富士山

富士山。

それは日本最高峰の山であり、その堂々たる風貌は神秘そのものである。



僕は大学生三年生の夏、赤坂のウィークリーマンションで暮らしていた。
就職活動の一環で、某テレビ局での二週間のインターンシップに参加していたのだ。

インターンシップといえども、そこは流石にテレビ局。
千人弱の応募者の中から二十五人の参加者が選ばれ、僕はそこに入ることができた。

初の顔合わせの日。
自己紹介をしていくと、僕以外は東京の有名大学の出身者ばかりで関西からの合格者は僕一人だった。

若い僕には劣等感よりも、優越感の方が勝っていた。
学歴や大学のネームヴァリューではなく、実力だけでここに立っているのは自分だけだ、という自負が芽生えたからだ。

学歴の事を気にしてるのは自分だけなんてことには、もちろん気付かずに。


そこからは人気番組のAD体験。

時には渋谷の人混みに揉まれ。
時には殺伐とした空気の会議に参加し。
時には余った高級弁当を食べ。

憧れの芸能人やテレビ局の景色に頭がクラクラしながらも、激動の二週間に与えられた仕事をなんとかこなした。


最終日。
人事の方が学生のために簡易的な打ち上げを開催してくれた。

楽しく刺激的な体験だと思っていたが、終わってみると開放感に包まれた。
所詮、二十そこそこの子供。
四六時中、気を張り詰めて生活していた事に、終わってから気付いた。

この頃には劣等感や優越感のような俗な感情は消え去り、同じ二週間を共有した仲間意識と充実感でいっぱいだった。


その後、大阪まで帰る深夜バスまでの時間、幹事の学生が二次会を手配してくれた。
すこし、いやらしいパーマを当てているが、とても品があり、高身長の慶應義塾大学在学の幹事だ。

六本木のチェーンの安居酒屋の座敷で、学生らしく未来を語り合った。傲慢に、一抹の疑いも無く語り合った。






次に気が付くと見知らぬ景色。

酒に酔い、深夜バスの時間を逃し、六本木の路上で寝てしまっていた。



パソコンとデジカメが無くなっていた。
道を歩くエリートサラリーマンに白い目で見られた。
ケバケバしいカップルに嘲笑された。

僕は頭痛と吐き気の中、自腹で新幹線に乗り大阪まで帰る。

道中の車窓から映る富士山は、東京に来た時よりも、どこか雄大に見えた。

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