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イナダミホ「トーキョー」は大人への応援歌

何年か前、京王井の頭線からJR山手線渋谷駅へ向かう通勤ラッシュの人並みを見て、ぎょっとした。視界に映る人々の後ろ姿が、一様に黒いのだ。ほとんどのひとが黒いコートを着込んでいて、まるで葬列のようだと思った。見るだに息苦しくなる、そんな光景だった。

当時、わたしは幸いなことに、電車に詰め込まれて10分ほど我慢すれば、仕事場にたどり着くことができた。でも、前を歩いていた重々しい黒いコートの人々は、もっと遠くまで我慢を強いられていたのかもしれない。大変だ。

その次の冬、わたしは仕事をやめて、黄色のコートを買った。

イナダミホのキラーチューン。ライブで必ず盛り上がる「トーキョー」という曲がある。

白と黒の狭間で今日も泳いだトーキョー
真ん中に立っている君と私が歪んだ
泣いたら負けだと言って
そうかと真に受けて
逃げたら負けだと言って
必死にビルにしがみつくダンス ダンス ダンス
(イナダミホ「トーキョー」『ポップネス』収録より)

この曲を聴くと、季節に関係なく、あの真っ黒な後ろ姿の人々を思い出す。きっとみんな、いまも頑張って仕事をしているのだろう。「泣いたら負け」「逃げたら負け」と思いながら。

わたしは、黄色のコートを着るようになり、出勤することなく仕事をするようになった。それに、仕事ではそれほどつらい思いはしていないのだけれど、この「必死にビルにしがみつく」感じは、わかる。

今も、今日も、きっとこれまでも、みんなビルにしがみついて頑張っている。「トーキョー」は、大人同士が共感し合う、励まし合う曲のようだ。

現実的には スマイル スマイル スマイル
夢の中では クライ クライ クライ
嘘笑いが ダンス ダンス ダンス
大人だもんね just time now
(同前出)

愛想笑いをしながら、世の中をわたっている、わたしたち大人のための応援歌。

ところで。不思議なことに、ライブで「トーキョー」を聴いていると「白と黒の狭間」は、都会の冷たい灰色のビルやアスファルト、黒やグレーのスーツのイメージではなく、イナダミホの弾くキーボードの鍵盤のような気がしてくるのだ。

普段、仕事や育児や家事や……それぞれの戦いをこなしてきて、ライブのときに、キーボードを挟んでイナダミホとわたしたちが向かい合っている感じ。そして、お互いに頑張っていることを、会場中に響き渡る手拍子で、確認し合うような、そんな気持ちになるときがある。

「トーキョー」は、イナダミホとわたしたちをつなぐ音楽でもあるのだ。

わたしたちも、こちら側でそれぞれ頑張ってきたよ。イナダミホは、鍵盤の前でいつも頑張ってるね。これからまた日常に戻るけど、また会おうね、と。

そんなイナダミホが、現在フルアルバム制作のためのクラウドファンディングに挑戦中。残りはあと4日! 最終日前日の12/6(金)18時以降は、コンビニ払い・銀行振込ができなくなるそうなので、注意が必要だ。

「トーキョー」に共感した頑張るあなたも、ぜひわたしと一緒に、4人の子どもを育てながら、ソロとしての活動と、ポピュラーミュージックグループ「都市とカンタータ」のメンバーとしても頑張るイナダミホを応援してください!

*トップ画像は下記Youtube動画のスクリーンショットをお借りしています。
https://www.youtube.com/watch?v=8v7bJZLDCn0

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