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甘い蜜の部屋

TV版ルート『銃口、その後。』の続きです。ミサトと加持くんが、再会して初めて一緒に夜を過ごした話、すなわちターミナルドグマで銃を向けたあの日の夜のお話になります。

triangler と 恋人の定義 も再会後、二人が初めて一緒に夜過ごした日の話ですが、新劇場版準拠なので別ルートということで(ややこしや…)

わたしはTV版ミサトと加持くんは、第弐十話までえちちなかった派ですが、第拾六話から分岐させてしまいました。

いつものことですが、えちちシーンはカットしてます。
(多分発行予定の『triangler』に収録するかも…チキンでごめんね)

きっかけはその言葉だった。

「俺の家に来る?」

定時後、食事に誘おうと、ミサトの執務室に訪れた加持は、カフェバーから飲み屋、食事処、レストラン自分が用意していた、あらゆる場所を全て断られ、苦し紛れに出た場所は自分の家で。

いつもなら、顔を真っ赤にして怒るはずの彼女が、少し俯き、しばし真剣な顔で一呼吸置き、口を開いた。

「加持くんの家なら…行ってもいい」

半分、冗談のつもりだった言葉に素直に従われて、加持の方が戸惑いの表情を見せた。しかし、すぐに真顔になる。

「…いいけど」
「俺の家は…恐らく監視が付いてるけど」

「それはわたしも一緒よ」
「…わたしは平気」

恐らく、加持もミサトも、今日は同じ時間を少しでも多く共有したかった。
別れてから八年振りに二人揃って日本にいる。それからいろいろなことがあった。不意打ちの口づけ、仕事での協力、チルドレンとの対峙、結婚式の夜の告白、今朝のターミナルドグマでの出来事、そして、決定的になった、互いの立場の違いの認識。

二人を隔てるものは沢山ある。
それでも、加持はミサトの側にいることを望んだし、ミサトは加持の手を離すことが出来なかった。

それに、自分の境遇を思えば、監視なんてどうでもいい。
二人は違う立場で、同じことを思っていた。ただ加持は、彼女もそう思っていたと知り、驚く。

「そりゃ大胆だな」
「今日は君を簡単には帰せないけど」

ミサトも、療養所にいた頃から、ずっと監視されていた。
それを施設の先生から告げられた時は驚愕したが、それが生き残った者に課せられた十字架だと自分を納得させた。胸に置いているペンダントのように。
そう、その頃には、自分にはプライバシーはないことを知っていたから、加持がいう意味を分かっていても、ミサトははっきり答えた。

「わかってる」

少なくとも、今日は加持と一緒にいたい…

だから伝える。

「そのかわり、もう、本部では絶対わたしに触らないで」
「仕事とプライベートはきっちり分けたいの」
「わたしも、ちゃんと加持くんに向き合うから」

仕事とプライベート…ちゃんと向き合う…どういうことだ?
俺とヨリを戻すってことか、いや…まさかな
それにしても、いつも君を見ているけれど、本当に君は、予想外の言葉で俺を翻弄するんだな

そう思うと触れられずにいられなかった。

加持は、感じるままにミサトを抱きしめる。
だが、自分の意図が伝わっていないと、彼女は慌てる。

「だから…ここではっ」
「分かってるよ、これで終わりにするから」

加持はそのまま、ミサトの髪に顔を埋めた。

「いい匂いだな」
「…もう、ホント最後よ」

ミサトは顔を赤らめながら加持の背中に手を回す。
その腕の感触を確かめながら、彼は満足そうに呟いた。

「りょーかい」



加持が住むアパートに着くと、ミサトは急に硬直し、右左手と足が同時に出てしまう程に、ぎくしゃくした動きで、二階の奥の彼の部屋まで歩いた。
そして、加持に案内されるまま、靴を脱ぎ、静かに中に足を進めるミサトに、彼は微笑み、ようこそと声を掛ける。

