カンサイスキーなこと。【映画「阪急電車」】
※2011年5月に某所にアップした文章の転載です。
また、このころ関西在住だったので似非関西弁が鼻につきます。こちらもご容赦を。
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前置き。
原作を読んでいない人で、これからこの映画をカネ払って観ようという方、
この文章を読むことをオススメしません。廻れ右。
…言ったかんね?
二週間ほど前、観に行ってまいりまして。
昨日の夜、原作読み直しました。
うん、いろいろすっきり。
まずはっきりと言えること。
この映画、原作ファンとして言うと「映画化作品」じゃないです。
少なくとも独立したひとつの映画作品としては、いろいろな意味で成り立っていません。
…たとえば、こちら。
「スピンオフドラマ 『阪急電車~片道15分の奇跡~ 征史とユキの物語(全5話)』
au LISMOチャンネル(http://lismo-drama.jp/)にて配信。
キャスト 征史:永井大 ユキ:白石美帆」
わかりますでしょうか。原作を読んだ方はわかりますよね?
「阪急電車 (幻冬舎文庫)
隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。
片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。
乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。
恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。
ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。(「BOOK」データベースより)」
…と、アマゾンの作品紹介にも書かれている「よく行く図書館で見かけるあの人」が「ユキ」です。
えーと、あの「酒呑み」なおねーさんな?
だいたい映画の公式サイト(http://hankyudensha-movie.com/)の
キャスト表を観たときにあれ?っとは思ってたんだ。
中谷美紀(翔子)と戸田恵梨香(ミサ)のダブル主演プラス宮本信子(時江)って…。
この作品は阪急今津線車中を軸に、複数の物語が交錯する群像劇なのですが、
そのアタマとシメに登場するのが、この二人。
あと、物語後半のわりと主要な部分でサブとして登場。
実は、お話の空気をつくるという意味では、とても重要なキャストだったり。
それが、出てません。おかげで原作の「ほんわか」な空気が三割カット。
あまつさえ、「カット」されてるんじゃなくて「スピンオフ」って。
「原作」からひと組抜いて別作品に仕立てて「スピンオフ」って、その扱いは違うでしょ?
もはや映画と関係の無いものになってしまってるじゃん、そのひと組は。
でもまあ。
キャスティングはなかなか。
メインキャストは、それぞれいい感じでした。
ナカタニさんは必要以上に「美人さん」にならないかちょっと心配だったのですが、
演技やメイクでいい具合に「ちょっとトウが立った」「気ィの強い」「泣かないオンナ」の等身大な翔子を作れていたし。
戸田恵梨香のミサはちゃんと「オーサカの安い女子大生」やった。…DVオトコとの別れを決断する周辺の演技は表情とか仕草だけで、もうちょっとやれたんちゃうかなあと思うのは一種の「贔屓目」やろ。
征史とユキがおらんので、時江が一人で頑張っていてかわいそうでしたが
宮本信子はそれはそれでトクをするヒトです。
というか、全体を通じて時江がやっぱり一番だったな、と思う。
若い頃を演じていた女優さんもよかった。
そんで、ワキで出ていた玉鉄と安めぐみは株を上げたと思う。
玉鉄は一人二役で、時江の死んだ夫とえっちゃんのアホな社会人の彼。
濃いめの二枚目であることが、さほどプラスに働かないのが大阪オトコの面白いところ。
いかにもオーサカな、誠実で気のいい兄ちゃんでした。
色悪やってもいける子ぉやけど、こういうのもエエね。
翔子から花婿を寝取る性悪猫を演じた安めぐみ。
こういう言い方をしては気の毒なんだが「なるほどこういう使い方があったか!」って感じ。
演技もなにも決して良くないんだけど、「あ、コレはオトコ騙されるわ」って納得できる配役。嫉妬や打算のはっきりした表情は、これまでの安めぐみイメージからは考えにくい醜さでした。
原作以上に「コッチ選んじゃ駄目」なニオイ紛々とします。
でも、「しかもこいつ、翔子が思っているほど計算でけてへん。感情のままでこうなってしまうからこういう女なんや」って、観ててナチュラルに安めぐみの方をかばってしまった。カップルで観にいって「うっかり口に出した」らぜーったい喧嘩んなるわww
すごいなあ、安めぐみ。伊達に「息子の嫁にしたい女優ナンバーワン」ちゃうなあ。
友情出演のぶきち(相武紗季)もナイス。
ケータイ、サバ折りにしてコップに沈めたとこと、ふたりしてワアワア泣いたとこ。
イカニモだけど、しかもどっちも原作にはないけど、それがいい。
あと、えっちゃん&フレンズの女子高生達。
特に、すうちゃんは贔屓目なしによかったと思う。
「何年あんたの友達やってると思うん?」ってセリフがすごくイイ感じでした。
個人的にはゴンちゃんはいただけなかったです。
特に衣装が。…ダサいんじゃなくて「根本的にセンスがない」のはゴンちゃん的にダメだと思う。
ネルシャツにカーディガン、中途半端な長さのボックスプリーツにルーズソックスとコインローファー。
もすこし、ちょーっと垢抜けなかったり、ドン臭かったりする方向でまとめられなかったのかなあ。
しかも半年経っても服装変わらなかったし(オトコ出来たのに!)
