手元を覗き込む。
「すごい色!」
「あ!クックルンでやってたやつ!」
「お腹すいたー」
「ちょっとだけ、味見したいなぁ」
料理に興味があるようなのでお手伝いを頼むと、折り紙が途中だとかでなかなか来ない。そのうち、パイ生地が柔らかくなりすぎるので、結局わたしがほとんど仕上げてしまう。

そんな娘の口に、残った紫芋のあんをちょっと入れてあげると、
「おいしーー!!」
その声に反応した息子も寄ってきて、彼ももれなくつまみ食いをする。


なんて、微笑ましいのだけど、なぜか我が家の手作りお菓子は人気がない。
味見まではとっても喜んでくれるのに、完成すると夫とわたししか食べない。子どもたちは、ちょっとつまんで、手が伸びない。
そもそも我が子たちは和菓子派らしく、洋菓子はあまり食べてないので、せっかく作ったのを食べてくれないことは諦めた。


それでも、月に一回くらいはお菓子を手作りする。
それは、わたしのため。

趣味というほどでもないけれど、キッチンに立つことが気分転換になる。
ジャムを煮たり、スコーンを焼いたり、スパイスを炒めてカレーを作ったり。

お鍋やボール、フライパンにオーブン。調理器具の中で形を変えて、だんだん新しいおいしいものになっていく。それを眺めているのは、だいぶ幸福な時間だ。

だから作る。

育児をしていると、最初から最後まで手を止めずに何か達成するのはとても難しい。
洗濯機を開けると娘が髪を結んでと言ってきて、掃除機を出せば息子が絡みついてきて、着替えようとすると喧嘩が始まる。
そんなふうにしていると、何をしかけていたのか分からなくなって、キャパが足りないものだからなにかしら失敗したりする。なんだか何一つスッキリ片付かない気がする。

その点、料理ははっきりと完成があるからいい。自分が一つ達成したことが、目に見える成果としてわかる。
それに、休日のお菓子作りなら尚更、夫という戦友に子どもを任せて、自分は戦力外で作業ができる。

食べてもらえないお菓子作りは、それでもわたしにとっては、自分が満足にひとつの事へ没頭できる貴重な時間なのだ。

そりゃ、食べてくれたらうれしいけどね。


こういう時は、私たち夫婦の愛するネスプレッソでカフェラテを作り、唯一、わたしのお菓子を喜んでくれる夫と、3時を共有する。
わたしのお菓子はいつも甘さ控えめなので、ミルクたっぷりのカフェラテがちょうどいい。

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