ミサトは、部屋を見回した。余計なものがない、こざっぱりとした部屋に思える。

「おじゃま…します」
「綺麗にしてるのね…やっぱり」

まあね、と加持は、持ってたビジネスバッグを、ライト以外何も置かれてない、スッキリとしたデスクに置いた。
その間にミサトは、手を洗いにバスルームにある洗面台で行って、鏡に映る自分の顔を見つめる。
仕事帰りで化粧も崩れているし、髪も乱れ気味だった。でも、そこには女の顔をした自分がいることに気づく。

今日は帰りたくない…

ミサトは加持に誘われるまでもなく、そう思っていた。
ターミナルドグマでの出来事は、それまで彼とのことで一喜一憂し、浮かれ気味だった自分を、現実に引き戻すものだった。
この組織の真相を探る加持や、大きな何かを隠しているリツコに何歩も遅れ、取り残されている気がした。

加持とのことも、向き合わなくてはならない。

今まで昔の恋を心の中に封印して来た彼女は、その想いを抑えられることが既に出来なくなっていた。
加持と別れた後、結局誰とも付き合えなかった。どんなに彼女に真摯な愛を告げる者が現れても、加持と一緒にいた時のような情熱を感じることが出来なかった。

…だからって、加持くんの家に来てしまうのは、安易だったのかな

いつもなら、家に帰れば風呂に入り、その日の一日を振り返る時間だ。管理職ともなると、やりがいはあるが、苦味が残る出来事は多い。ミサトにとって、それらをリセットする大事な『命の洗濯』だった。
だからといって、加持の家のバスルームを使い、いつものように自分をリフレッシュすることなど、出来る訳はない。それでは、抱いてくれと言わんばかりじゃないか。

そこまで思うと、ミサトの瞳に情欲の炎が静かに灯る。

確かに、今日は帰る気はないと言った。
それに、その覚悟は出来ているはずだった。

でも、いざ部屋に来てみると、どうしていいか分からない。いつもは水だけで雑に終わる手洗いも、気がつけばハンドソープの泡が消えるくらいに、手を擦り続けていた。

とりあえず、加持くんのとこに戻ろ…

バスルームを出て、加持の姿を探すと、彼はキッチンに立っていた。エプロンをして、何か炒めている。

「流石に腹減ったろ、すぐ出来るから」

加持はそう彼女に声をかけると、材料をタイミング合わせてフライパンへ入れると、調味料を適当に入れ、手際よくあっという間にテーブルに焼きそばが盛られた皿が乗る。

いつの間に…ミサトは目を丸くした。
相変わらず、加持の手は魔法のようだ、と思う。
自分が料理すると、何か変な黒い焦げの塊とか、パサパサして粉っぽいとか、反対に火が通っておらず生焼けとか、そんな物体しか出来ないのに。

そう思っている間に、トマトしかないんだ、とバジルとモツァレラチーズを添えてサラダは出てくるわ、豆腐の味噌汁は出てくるわ…有り合わせだよ、という加持だったが、結局ミサトの好きなものが並ぶ夕食となった。

食事している間は、チルドレン達の話題や、リツコの話、結婚していない同級生の話など、とりとめもない話をした。大体は加持からの話題提供だったが、ミサトは終始笑みを浮かべて、彼女にしては珍しく聞き役になっていた。
こんな風に気を張らない話をしたのは、いつだっただろうと、ミサトも加持も思う。最近は、顔を合わせると喧嘩をするか、深刻な話をするか…二人の間にはいつも緊張感があったから、こんなに和やかな時間は久しぶりだった。

そんな、お喋りしながらの食事は、いつもより時間をかけてゆっくり進んだ。ビールや日本酒といった酒は飲まなかった。少なくとミサトは、飲み始めたら、潰れるまで飲むと分かっていたから。
それに、今日は不思議と飲みたいという気持ちになれなかった。
ただ、彼女が大好きな、そのよく響く加持の声をずっと聞いていたかった。

