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マンガMeets3周年記念! 袖山みみり先生オンラインセミナーイベントレポート・前編【失敗から連載に至る道のり編】

マンガMeets3周年記念として、マンガMeeで大人気連載中の『隠したがりの同期くん』の作者・袖山みみり先生のオンラインセミナーを2023年8月24日に開催しました。
初連載に向けて様々なハードルがありましたが、担当編集とともにクリアしてきた様子をじっくり伺いました。実際に提出した企画書も大公開! 
本記事ではオンラインセミナーの様子を再編成してお届けします!


袖山みみり
『Bebe Vol.3』(株式会社ふゅーじょんぷろだくと)にてマンガ家デビュー。2022年9月よりマンガMeeにて『隠したがりの同期くん』連載中。

担当編集者・棚橋
『隠したがりの同期くん』『恋にほろよい』『陰キャな後輩は溺愛上手』などを担当。


マンガ制作において最低限意識したい3つのポイントとは?

袖山:
きっかけは、集英社の少女・女性向けの媒体が運用している投稿サイト「マンガMeets」上で開催していた「即戦力スカウト(※1)」に作品を投稿したことでした。その賞で受賞して、棚橋さんに担当についていただくことになりました。

(※1)現在は「再デビュー賞」に名前が変わっています。
<再デビュー賞とは?>
連載・読み切り問わず、商業まんが誌・商業WEB媒体などに作品が掲載された経験のある方を対象とした賞です。
次回は2023年12月22日募集開始です!!

(画像は2023年8月31日〆切のものです)

棚橋:
「即戦力スカウト」は既に他の媒体でデビューされている作家さんを対象にした賞で、なので袖山さんにはすぐにチャレンジMee(以後、チャレミ※2)に出す企画を一緒に作ってもらいましたね。

(※2)「チャレンジMee」はマンガMeeへのプレ連載企画として、1〜3話分の原稿またはネームをマンガMeets上に掲載。グランプリ作品はマンガアプリ「マンガMee」に11話分の連載作品として掲載される賞です。

袖山:
まず、チャレミのために3つ企画書を作りました。『隠したがりの同期くん』では社会人を描いていますが、当時は高校生や大学生のお話も考えていました。

チャレミに提出した実際の企画書 (©袖山みみり/集英社)

袖山:
この中から、土地持ち女子大生と土地狙いのイケメン3人組が繰り広げるドタバタ四角関係同居ラブコメを描くことになりました。女子大生のヒロインが、起業したい東大生、幼馴染のボンボン、怪しい占い師の3人から土地を狙われるという話です。ゆくゆくは4人で同居になり恋愛が始まり……!? みたいなお話を考えていました。

棚橋:
提出していただいた時に、キャラクターが立っているなと思いました。また、「土地」を使ったストーリーにも新規性があって楽しそう!と思い、この企画でいきましょうということになりました。そして、チャレミのコンペに提出。結果はボツでした…。

袖山:
撃沈でしたね(笑)。
その時に編集部から主に3つフィードバックをもらいました。

  1.  読者にとって「美味しさ」が足りない印象。何を楽しむ話なのかを明確にしよう!
    →最初ヒーローたちは土地目的で、恋愛関係になるのが遅い。

  2. 主人公の「目的」が見えづらい……。このあと何をしていく話?
    →「とりあえずルームシェア」はよくない。

  3. 「設定」が多すぎる印象。設定の説明で3話は使いすぎ?
    →物語に不必要な設定が多すぎる……。

棚橋:
設定が多かったのでその説明が長くなってしまって、美味しさとか楽しさを提示できずに終わってしまいましたね。また、主人公の目的がなかったので「このあと何をしていく話?」と指摘を受けました。何もないからとりあえずルームシェアさせちゃいましたよね。

袖山:
そうですね。まず「設定」が多すぎるが故に美味しさを提示できていない問題がありました。そのため、企画を立てるときに設定を必要最低限にしました。連載をしていて思うのは、最低限の設定があれば、あとの設定は後付けでOKだと思います。まずはスムーズに読んでもらうことが大切。その上で「美味しさ」をどこに作るかですね。

