【2023知財Advent Calendar】「知財業界人のための安全保障輸出管理超入門」

企業弁理士のキャロです。

 本日は、2023知財Advent Calendarの12/18(月)担当として、企業における安全保障輸出管理について、その超入門編をお届けしたいと思います。

1.はじめに

 特許事務所にお勤めの弁理士や特許技術者である皆さんにとっておそらくあまり馴染みがないであろう、昨今話題の経済安全保障にも関わる「安全保障輸出管理(安全保障貿易管理)」について紹介させていただきます。
 もしかすると、企業等で契約を担当されている方は、開発請負契約等における一般条項としての安全保障輸出管理条項を目にされたことがあるかも知れませんね。
 私は過去の所属企業において、図らずも安全保障輸出管理の実務を独学で身に付けることとなりました。
 一般的な大企業でいいますと、契約等を担う商事法務(ビジネス法務)と内部統制・コンプライアンス等を担う機関法務とを管掌する法務部門、我々のような知的財産を管掌する知財部門に加え、貨物輸出や役務取引等に対する安全保障輸出管理を担う輸出管理部門(「輸出管理部」の他、「貿易管理部」の名称を用いる場合有り)として法務機能の一部を担います。

2.安全保障輸出管理とは何か?

 経産省のサイトにおける説明を参照すると、「「安全保障貿易管理」とは、国際的な平和及び安全の維持の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を防止するために、国際的な輸出管理の枠組み(レジーム)や関係条約に基づき、厳格な輸出管理を行うことを目的としております。」とあります。

【安全保障貿易管理とは】

 「安全保障貿易管理」とは、国際的な平和及び安全の維持の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を防止するために、国際的な輸出管理の枠組み(レジーム)や関係条約に基づき、厳格な輸出管理を行うことを目的としております。

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 また、対外取引の正常な発展、我が国や国際社会の平和・安全の維持などを目的に外国為替や外国貿易などの対外取引の管理や調整を行うための法律である外為法(外国為替及び外国貿易法)の第一条(目的)としては、「この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」とあります。

昭和二十四年法律第二百二十八号
外国為替及び外国貿易法

第一章 総則
(目的)
第一条 昭和二十四年法律第二百二十八号外国為替及び外国貿易法第一章 総則(目的)第一条 この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

外国為替及び外国貿易法 | e-Gov法令検索

 いずれについても、米国を始めとする西側諸国と中国との経済戦争、ロシアのウクライナに対する軍事作戦やイスラエルとハマスとの軍事紛争等、昨今の国際情勢を見れば、このような国際社会の平和及び安全の維持という目的から安全保障輸出管理はますます重要になってくるものと考えます。

(引用元:経済産業省・近畿経済産業局・安全保障貿易管理のイメージ図https://www.kansai.meti.go.jp/E_Kansai/page/20200910/05.html

3.安全保障輸出管理の実務とその留意点

 安全保障輸出管理の具体的な実務については、大きく分けると①該非判定書、②需要者チェックリスト、③取引審査票(場合によってはこれら以外の帳票を追加で作成する場合有り)の作成及び判定が必要となってきます。
 ①該非判定書については、輸出する貨物や取引する役務等について「デュアルユース」をも考慮し、軍事用途に該当する可能性がないか、②需要者チェックリストについては、貨物の輸出相手や役務の取引相手がブラックリストに含まれる外国の軍事会社やテロリスト等に該当しないかについて、それぞれ判定を行うとともに、③取引審査票には、これら該非判定書と需要者チェックリストの判定結果を踏まえ、取引に関する会社代表者である最高輸出管理責任者の最終的な決裁を仰ぐことになります。
 また、上記の「デュアルユース」は、民生目的で開発したものであっても軍事用途に転用可能なもの(例:暗号技術、衛星技術、レーダー技術等)を指します。わかりやすい例でいうと、ロケット技術を軍事目的に転用すれば高性能なミサイルが実現可能となります。

(引用元:Wikipedia「デュアルユース」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B9

 さらに、外為法を遵守せず、適切な輸出管理を実施せずに貨物輸出や役務取引を行った場合、刑事罰としては、輸出管理責任者に10年以下の懲役が科され、さらに法人の場合には10億円以下の罰金又は個人の場合には3千万円以下の罰金が併科されるおそれがあり、行政罰としては、法人に対する3年以内の貨物の輸出や技術の提供の禁止や個人に対する別会社の担当役員等への就任禁止の制裁が科されるおそれがあり、会社経営に対する存続性に関し重大な影響を与えることとなります。

4.おわりに

 このように国家並びに企業の持続可能性(サスティナビリティ)に大きな影響を与える安全保障輸出管理は、我が国における経済安全保障の根幹をなすものであり、これからの企業の法務機能において益々大きな割合を占めていくものと考えます。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(本稿は、弁理士会派である弁理士クラブの2023年10月31日付「弁理士クラブメールマガジン第15号」に掲載されたリレー形式の一言コラム記事に加筆を行ったものです。)

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