皿が全て空になると、加持が後片付けを始めたので、ミサトも席を立つ。

「わたしも、手伝う」
「いいけど、皿割るなよ、少ししか置いてないんだから」
「失礼ね」
「君には前科があるからな…」
「やる時はやるわよ」

口ではそう言いながら、乱暴気味に布巾で食器を拭くミサトを、加持は内心ハラハラしながら見守っていた。案の定手から皿が滑り落ちる。

「あっ」

床の上に落ちる寸前、加持が身を呈して、キャッチする。
ミサトが安堵した顔をすると、彼は彼女の頭に手をポンっと置いた。

「ホント、頼むよ」

何気ないその優しく響く声に、頭に触れている手に、一瞬息が詰まり、自分でも驚く位に胸の鼓動が早まる。

何だろう、この感じ…
なんか、前にもあった…

そうだ、あの頃はいつもこんな感じだった。
ミサトは一気に学生時代に時間が戻ったような気がした。が、その懐かしさをすぐに封印する。今は目の前の彼を見ていたいと思ったのだ。だからその後は、食器や調理器具に集中し、なるべく慎重に手を動かした。

「ね〜加持くん一つも割れなかったよ!」
「やった!」

最後の一枚を棚に納めて、はしゃぎながら笑顔を満開にするミサト。
今日、初めて彼女が見せた心から喜びや嬉しさをいっぱいにした顔が、加持には眩しく見える。

箍が外れたのは、その時だった。

加持はミサトを、抱き竦める。

食事をするのが目的ではなかった。
ここにいる理由は一つだけ。

「…今日は帰さないって言ったの、覚えてる?」
「うん」
「どういう意味かも?」
「…ん」

ミサトは、そう返事をした瞬間、経験したことがないような飢えを感じた。目の前に好きな男がいるというのに、その腕の中さえ距離を感じる、自分の中にこんなに加持が欲しいと思う、生々しい願望があったのかと驚く位だった。心がもうどうしようもなく彼を求め、身体中の全てが、ことごとく彼と一つになりたい、と突きあがる想いに占められていく。

早く触れたい…

加持の方に向き直そうと体を動かそうとした時、今感じた、欲望に疼く体とは反比例して、一瞬理性が働いた。

「あ、でもシャワー…浴びてない」

しかし、加持はもうミサトを離さなかった。

「だめだ、もう待てない」

加持に更に強く抱き締められ、ミサトが、やっぱりさっきシャワーを浴びておくべきだったと、微かに後悔を含んだ苦味のある笑みを浮かべた時には、もう唇が降りてきて、激しい欲望の波に攫われていった。

それまで、この小さな部屋は互いの吐息と、肉体がぶつかり合う音と、身を焦がす恋の想いでに占められていたのに、その熱が嘘のように鎮まり、静寂が訪れた。

日常がゆっくり戻ってくる。
窓の外からは、遠くで第三東京市を縦断する電車の音が、鳴り響いている。そして、近くの畑からは、一筋二筋と鈴虫の声がコロコロと気持ちよさそうな声を出していた。

加持は、諸々の後始末をした後、ミサトをそのまま引き寄せた。
何か言おうと言葉を選ぶが、何を言っても今の充足感が色褪せてしまいそうで怖かった。そして、彼女も何も言わずに、彼に体を預けていた。

まだ、ぼんやりとした体で、彼女の背中に手を回すと、抱き締めたまま、その長い髪に指を絡め、愛しむように梳きながら頭を撫でた。そうしている間に、彼女は安心したのか、眠りの海へ落ちていった。

君を、またこうやって抱けるとは思わなかった
最初は側にいるだけで良かったのに…な

彼女の安らかな寝顔を見ながら加持は思う。

ミサトの父親と自分を重ねていた、という彼女の告白は、何故かすんなり受け止められた。彼女の経験したことを思えば、至極当然のことのように思えたからだ。

加持も、ミサトも…この世界で生き残った人は皆そうだろうが、セカンドインパクトで、人生を狂わされた。ただ、彼は沢山の人間に関わって生きていたが、彼女は療養所に施設で、限られた人間との関わりの中で育ってから、大学に来たのだ。
最期に、彼女の心に残ったのは彼女の父親のはずだから、男に父親を求めてもおかしくないはずじゃないか…

