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WTO農業交渉が本格化

世界貿易機関(WTO)の農業交渉が本格化してきました。2001年のドーハラウンド開始以降、農業ではほとんど成果が出ていませんが、2024年2月に開かれる第13回WTO閣僚会議(MC13)で「目に見える進展」を目指すということです。日本は多くの補助金や関税によって農業を手厚く保護しているため、農業交渉では守勢に立たされます。WTOでの議論を踏まえ、日本は一段の農業改革を迫られる可能性が出てきました。

WTOの発表によると、農業委員会は2023年10月2~3日の会合で、MC13に向け、食料安全保障の強化や、補助金といった国内助成を主要テーマとして議論していくことを確認しました。MC13は、2024年2月26~29日にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれます。

農業委員会のアルパスラン・アカルソイ(Alparslan Acarsoy)議長(トルコ)は、20以上の加盟国やグループと協議を行ったとして、10月3日にその結果をリポートをまとめました。それにょると、ロシアによるウクライナ侵攻後の食料価格の急騰などを受け、ほとんど全てのメンバーが食料安保をMC13の中心議題とすべきだとの考えを表明しました。

一方で、議論はもっと多岐にわたるべきとの考えを示したメンバーもおり、何をどこまで議論するかについては意見の隔たりも大きかったようです。食料安保の強化に向けて輸出規制を抑制するといった狭い範囲での議論を望むメンバーもあれば、インドのコメなどを対象とした公的備蓄(PSH)や、途上国の特別セーフガード措置(SSM)、国内助成、関税などの市場アクセスといった幅広い分野での議論を求めるメンバーもいたということです。

交渉の様子=WTOウェブサイトより

その上で、同議長は「われわれの目的は、食料安保を確保すると同時に、交渉を再び活性化し、目に見える進展を実現するプロセスを開始することだ」との考えを表明しました。2017年12月にブエノスアイレスで開かれた第11回閣僚会議(MC11)や2022年6月にジュネーブで開かれた第12回閣僚会議(MC12)では「農業分野で成果を出せなかった」と振り返り、「MC13では実質的な成果を出そう」と呼び掛けました。

日本の農林水産省の資料によると、1986~93年のウルグアイラウンド交渉を経て、農業協定を含むWTO協定が1995年に発効しました。この協定に基づき、農業交渉は2000年に始まり、2001年以降はドーハラウンド交渉の一部として議論されてきました。2008年には国内助成の削減ルール(モダリティ)合意の直前まで議論は進みましたが、インドなど新興国の反発を受けて交渉は決裂し、その後は漂流状態が続いていました。

ただ、閣僚会議はほぼ2年に1回のペースで行われてきました。前回のMC12は、新型コロナウイルス禍の影響で2回延期され、4年半ぶりの開催となりましたが、漁業補助金の削減で部分合意が得られたほか、食料安保の不安への緊急対応に関する閣僚宣言が取りまとめられました。この閣僚宣言は、ウクライナ紛争後に農産物貿易が混乱し、食料価格が高騰したことを踏まえ、WTOルールに基づかない輸出規制を行わないことが盛り込まれました。ルール違反は行わないという、いわば当たり前のことを再確認したに過ぎません。

オーストラリアなど農産物輸出国でつくるケアンズグループは国内助成の削減を求めたほか、インドを念頭に置いた公共備蓄(PSH)の扱いも議論されましたが、対立が大きく合意が得られず、先送りされました。今後のスケジュールを定めた作業計画すらまとめることができませんでした。農業保護国として交渉では防戦に立たされる日本にとっては、何も決まらなくて良かったというのが本音かもしれません。

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