棚橋:
そうですね。フィードバック後の時の打ち合わせで、どちらからともなく「なんかエッチなことが起こったらドキドキしそう!」となり、その方向性で進めることになりましたね。

袖山:
ただのエッチな感じではつまらないので……。そこで、嫌いなアイツとエッチしちゃうのはどうだろう、と考えました。嫌いなのに相手のことを意識し始めて徐々に好きになっていっちゃう……と、普通ではあり得ないシチュエーションを入れ込むことで、話も動き始めました。

次に主人公やヒーローの「目的」ですね。嫌いなのに互いに意識してしまうだけだと、スムーズに恋愛が始まっちゃって話が終わってしまいます。
そのため、2人が恋をしてはいけない障害を作りましょうということで導入したのが「恋愛禁止の掟」です。

棚橋:
恋愛禁止だったら、恋愛しちゃダメだからわかりやすいんですよね。

袖山:
恋愛禁止にしてしまえば、内緒にしないとだし、バレたらどうする!?というドキドキ感とバレないようにするという「目的」もできます。

「美味しさ」と「目的」ができたら最後の「設定」ですね。
「美味しさ」と「目的」から逆算して最低限の設定を考えることにしました。嫌いなアイツと事故エッチするためには、酔った勢いでワンナイトしちゃう状況が必要でした。となると、飲酒できる大学生以上ということになります。
2人の恋の障害になる「恋愛禁止の掟」については、簡単に恋愛ができそうなテニスサークルとかだと難しいので、お堅いイメージのある大学自治会に入っている設定にしました。

棚橋:
大学自治会って珍しいですが、どうやって思いついたのでしょうか?

袖山:
身内がそういうことをしていたのでイメージしやすかったんです。

棚橋:
なるほど。やっぱり自分の近くにあるものだと、題材にしやすいんですね。
続いてお互い嫌い合っている必要があるとなったときに、嫌いってどういうことなんだろう?と考えましたよね。

袖山:
そうですね。恋愛観が真逆である設定をいれたらどうか、と棚橋さんからアイデアをいただきました。そこで、恋をしたいヒロインと恋愛体質じゃないヒーローの組み合わせにしました。

棚橋:
以上の点を踏まえて、次のチャレミ投稿作は、「嫌いなアイツと事故エッチ!? そこから始まる恋(?)」をテーマに制作することになりました。
できた作品は『この恋は掟破りです』。コンペに提出した結果、2021年10月期のチャレミに掲載が決定しました。サムネイルはこんな感じです!

(『この恋は掟破りです』©袖山みみり/集英社)

棚橋:
さて、結果はというと……準グランプリでした! 残念! 連載ならず!!

作品の「美味しさ」は性癖で決まる! 連載権獲得に至るまで

袖山:
悔しかったですね。再び反省会をしました。
次の作品を制作するにあたって、
「『美味しい』ポイントはシンプルかつストレートに!」
を意識しました。

『この恋は掟破りです』の美味しいポイント、「嫌いなアイツと事故エッチ。そこから始まる恋」はちょっとまどろっこしかったですね。
説明もしづらかったし、エッチしちゃったらその後に残っている美味しさが少なかった印象がありました。なので、美味しさ・楽しいポイントをもっともっとシンプルかつストレートにすることにしました。

棚橋:
美味しさ・楽しさポイントをシンプルかつストレートにって、つまり「袖山さんは何を描いたら楽しいのか」ってことですよね。袖山さんが描いていて楽しいものが、イコール読者の美味しさ・楽しさポイントになりますよね。

袖山:
そうですね。そこを掘り下げたところ「筋肉が好きだ!」って。

棚橋:
筋肉が好き? なんで筋肉が好きなんですか?

袖山:
私は努力家が好きなんですけど、筋肉って努力した結果じゃないですか。
筋肉を見るとそれまでの努力の過程が想像できて、かっこいいってなります!

