廃墟の記

リンホウ素硝酸カリウム黙示録迎え火として咲くや此花


君にあう花の名前すら知らなかった。式典の朝気づいたことだ。ふたとせは生存者たちが許しあう為の時間だったのだ。手渡された花の花言葉はおそらく復旧や復興だろう。口にするのはこんなにも容易い。ふっきゅう、ふっこう、目の前が、ふっ、と揺れる。生きている人間は煙のにおいがする。甘い煙のにおいがする。11月の嘘を咥え口も利けない僕たちはいつも曖昧に口角を上げている。


廃線の延長線上に日常 同心円上に罪悪感


箱舟の終着駅で起こされて空席に長い名が付くと知る


煙る空 科学の砦で吸い込んだ ただ君だけを想う優越



あの日、どこかにある君のまなざしが僕を僕たらしめた。あの好奇心の強い瞳、白い防護服を着込み君の目を宿して僕は終局を視ていた。



「続いては避難区域に置き去りの血染めの恋についてのニュースです」


幾度と燃えた街だ。不意に震える地面にしがみついて生きてきた国だ。フォークロアの彼方から黒々と踏みにじられても、また 。

献花の列は未だに続いている。


組成式 鶴の折り目と交わればそう簡単に滅ばない星


おもかげを燃やしてもなお夜明け前 まだここにあるまばたきの音


計画停電の夜、東京の夜は祈るのに適した暗さだと知った。君のお気に入りのカーテンが燃えてしまった窓からは銀河鉄道がよく見える。導き出した数式通りに正しく爆薬を飲み込んで、この先も生き延びるために許されたがる僕らの隙間を、街中のよもつひらさかを加速しながら走り抜けてゆく。

イチイチナナの碑に白い花を手向ける。喪に服していない部分すべてが小春日和に眩しい。眩しさは痛みだ。許さなくていい。君の代わりに見ているから。待ち合わせした駅前、思い出も溢れないほどに崩れた跡地、美しい背骨ごと塗り固めた建設予定地にどうか、もう一度、


                      (もう二度と) (何度でも)

無人列車を。




東京に空がうまれた。血まみれの余儀なき命で恋をしていた。




(2018.10.11/2018.12.10再掲 ヒロセカスミ)

#安田短歌展2018  出展作品