ただ、彼女と再び肌を重ねることには、躊躇いもあった。
最初はここまで深入りするとは思わなかったが、加持はいつ消されるかも分からない、そんな綱渡りのような人生を選んでしまったと感じていたのだ。
彼女を巻き込みたくない、そんな気持ちもあった。

しかし、加持が巻き込まなくても、いずれ彼女も『人類補完計画』という、SEELEや碇司令が進めている計画に飲み込まれていくはずだ。それなら、彼女を自分の側に引き入れてもいいのかもしれない。

それに加持は、正しく今日、ターミナルドグマでのことで、彼女との時間がもう一度重なった気がした。

『置いていかないで』

そう訴えた彼女に、自分が出来ることは何があるだろう。

昨日、君の想いを聞いて
今朝、君に現実を見せて
今夜、君と一緒に過ごしてる

この時間も、きっと監視されているのだろう。
もし、盗聴されているのなら、悪趣味だなと思う。

『職場では絶対私に触れないで』

職場で触れることを、彼女は極端に嫌うのは、見た目の調子の良さや大雑把な所とは反して、根はリっちゃん程ではないにしろ、真面目で物事を真摯に受け止める性格からきているのか…

いや、リっちゃんの方が、こういうことは深入りしているのだろうな

リツコのラボの前に、白い手袋が落ちていたことがあった。
何も知らないフリをして、彼女のものか聞くと、碇司令のものだと顔色変えずに言う彼女の気丈さに感服した。確かに、手袋が落ちていたからと言って、関係があると確定出来る訳ではないが、加持は二人の関係を自分の仕事の中で、知ることとなった。
恐らく、彼女と碇司令の関係はもう六年になる。始まりを知らないから、正確にはどれ位なのかは分からないが、ミサトと加持が一緒にいた時間より、遥かに長いと思った。

加持はリツコも、自分と同じように抜けられない闇に囚われていることを感じた。

この関係を、続けてはいけない、と囁く自分がいる
この関係に、溺れてしまえ、と囁く自分がいる

欲望とは本当に厄介だ。
どんなに頭で分かっていても、完全に打ち消すことは出来ないのだから。
そして、生き延びたいという気持ちが、こんなに強くなる日はなかった。

そのまま目を閉じる。
今は、愛しい女の温もりを感じていたい、その気持ちに素直に自分を預けた。



加持が寝入った頃、ミサトが目を覚ました。

時計は既に0時を回っている。

あ…もうこんな時間…

自宅に残してきた、シンジやアスカのことは、頼んであるとはいえ、最近彼等とちゃんと向き合っていないことに、心が痛む。
自分は、好きな男と想いを交わして、束の間の幸せに酔ったというのに。

シャワーを浴びに、加持の腕の中を抜け出して、バスルームに行くと、バスタブに湯が張ってあった。
脱衣室には、加持のTシャツとボクサーパンツが置いてあることに気づく。
多分、下ろし立ての未使用のものだった。

そこで、明日の着替えがないことに気付いた。
本当に無計画で感情のまま、ここに来てしまったことに、ミサトはため息をつく。

ミサトが風呂に入ることも、着替えの代わりが必要なこともちゃんと分かっている加持が、自分が寝ている時に全部用意してくれたのだろう。昔から変わらず、気遣い出来ることに、彼女の心が、彼の優しさにまた触れたような気がした。

借りた下着を着て髪を乾かし、キッチンを通り加持の元へ戻ろうとした時、ミサトは気付いた。

え…

この部屋は新築なのか、ほんのり新しい家独特の匂いがする。そして配置された家電や家具、そして大きめのベッドも新しい。セキュリティもしっかりしている。

でも、何故か懐かしい…

そう、この部屋の間取りは、家具の配置を含めて、あの時暮らしていたアパートと似ていた。

昔見た景色。

その遠い記憶が蘇る。毎日、一緒に暮らした場所。
喧嘩して笑いあって愛し合って…かけがえのない日々。

貴方も、私のことを想っていてくれたの?

