痛み止め


目を閉じて
朝が来る前に
瞼の内側からなら
僕らはもっと太陽を愛せるはず
カーテンに映し出される
幾千もの朝の往来
ボウルにバターを浮かべ
背後ではテレビが走りだす
シャッターの開く音と
寝ぼけ眼のコーヒーの湯気が
じっとりと暑い朝の再来を告げる


孤独のお陰で
僕はかろうじてこの痛みに耐えている
窓の外の正午にむせ返る午前のシールコレクター
シェードの下にざわめく食器と金色の影の数々
きっちりと襟元まで留められたボタンは
蒸気する冷たい水を閉じ込める
太陽の使者が起き上がる
目の下の隈をこすり鏡の自分の髭を剃る
その時、意識が手元を離れて


僕が動かなくても世界は勝手に進んでゆく
婦人たちの午後
せわしなく扇子をあおぐ
コンドームいっぱいの海水浴に向かって
馳せる青年たちは馬のような足跡を残して
傷がまた開いてきた
冷えた鼻の穴を空気で満たし
この目で時間が通りすぎて行くのを見ようとしても
灰色の霧はいっこうに晴れない


うなされる夜の開けた街路
鳴り止まない下手くそな金管楽器に
僕はすべての窓を閉じた
かえって自分が追い出されたような淋しさに
テレビの箱をあけて
挿花のような生活感を溢れさせる
貸し出し書籍の弱い心を眺めても
頭の中は人工的な光の像でいっぱい
それでも身体を横たえてみると
突然、想像のネズミが僕の思考に噛み付いた

(2012年12月)

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