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9.商売繁盛(2)

・ヒゲをはやしてなぜ悪い!!(28歳 )

大学を休学して乗ったはえなわ漁船。3ヶ月の航海中、伸びたヒゲを剃るように言われたことはなかった。乗組員は15人で、15分の1の仕事を確実にこなせば、ヒゲなど問題なかった。大学を卒業し、勤めた会社を1年で辞め、アメリカ。伸ばしたヒゲをあれこれ言われる事もなかった。皆が自由に考え、責任を持って生きることが当たり前だった。日本に帰ってきて私も自分の思うとおりに生きてみたいと思い山小屋生活をし、ヒゲは剃らずに伸ばしていた。

その頃、まわりの若い人でヒゲを伸ばしているのはいなかった。私の場合、伸ばしているというより、剃らないので伸びてしまったという方が適当かもしれない。

山小屋生活では、風呂を沸かすのは1週間に1~2回だった。ヒゲを剃るのも面倒だったのである。ヒゲを伸ばしたままガソリンスタンドに勤めるようになっていた。自分では気にしてなかったが、たまに「いらっしゃいませ」と元気よくお客様を出迎えた時、私の顔をみてクスクス笑う人がいて、ヒゲを見て笑っているのかなあと思うくらいの感覚だった。社長である兄からも剃るようには言われなかった。

ある時、自動車整備士の資格を取るために、日本石油の主催する講習に参加した。1日目、2日目と順調に講習は進み、機械が得意な私は良い点で2級整備士に合格した。合格証書をもらった後、30数名の受講者を前に日本石油の担当者が訓示をたれた。

その担当者曰く。「この中にお客様よりえらい顔をしているような者がいる。それは客商売にはまずい。みぐさい」というようなことを言い出した。最初は何を言っているのか分からなかったが、私のヒゲのことを指しているのだと気がついた瞬間、カッーと頭に血がのぼった。「お前に言われる筋合いはない。よけいなお世話だ。」と怒鳴ってやりたかった。しかし20代の私には言えなかった。心の中で「お前の出っ張った腹の方がみぐさいぞ」と怒鳴った。

講習から帰り、油を仕入れているS商事の支店長を呼び出した。「講習でヒゲをはやしているのを皆の前で言われて気分が良くなかった。お客様からヒゲがみぐさいと言われるのであれば考えもするが、ヒゲが商売のマイナスになっているとは思っていない。あの日石の担当者に謝ってほしい」と詰め寄った。支店長は年寄りらしく、「まあまあそんなに腹を立てないで。悪気があって言った訳ではないでしょう」などと言い訳をした。この支店長も同類だなと思った。

私はそれ以来ヒゲを剃らなかった。意固地になってヒゲを生やしたままで20数年過ごしてきた。私はずっと営業という仕事に携わってきたが、顔を憶えてもらいやすいという長所と、なんとなくうさんくさく見えるという短所とがあり、損得どちらとも言えないのが私の感想である。

つい最近アフガニスタンのニュースを見た。タリバン政府は、男性にヒゲを伸ばさなければいけない決まりを守らせていたが、政府が崩壊してヒゲを剃って喜んでいる人々の顔がテレビに映しだされていた。たかがヒゲだが、伸ばすのも剃るのも強制されるのは気分が良くないものだ。できるだけ個人の自由が尊重される世の中がいいと思うがどうだろう・・。



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