今までも、加持くんがわたしのことを…とそう思うことが、なかったわけじゃない。

でも、加持は、NERVの同期の中で、噂になる程に、女性との噂が絶えず、女癖が悪いと有名だった。元々、学生時代からそういったことはあった彼だったが、別の支部にいるのに、そんな噂が耳に入る位だったので、ミサト自身も、自分のことは彼にとって、通りすがりの過去の女だと思っていたくらいだった。

だから別れてから、またこんな風に想いを交わす日が来るとは思わなかったのだ。

確かに、今朝の出来事はきっかけだったのかな…

昨晩、加持くんに想いをぶつけて
今朝、加持くんに現実の一部を見せられて
今夜、加持くんと一緒に夜を過ごしてる

一緒に暮らした二年間は、あの頃を思い出すと幸せで甘酸っぱくて、でもとても幸せで、彼女は切ない想いをいつでも感じることが出来た。その想い出は、忘れたくない大切なものだったから、人知れず大切に思っていた。

そんなことを思ううちに、ミサトの瞳に映っている加持の部屋は、いつしか昔二人で暮らした部屋になっていた。
加持との別れの前の日、ミサトは自分から彼を誘って、一晩中彼を求めた。
その後、朝方、最低限の荷物を持ってあのアパートを出た時と同じ風景が、今、目の前にある。
彼もあの頃を想ってこの部屋を選んだのだろうか…

しかし、加持は特務機関NERV特殊監査部所属でありながら、日本政府内務省調査部所属でもあるという。ミサトはNERV本部の作戦部長という立場で、彼がしていることを見逃す訳にはいかなかった。
使徒殲滅戦は激しさを増し、作戦を展開するのも難しい場面が多くなってきて、NERVの全てをかけて戦わなくてはいけない状況になっている。

また、あの時のように、道が分かれてしまうのだろうか…

そう、彼と同じ道を行くわけにはいかない…
でも、わたしもこのままでいい訳がない…

ターミナルドグマに設置されていたアダム
碇司令がリツコを巻き込んで、水面下で計画していること
そもそも子どもを使って戦わせていること…

取り巻く状況は、どんどんわたしを追い詰めていく

この部屋は、そんなことを全て忘れてしまいそうな、幸せが詰まっている。
そう、甘い蜜でいっぱいで、一度嵌ると、溺れてしまう…そんな甘い…

わたしの好きなものしかない
わたしの欲しいものしかない

加持くんがこの蜜でわたしを溶かしてしまうんじゃないかと思うほどに
蕩けるような、そしてむせ返るような甘い部屋…

もう、ここに来てはいけないと、囁く自分がいる
ずっと、ここにいなさいよと、囁く自分がいる

好きよ、加持くん…
ホントに、大好き…

その想いとは裏腹に、加持が眠る場所に戻りたいのに戻れず、立ち尽くすミサトの瞳から涙が溢れる。
風呂上がりで火照った体が、急激に冷えていく…まるで想いを交わしたことが夢だったかのように。

彼女は耐えきれず、着てきた服を羽織ると、部屋を飛び出した。
入り口のドアが静かに閉まる。
それから少しの間を置き、ルノーが走り去る音が、夜の闇の中鳴り響いた。

彼も外へ出た彼女を追いかけることが出来ずに、ベッドの隅に座ったまま自分の手を見つめた。
やっと捕まえたと思ったのに、この手で確かに彼女を抱いたのに、気がつけば摺り抜けていくのか。

部屋には、彼女の残り香が、未だに甘さを放ち漂っていた。

fin.

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