1/fって何すか。2015.09月号

<#19 小学生の頃の話3 -お兄ちゃん今何してる->

 6歳離れた兄は私にとって脅威だった。ある日、母親がコカコーラを早く冷やそうと冷凍庫に入れたまま仕事へ行き、それが冷凍庫の中で凍って膨張し、破裂していたことがあった。兄はそれを、私の仕業だっと言った。「僕じゃない、お母さんだよ」と私が言っても聞かず、兄は私を殴った。

母が仕事から帰ってきて、「これ、私よ」と言った。「ほら、言ったじゃないか。謝ってくれ。」と私が言っても聞かず、兄は私を蹴りとばした。

 私は中学に進学するため家を出て寮生活を始め、同じ年に兄は予備校へ行くために家を出た。四人家族だった我が家は急に両親だけになり、それなりに寂しかったと思う。まあ、後々寂しがってる場合ではなくなってくるのだが、その事についてはフリーペーパーに書ける内容ではないので控える。

 『神は私に微笑んだ!』と思ったのは、私に中学の合格の電報が届き、兄が大学受験に失敗した、あの瞬間だけだった。その後、私は中学の寮で陰惨なイジメに合い、兄は親元を離れた予備校ライフを満喫していた(ように見えた)。

 自分が弟でなく、長男だったらと、何度か思った。しかし、もしドラえもん的な何かの装置で、それが現実になったとして、私は幸せになる保証はどこにもない。私が見ている世界を兄が知らないのと同様にまた、私は兄の生きる世界を解らない。兄は兄で、私や、あるいは両親には知り得ぬ苦しみがあったのだろう。それを解り合おうとは一切思わないが、きっとそうなのだから、比べるのはもうやめようと思っている。

 そう思うようになってから、神さまに、「そっちじゃない、こっちだと」と言って手招きしていた私も、今では時として「こっちじゃない、あっちだ」と兄の方を指差すようになった。

神はそれを見てか見ずしてか、兄に微笑んだ。

兄に子供ができたのだ。(私に甥ができたことになる。)
私はすごく嬉しかった。嬉しがっている自分がいることもまた、嬉しかった。私は私の事以外で、初めて神に感謝したかもしれない。

私はいつかその甥に教えたい。「コカコーラは決して冷凍庫には入れてはいけない。」と。


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