棚橋:
なるほど。人となりを体で見てるんですね。

袖山:
色気もありつつ、かっこいいっていう感情になります。

棚橋:
では、筋肉が好き! 筋肉をどうしたいか、という話になりましたね。

袖山:
触りたい!  揉みたい!」これに尽きますね。他人の筋肉を合法的に触るためには、マッサージか!みたいな感じになりました。
 
棚橋:
少し強引かもしれないですが、「筋肉を触りたい、揉みたい」ことがわかりやすい目的になりました(笑)。次に、どんな男子の筋肉だったら嬉しいのか話し合いましたね。

袖山:
一見、筋肉があまりないように見えて、服の下に筋肉を隠してる人が好きです。 「そんなもの隠してたのか!」っていう風になるので。ご褒美というか、嬉しいです。

棚橋:
なるほど。今までそう思っていなかったキャラクターが実は努力家だったみたいな。要はギャップですね。

袖山:
そうですね。結果、出てきたキャラクターが細川くんです。現在の細川くんとちょっと違います。

(©袖山みみり/集英社)

棚橋:
ちょっと細くて、髪型がマッシュじゃないですね。

袖山:
キンプリの岸くんくらいの細マッチョをイメージしていました。

棚橋:
さて、以上を踏まえた上でできた作品が『隠しがたりの同期くん』です。
2022年2月期のチャレミに掲載しました。結果、めでたくグランプリを受賞!! 連載決定となったのですが、さてここでまた困りごとが発生です。

ヒーローとは性格真逆の当て馬キャラで話を動かす!

棚橋:
チャレンジMeeに掲載した3話のラストで細川くんがキスを迫ってくるところまで描いたはいいのですが、その後何をするか考えていなかったんですよね。

袖山:
実は最初のチャレミのフィードバックにあった「主人公の目的」については改善されていなかったんです。反省ですね。その後の打ち合わせで、2人の恋愛を描くことを目的にすれば、そこが見どころになるよね。と話をしました。ただ、この2人の場合は恋愛禁止でもないし、障害がないのでこのままだと普通に付き合ってしまいそうでした。なのでチャレミ掲載時では細川くんがキスを迫ってきたりと積極的なキャラにしたのですが、連載時には奥手にしてみました。ただ、そうすると話が動かないんですよね……(笑)また困りました。

棚橋:
それで、困った時の当て馬頼みということで新キャラクターを投入することにしたんですよね。それが伊勢アーノルド鋼太郎です。

袖山:
伊勢くんは細川くんと真逆の要素を持つキャラクターにしようと考えました。

棚橋:
細川くんは、筋肉もわかりづらければ好意もわかりづらいキャラです。一方で伊勢くんは見るからにマッチョで素直な子です。

袖山:
既存のキャラクターと逆のキャラクターを入れることで掛け合いも生まれるし、お話も動き出しました。

読者が思わずツッコミたくなるキャラでインパクトをつける!

袖山:
逆の要素を持ったキャラクターが出来たはいいのですが、伊勢くんは細川くんよりも後に出てくるキャラクターなので、インパクトがないとライバルにならないんですよね。なので、読者が「なにそれ」、「そうはならんやろ」と思わずツッコミたくなる要素を入れてインパクトをつけました

棚橋:
マッチョといえば「アーノルド」! ということで、名前に「アーノルド」を入れました。

袖山:
さらに、マッチョはポジティブなイメージがあったので陽キャでコミュ力高いキャラにしました。筋トレをしていると、男性ホルモンのテストステロンが分泌されて気分が前向きになったりするらしいんです。褒め上手でスーパーポジティブなのは、筋トレをしているから、と理由付けをしました。

棚橋:
「欧米由来の距離感を持った、褒め上手でポジティブな後輩男子くん」ですね。

袖山:
大型犬男子の爆誕ですね。エスカレーターで初対面の先輩に突撃しちゃうみたいな感じ。これはお気に入りのシーンです。

(©袖山みみり/集英社)

棚橋:
伊勢くんは予想外の動きをしてくれるキャラクターになりましたね。

袖山:
ツッコミどころがあるキャラクターだと、やっぱ画面をかき回してくれますよね。アーノルドは特に予想外の行動をしてくれます。ネームを作る時に降ってきたりして、キャラが動くってこういうことなんだ、と体感しました。
伊勢くんのおかげで、なんとか11話分エピソードができました。

次を読ませるには「承」を強く! 長期連載向けのエピソード作りのコツとは

棚橋:
11話まではなんとかエピソードができました! そして、無事連載開始! しかも『隠したがりの同期くん』は好評につき連載延長となりました! 
嬉しいことなのですが、11話終了予定で作っていたのでこの先を考えていませんでした。さて、どうする!?

