1/fって何すか。2019.06月号

 <#63 サングラスをしたいVS自意識過剰>

夏になったらサングラスをしたい。日差しが強かろうと、曇っていようと、サングラスをかけている大人はかっこいいから。しかし、サングラスと帽子はそれを身につける人を選ぶ。難易度高めのアイテム。昔、大人になったらレイバンのサングラス、ドクターマーチンのラバーソール、ギブソンの黒のレスポールを買うと決めていたのに、私はまだ何一つ手に入れていない。
 

 大学生の頃、友人と初めて野外フェスに行った夏の晴れた日、私はバッグに安いサングラスを忍ばせて会場へ向かった。その日が私のサングラスデビューの日になるはずだった。しかし、そんな時に限ってフラッシュバックする思い出があった。
 

 時はさかのぼり、中学3年生の秋の修学旅行で京都へ行った時のこと。男子校であった我々は思春期真っ最中。偏った環境からついに飛び出す日がきたわけで、生徒たちは色気づきまくっていた。可能な限りのオシャレをして集まった。初日に金髪にしてきて、集合場所の鹿児島中央駅(当時の西鹿児島駅)で即帰宅させられる奴もいた。そんななか、私と同じ班だった近藤くんはサングラスをかけてきた。それはあまりにダサかった。真っ黒の台形のレンズに、シルバーのフレーム。指名手配中の強盗犯かよ。しかし、近藤くんの自尊心を傷つけることを恐れ、私たちは何も言えないまま、学生服を着た指名手配犯と三日間の行動を強いられた。それ以降、私はサングラスをかけようとすると、自分が近藤くんみたいに思われたらどうしようという自意識過剰が発動する。初めて行った夏フェスで、私のサングラスはバッグにしまわれたまま日没を迎えた。
 

 我がバンドにも一人、オシャレにこだわりのあるメンバーがいる。この回想記の上でおそらく今日もクセ強めのコラムを書いているであろう彼。先日、彼もサングラスをかけてきた。それは映画「アウトレイジ」で加瀬亮さん演じる石原がかけていたような、レンズの大きさが親指の先くらいの小ささで、色は紫色だった。紫!「ちょっと貸して」と言って私はそれを借り、鏡をのぞいた。「全然似合わないや」と言って返すと、彼は言った「こんなサングラス、誰も特別似合いやしないよ」。着たいから着る、かけたいからかける。人の目は気にしない。そんな彼の事がとても羨ましくなった。彼の姿はとても眩しかった。真夏の日差しのように。なんつって。

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