1/fって何すか。#89 ラバーソールとSR400 (2021.2月号)

高校生のとき、大人になってお金を稼ぐようになったら底の分厚いラバーソールを履いて、YAMAHAのSR400というバイクに乗る予定だった。大人になってだいぶ時間は経ったが予定は未定のままである。

予定は未定とカッコつけた言い方をしたが、そもそも私はバイクの免許をもっていないし、車の免許もオートマ限定である。原付さえ乗れる自信がない。18歳の時に自動車学校に通って免許は取得できたのだが、その道は険しく、当時担当してくれた教官に「私はこの仕事を始めて20年になるが、君ほど運転が下手くそな子は初めてだ」と言われ、試験も2回落ちた(仮免試験の不合格もいれたら3回)。自動車学校を卒業した日、もう二度とここには来ないと誓い、バイクにまたがる夢も忘れ去られていった。

ラバーソールとSR400は当時憧れていたロックバンドのマストアイテムで、ティアドロップのサングラス、ライダースの革ジャン、ドクターマーチンのラバーソールみたいなものに大人になった私は身を包んでいるはずだった。

高校生のときは、ロック、ロックと馬鹿の一つ覚えのように唱えていた。それはまるで“煙突”のようで、一本柱が土深くに突き刺さった様な子供だった。歳をとるにつれ、ポップスもジャズもヒップホップも聴く様になり、煙突は四方八方に枝葉を生やした。ラッキーなことに作曲を覚えていくつかの実を実らせたので、悔いはないが、あれはあれで潔くて良かったと思う。

さて、こんなことをふと思い出したのは、YAMAHA SR400が今年、国内向けの生産を終了するというのニュースを目にしたからだ。永久に私を待っていてくれていると思っていたSR400にも時代の風は優しくなかった。

さあ、どうしよう。 今からでも間に合う!バイクの免許を取りに行くか?

いや、やめておこう。私はオートマ限定で十分。
ツアーでつかうハイエースさえ運転できれば満足だ。

ただ、いま思うことは、着たい服は着たい時に、聴きたい音楽は聴きたい時に、伝えたいことは伝えられる時に…そういうシンプルはことだったりする。
そして、これはかなりロックなマインドだと思う。

私のなかでいまもまだ、ロックの煙突はもくもくと煙を吐きつづけている。

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