自分を痛めつけるということ
突飛な心理療法を行う海外ドキュメンタリー映画を見ていると、私がかねてより是非やりたいと願っていた行為が再現されていた。
土に埋められて死ぬ体験だ。
映画では親子関係の悩みを持つクライエントの中年男性が、セラピストの老人から「死の体験が必要」と判断される。
男性は裸に剥かれ、荒野に掘られた大きな穴に埋められ、顔に透明な洗面器のようなものを被せられる。
そして胸元に生肉を置かれ、肉に誘われた大量の野鳥が寄って集って目の前で肉を喰う。
男性は自分が鳥葬される様子を冷たい土の中から見る。
めちゃくちゃ羨ましかった。
映画館で観たので巻き戻しできなかったが、何回も見たいシーンだ。
複数の大きな鳥に襲われるのは輪姦欲求がある人にも刺さるのでは。
死の体験に加えて輪姦体験も提供するとは、さすがプロは期待以上の仕事をする。
後に土から掘り出された男性は牛乳のような白い液体を全身に浴びせられ、父親の顔写真を貼った風船を空に飛ばしていた。
液体と土に塗れた裸姿なのに澄んだ綺麗な目で「前向きに生きられそうです」みたいなことを言っていた。
そりゃ爽やかでしょうよ!羨ましいわ!
同意される方は少ないかもしれないが、私は疲れきったりとても悲しいことがあると、理不尽な暴力にさらされてボロ雑巾のようになりたい気持ちになる。
空っぽになって何も考えられない状態になれたら楽だろうなと思い始める。
オンとオフが激しいのかもしれない。
人前スイッチがオンの状態では人畜無害な社会性のある人間として振る舞えるが、充電が切れて人前スイッチがオフになると途端に何もできなくなる。
充電0%になると、今すぐ人前スイッチを入れるために無理やり充電したいのに急速充電機能がないので、スイッチ自体を暴力で壊すような方法を取りたくなる。
それは自分ではできないから他人の力を使ってやる。
それが私にとってのSMだった。
「マゾに目覚めたのはいつですか?」という質問を頻繁に受けるが、今思えば実際にSMを始めたきっかけは離婚だった。
何故か急に「縛られなくてはいけない」との衝動が起こり、縛ってくれる場所と人を探し始めた。
離婚当時は縛られ欲の理由がよくわかっていなかったが、今考えると、転職したばかりで新しい仕事を覚えなくてはならないプレッシャー、実家は頼れない、留守番が増えた犬がかわいそう、引っ越しで金がない、などの要因を自己責任として処理することに精一杯で、その時にできうる人前スイッチを保つ方法として選んだのがSMだったのかもしれない。
本当は死にたいけど死ねない代替手段として、死ぬ体験ができるSMを必要としていたのかもしれない。
そして死にそうな自分を見て
「たしかに痛めつけられている、よしよし」と確認するために写真も必要だった。
私は他人を使った自死体験を繰り返すことで自分を癒していたが、人によって方法は様々だと思う。
山に昇ったり宗教に頼ったり、アルコールや薬物に行く人もいるかもしれない。
SMでお世話になったアングラ界隈の方々のおかげで、かなり気持ちが落ち着いてきた。
落ち着いたことにより、自分を痛めつける以外の方法を探したくなった。
空腹時に甘いものを食べると血糖値が急上昇してその後の空腹感が激しくなるように、簡易的に満たすのは得策ではないかもしれないと思い始めた。
今は電池が0%になる前に、20%以下になったら他の人から充電させてもらったり、早めにひきこもることで最終手段のスイッチ破壊欲をコントロールしようと試みている。
スイッチオンは100%完璧、スイッチオフは100%死の二極化ではなく、中間でやれるようにしていきたい。
実は先日募集した給水スタッフさんが無事に見つかり、大変助けられている。
「家に生ハムの原木があると仕事で何かあっても強気でいられる」というツイートがバズったように
「わたしには満たしてくれる存在がいるんですよ」と思えると自暴自棄が抑えられる。
彼のことはまだよく知らないけれど、とてもありがたく必要な存在だ。
もしスイッチを暴力で破壊しないとオンにできないような気持ちの人がいたら、こころの充電が切れているのかもしれない。
充電が切れるのは誰にでも起こることなので、自分が悪いわけではない。
そして急速充電機能はないしスイッチを破壊するのも得策ではないので、休めるなら活動をストップして自分をいい子いい子しまくるとよいと思う。
もし周囲に信頼できる人がいれば、疲れてしまったことを伝えるとだいぶ楽になれる。
休んでられないし信頼できる人もいない場合はプロのカウンセラーに頼んで心理療法を受けるのも手だ。
日本では精神疾患の診断と直結するイメージがあるのか敬遠されがちな心理療法だが、すぐ精神科にまわされるわけではないので、気軽に相談していいと思う。
臨床心理士のいるカウンセリングセンターなどに相談してみると、話を聞いてもらうだけですっきりする場合もある。
向こうは話を聞くプロなのでどんな話題でもぶつけてOKだ。
そしてクライエントを土に埋めるカウンセラーは恐らく日本にはいないので安心して欲しい。
自分を痛めつける以外の充電方法を見つけて生きのびていきたい。
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