あと、クリスマスのシーンをやるならその前の風邪引きのシーンをやれ!あっちの方が二人らしい。
せっかくキャストが演技派な谷村美月なのに、よっぽどスケジュール抑えられんかったんか…いう手抜きアップショットばっかり。
しかもこのカップルだけ安モンのCGとか…ぜんぜんいらんし、ソレ。
ええと。
つまりね、良く出来てるんです、キャストバランスとか、各シーンとか。
シーンが始まって、キャストが(テロップ付きで)出る。そうすると原作のシーンがちゃんと浮かぶ。
時江とか康江とか、それぞれ原作とは違う出方なのですが出た瞬間に「ああ!そうきたかっ!」って笑ってもた。
征史とユキがおらんのも、まあ、サイアク許してもいい。オトナの事情じゃ。
でも。
でも、とにっかくヒドかったのはセリフなんだよなあ。
あのね。
原作、「持ち回りの一人称」なんです。
一人称小説のいいところってのは、地の文で「心の声」を表現することができるんですね。
そして、オイラの知る限り、有川浩って小説家はソレが抜群に上手い。
ラフでキャラ重視なセリフと硬質でブレのない地の文のバランス。
絶妙に挿入される心理描写が、文章に独特のリズムを生み、物語の疾走感をつくる。
しかもタイトルどおり「関西在住者」のお話です。原作のセリフはすべて「関西」でした。
オーサカに一年だけ暮らしたオイラでも、読んでて「声で聞こえる」ぐらいにナチュラルな「関西」セリフ。
そして地の文は、心の声は若干キャラ色を落としてニュアンスレベルで「関西」、心理描写含めて基本的には標準語。
おそらくは全国区で読んでもらうために「関西ローカル色」バランスを非常に上手くミックスして書かれているな…と、読み返してあらためて思いました。
うん。有川文体のすごくいいところを、めずらしく「ちょっとローカルな電車の走るほんわかしたリズム」で書いた
とても素敵な作品です。…原作はな。
でも、コレは映画ですから心の声は「イメージシーン」以外は、演技とセリフでフォローすることになります(…一部糞みたいなCG入ってましたけどね
で、どうなったか。
セリフがね・・・「原作通り」で引用されてるんです。
「 」付きの台詞も心の声も・・・たまに、心理描写の入った標準語で書かれてる「地の文」まで。
・・・口に出すんやから、全部その「キャラ」のセリフに書き換えーや!アホ!ファンムービーやないねん。プロはプロの仕事せえよ!コラ、岡田惠和っ(名指しかっ!
内面描写のないえっちゃんのフレンズが一番セリフ的に一貫性が高くて生き生きしてるってナニゴトやねん。
あと、原作ではほぼ登場しない時江と絡むシーンの玉鉄とか。
やればできる子なのに!岡田惠和っ(できる「子」扱いかっ!
…つーか考えてみれば戸田恵梨香、神戸やんな。
ぶきちも宝塚だしな。
ゴンちゃんもえっちゃん&フレンズも、みんな関西の娘。
玉鉄も京都やし。
ナカタニさんと宮本信子は西のヒトやないけど、きっとやれば出来る大女優さんです、前歴あるし。
現場でセリフぜんぶ変えたったればよかったのに。
できるやん、このメンツ。
・・・というか。なんでこんなに違和感があるのか&そのコトが気にいらんのか、と言いますと。
たぶん「関西のフツーのしゃべり」とくにオンナノコのんがめっちゃ好きなんですよ、オイラ。
しかもオーサカの、できたらミナミの…神戸とか京都とかやなしに。
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