8.商売繁盛(1)

・手洗い洗車でステレオを売る(27歳 )

私たち兄弟と品川君の3人での仕事が始まった。別のガソリンスタンドに行っているお客様に来てもらうために、私達の丸北商事の魅力を考えた。夜12時まで開けていることと、無料での手洗い洗車を実行することにした。来店者全員の車を洗うのは結構きつかった。11月・12月の洗車は水が冷たく、本当に大変だった。

このサービスに最初喜んでくれたお客様も慣れてくるとあたりまえに要求してくるのである。そこで、このサービスを有効に生かす事を考えた。高額カーステレオを売ることにつなげられるかもしれないとひらめいたのである。今でこそあたりまえになっている高出力アンプ付きのカーステレオやアルミホイールは、その頃世の中に出始めたばかりだった。

まず、分割払いができるようにクレジット会社を呼んだ。それまではガソリンスタンドがクレジット会社と直接契約をしていることはなかった。タイヤメーカーのクレジットを使っていたため審査や支払い等がすごく不便だったのである。クレジット会社の担当者は市内のガソリンスタンドの中で直接契約するのは初めてであり、契約してもクレジットでの売り上げが上がるのかを心配していた。

市内では、カー用品を専門に売っている店があり、そこでは品揃えもしっかりしていて、かなりの販売をしていた。売れている店があるなら需要はあるし、どうすれば買ってくれるか、ガソリンスタンドに来るお客様の身になって、どうしたら買いたくなるかを考えた。最小限度の在庫をし、コンポーネントステレオを売ることから挑戦した。

お客様が来店すると、「いらっしゃいませ」と声をかけながら、2人で駆け足で車へ駆け寄る。1人はカギを預かりガソリンを入れる準備をする。もう1人は、ホースときれいなタオルを持ってボンネットの上から洗車を始める。ガソリンを入れる係は、お客様に「5分位で済みますので店内でお休みください」と声をかける。8割以上のお客様は車から降りて店内に入ってくれる。無料の手洗い洗車をする事で、5分間の営業チャンスをつくったのである。

物が売れるには、あとは欲しがってもらう事と、この店で買っても良いという信頼感だ。店内にはコーヒーメーカーが設置され、うまいコーヒーをすぐに出せるよう準備し、お客様はディスプレィから流れる素晴らしい音を自然に聞くことになる。ディスプレィの脇にはコンポーネントステレオの箱が積み重なっていた。一部は在庫で中身が入っていたが、残りほとんどは空箱だった。取り付けの済んだ空箱を捨てずに積み重ねたのである。これは増えれば増える程効果的だった。

空箱だと思わないお客様は、豊富な在庫と勘違いし信頼を持ってくれた。空箱と知った人も販売実績を目で認識する事で、この店で買う安心感を持ってくれたのである。ひとりが車を洗い、その待ち時間にもう一人が営業する。よい音を聞いてもらい、積み重なった箱で信頼感を生み、無料の洗車でサービスの良さを感じてもらい、コンポーネントステレオ販売につなげた。売れ始まると話し方にも自信がつき、思うがままに売れた。1日に4台も売れた時もあった。

1年後には4×4mの壁が空箱いっぱいになった。燃やすために軽トラックに積んでみると3台分あった。同じようにしてタイヤやアルミホイールも売った。無料での手洗い洗車が辛ければ辛いほど闘志がわき、お客様か欲しくなる商品を考え展示した。こうして丸北商事は市内でも有数の高額商品の売れるガソリンスタンドになっていったのだった。


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