袖山:
はい。また何も考えていませんでした(笑)。とにかくやるしかないので、読者コメントを読んでどんなところに面白みを感じてくれるのか分析してみました。結果、以下のようなコメントが多かったです。

  • お話の進みが早くていい

  • 主人公が悩んだり葛藤したりせずにテンポよく進むところがいい

やっぱり、週刊連載なのでテンポ感を重視したいです。そのため、1話ごとに見どころと引きを意識的に作っていきました。

棚橋:
やっぱり見どころや引きは重要ですか?

袖山:
そうですね。連載だと読み続けてもらうことが1番大事になるので。
引きが強いと次の話が気になるし、毎話見どころがあると「この作品は見ていて面白い」と、読者へのすり込みになると思うので大事ですね。

棚橋:
1話ごとにどんどん見どころを作って、次に繋がる引きを作る必要がある、と。とは言っても、2人はすでに付き合っちゃってるし、何してけばいいのか考える必要がありました。

袖山:
何をしていけばいいのか……とネガティブな方向性ではなく、マッチョと何をしたいか、ポジティブな方向性で考えることにしました。

棚橋:
袖山先生がマッチョとしたいこと=読者が美味しいと思えるポイントですよね。さらに、その美味しいところまでストーリーを持っていきたい、そのために必要な流れや出来事を作っていけばそれが見どころになりますよね。

袖山:
それで、マッチョと何をしたいか、を考えました。

  • 露天風呂に入りたい

  • マッチョ彼氏のバスケをしている姿を見たい

  • マッチョと一緒に筋トレしたい

  • 風邪マッチョを看病してあげたい

マッチョとお風呂に入ると、体も見えるしドキドキしますよね。それが見どころになりますし、バスケをすればダンクシュートを決めるところも見どころになります。

棚橋:
さて、次を読ませるための引きはどう作ればいいでしょうか?

袖山:
読み切りの場合は、まずキャラクターを提示して、ストーリーを作って、見どころを作って、結末、というふうに起承転結で作ればいいんですよね。
ただ、連載になるとキャラ提示は必要なくなってきます。物語の開始に面白いところをやって、結末で引くっていうのが連載ですね。なので、連載の場合は、「承転結」をイメージしています。まず、入りを楽しくします。その後、物語を展開して、ラスト次の話を見たくなるような引きを作ります。例えば、細川くんが風邪を引きそうですとか、そういう匂わせを入れて、来週楽しみだな、と思わせるような引きのページを作ることが大事になってきます。

棚橋:
物事が動き始める最初の部分を引きで作ってあげて、そこから次の話を始める感じですね。こうすることで、次が気になる終わり方になるし、お話のスタートもすでに出来事が起こっているので入りが楽しくなります。ただ、これだけだと面白みが足りないと感じるときがありますよね。

袖山:
そうですね。例えば風邪を引いた細川くんを看病する話で、普通に看病しても読者が予想できてつまらない。なので、かれん視点から見ると細川くんが弱々しすぎて小さく見えることにして、ミニキャラにしてみたりしました。
こうすることで、読者の予想を裏切って、思わずツッコミたくなるような仕掛けにしています。

初エッチの場合は、普通に初エッチしても楽しくないので、カウントダウンを入れてみるなど、読者がよりドキドキできるような工夫をしました。

(©袖山みみり/集英社)

「マンガMeets3周年記念! 袖山みみり先生オンラインセミナーイベントレポート・前編【失敗から連載に至る道のり編】」はここまでです。
続きの記事では、週刊連載のスピード感についてのお話や、おすすめ作品などの質問への回答をしていただいています。

▼「マンガMeets3周年記念! 袖山みみり先生オンラインセミナーイベントレポート・後編【週刊連載のスピード感とQ&A編】」▼

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