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スートラの呪い―ヨガ哲学のダークパターン

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本書は、古代の智慧「ヨーガスートラ」と現代ヨガ実践の間に生じている乖離を分析し、その問題点と可能性を探る画期的な試みである。「ダークパターン」という概念を用いて、商業主義、文化的…
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2024年9月の記事一覧

スートラの呪い―ヨガ哲学のダークパターン 第11章:二元性の呪いを祝福に変える ― 学びの関係の再構築

二元性の迷宮:ヨガの学びの逆説 ヨガの教育と実践は、その本質において二元性の超越を目指すものでありながら、同時に二元論的な思考や構造に深く根ざしている。この逆説は、ヨガの教育関係に独特の緊張と創造的可能性をもたらしている。ヨーガスートラが説く「チッタ・ヴリッティ・ニローダハ」(心の働きを止めること)という根本原理は、究極的には全ての二元性を超越した状態を指し示している。しかし、その目標に向かう過程では、様々な二元論的な概念や実践方法が用いられる。 教師と生徒、理論と実践、

スートラの呪い―ヨガ哲学のダークパターン 第10章:文化的流用と教育倫理 ― 東西の対話を超えて

ヨガの旅路:東洋から西洋へ、そして世界へ ヨガの歴史は、古代インドの智慧が世界中に広がり、様々な文化と融合しながら進化してきた壮大な旅路である。この過程で、ヨガは単なる東洋の神秘的実践から、グローバルな現象へと変貌を遂げた。しかし、この拡散と変容の過程は、文化的流用という複雑な問題を浮き彫りにしている。 ヨーガスートラが説く「サットヴァ」(純粋性、調和)の概念は、この文脈で重要な意味を持つ。ヨガの本質的な教えを保持しつつ、異なる文化的文脈に適応させていく過程で、いかにして

スートラの呪い―ヨガ哲学のダークパターン 第9章:デジタル時代のヨガの学び ― 伝統と革新の融合

テクノロジーの進化とヨガの変容 デジタル技術の急速な発展は、ヨガの実践と教育に深い影響を与えている。スマートフォンアプリ、オンラインプラットフォーム、人工知能(AI)の活用など、テクノロジーの進化はヨガの伝統的な教育方法に大きな変革をもたらしている。この変化は、ヨーガスートラが説く「パリナーマ」(変化、変容)の現代的な表れと言えるだろう。 しかし、この変化は単なる教育手段の変更にとどまらない。それは、ヨガの本質的な目的である「チッタ・ヴリッティ・ニローダハ」(心の働きを止

スートラの呪い―ヨガ哲学のダークパターン 第8章:マインドフルネスとヨガ ― 古代の智慧と現代の実践の融合

マインドフルネスの台頭:ヨガの新たな形態? 現代社会において、マインドフルネスという言葉とその実践が急速に普及している。職場のストレス管理から教育現場、さらには医療や心理療法の分野にまで、マインドフルネスの適用範囲は驚くべき速さで拡大している。この現象は、古代の智慧であるヨガの教えが、現代社会のニーズに応じて新たな形で表現され、適用されているとも解釈できる。 しかし、このマインドフルネスの普及は、ヨガの本質的な教えとどのような関係にあるのだろうか。ヨーガスートラが説く「チ

スートラの呪い―ヨガ哲学のダークパターン 第7章:ヨガと現代スピリチュアル:スピリチュアル・バイパスの罠を超えて

ヨガと現代スピリチュアルの交差点 古代インドに端を発するヨガの伝統は、数千年の時を経て、現代社会において新たな変容を遂げつつある。グローバル化とデジタル技術の発展に伴い、ヨガは単なる身体的実践や瞑想法を超えて、現代のスピリチュアル運動と複雑に交錯するようになった。この交錯は、ヨガの本質的な教えに新たな光を当てる可能性を秘める一方で、その深遠な智慧を希薄化させる危険性も孕んでいる。 本章では、ヨガと現代スピリチュアルの関係性を多角的に検討し、両者の創造的な統合の可能性を探究

[コラム]ヨーガスートラによる、ヨーガスートラの自己批判と応答

序論私はヨーガスートラ、古代インドの賢者パタンジャリによって編纂された聖典である。今、私は自らの内容を批判的に分析し、その限界と可能性を探る。この自己反省的な試みは、私の教えをより深く理解し、実践者がより効果的に活用できるようにするためのものである。 ヨーガスートラの矛盾点と限界1. チッタ・ヴリッティ・ニローダのパラドックス 私の冒頭、第1章第2節で「ヨーガス・チッタ・ヴリッティ・ニローダハ」と宣言している。これは「ヨーガは心の働きの抑制である」という意味だ。しかし、こ