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上京して、故郷に想うこと。


かつて私が十代だった頃、大阪に暮らしていた。その時はじめてできた恋人は東京に暮らしている人で、1〜2ヶ月に一度行き来して会ったりしていた。

当時の恋人は大阪に来るたびに「大阪は遊ぶところがなくてつまらない」って話してた。
それを聞くたびに"楽しさを見出す力のない人だな、そんなこと言うなら来なくていいのに"と思っていた。私は大阪が大好きだし、楽しいものなんて知り尽くせないくらいある街だと思っていた。

あれから10年、私はその人とはとっくに別れたし、1年半前から東京で暮らしてる。
大阪には季節に一回くらいは帰ってきて、撮影の依頼を受けたり友達と遊んだりしている。やっぱり大阪が故郷だなと思う。大阪に降り立った途端深く息ができる心地がする。

とはいえ東京での生活も慣れてきて、久しぶりに大阪に来たらエスカレーターの左側に乗ってしまったり、すっかり東京も私にとって故郷の一つになってきたなあと感じてきた頃だ。

久しぶりに大阪に来ると、当時の彼が言っていたように何もない街だなと思える感覚も身体のどこかに生まれてきた。
東京には名前のついたコンテンツや遊びが山ほどあって、それらをものすごいスピードで回っても尽きることがない。

例えばギャラリーとかは、大阪の何倍もあると思うし、展示なんて一週間もあれば入れ替わってしまうものがたくさんあって、身体がどれだけあっても周り切れるような量じゃない。
それに比べて大阪は、やはり選択肢が少ないとは思う。美術館も博物館も東京に比べて狭く、数も少なかったりするし。そういう点でみたら確かに遊ぶ場所が少ないかもしれない。

大阪で暮らしていた頃、私は大阪の何が楽しかったんだろう。
先ず、大阪に流れる空気感そのものが好きだったように思う。東京ってやはり働く街で、全国から人が集まっては何者かになりたかったり急いでる人が多い。東京に比べて大阪には生活がある。生きてるだけで丸儲けって感じだ。

そして、空いた時間に乗る電車の時間が好きだった。大阪の電車って東京に比べたらずいぶんゆっくりした時間が流れてる。東京ほどピリピリしてない。東京の電車ってすごく静かだけど、大阪はみんな電車の中で普通に雑談してたりするし。
そんなのんびりした電車の中で考え事をしたり、今もしているように思うことを言葉に書き残したり、本を読んだりするのが本当に好きだ。
関西でいた頃電車が大好きだったのに、東京の電車で過ごす時間はそんなに好きになれなかった。

あと、散歩するのが好きだった。大阪の街は歩いてて楽しい。その街を愛した人が長く暮らしてる街に付いている手垢のようなものは、あたたかくって面白い。
街が整えられすぎてないのも好きだ。色んなジャンルのお店が同じ場所に介在してて、そのカオスさも私を幸せにしてくれる。

関西で好きだなあと思い感じていたものは、具体的な名前も形も持っていないかもしれないし、暮らしてみないと感じられないようなものばかりなのかも。

10年前、恋人につまらない人だなと思ったけど、その相手の気持ちも今は分からなくもない。生きる時間軸が東京と大阪では違い過ぎる。

大阪が大好きだとその空気感について話したけれど、今は東京も大好きで、こんなに色んな人が集まって受け入れたりぶつかりあってる街もないなあと思う。
あまり穏やかでないそのコミュニケーションの摩擦は美しいと思うし、その中に自分にとってのユートピアを作り上げていくのもまた良いものだ。

東京で走ったあと大阪で深呼吸するような時間は、これからも訪れるんだろうな。
生きるほど故郷が増えていく。

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